明かせぬ正体完全版 ~最強の糸使いは復讐の死神となる~

ポルカ@明かせぬ正体

第一部

第1話 プロローグ


 魔法の明かりが灯された街灯が照らす、夜の街。

 晩冬といってよいこの時期は、夜風が吹くと耳が冷たく痛む。


「おぅおぅ、白豚ちゃん! 俺のこと覚えているかよ!? ガハハハハ」


 オールバックの黒髪に、顎には切り揃えられた髭の男。

 そいつは重鎧プレートメイルを鳴らしながら、尊大な態度で俺の方に歩いてきた。


 右手には背丈以上の巨大な斧を担いでいる。

 その通り道にいた野次馬の数人が、邪魔だとばかりにその男に突き倒されていく。


「うわ、エブスだ……」


 俺の近くにいた野次馬が青い顔をして、斧を担ぐ男を指さす。


「エブスだ! 『KAZU』副団長の、エブスだぞ!」


 別な野次馬が、裏返った声で叫んだ。

『KAZU』とは史上最悪と言われた、元極悪PKギルドの名である。


「ま、マジかよ……!?」


「おい、あいつはやべえって……早く下がれ! 早く!」


 それを耳にした野次馬たちが震えた声を発すると、一斉に後ずさり、その男から離れる。

 エブスと呼ばれた男は、海が割れるように出来上がった道をまっすぐ闊歩してきた。


 その侮蔑するのに慣れた、吊り上がった目で俺を見下す顔。


 相変わらず、笑わせてくれる。


 この男が言う白豚ちゃんとは、俺のことを指している。

 豹変してしまった俺の外見を嘲笑しているのだ。


 九か月ほど前。

 俺たちプレイヤーは、突然ゲーム内に囚われた。


 その中で俺だけ、変わったアイテムのせいで200㎝、200㎏の体型のまま、変更できなくなっていた。


 姿形が変わったせいか倉庫アクセスもできず、重量ペナルティのためにほとんどすべての能力を失っていた。


 まさに八方塞がりだった。

 手持ちの資金を失い、生きるのに必死だった俺は、家畜の飼料を食べて道端に寝転がっていたくらいだ。


 この男はそんな俺を卑下し、嘲笑い、弄んだ。


 バキバキと音を立てて、歯が折られていったあの時を思い出す。

 高笑いされながら吐かれた言葉を思い出せば、今でも烈火のごとく怒りが燃え滾る。


 力を失っていた俺はあの時、一方的にやられ、その残虐な仕打ちに日々泣き寝入りするしかなかった。


 もちろん、そんな仕打ちを忘れた日など、一日たりとてない。


 今、眼の前で人を食ったような笑いを浮かべるその男。

 また俺をいたぶって酒の肴にでもするつもりなのだろう。


「ああ、お前、確か『KAZU』の三下だろ? 名前は……存在感薄くて忘れたよ」


 誰かがはっと息を呑むのが聞こえた。

 まわりにいた人垣は、俺が泣いて詫びて、奴の靴でも舐めると思っていたのだろう。


 喰ったような俺の返答に唖然とし、静まり返った。 


「……おい、てめぇ……」


 傲慢な表情を浮かべていた男の顔が、怒りに歪んでいく。


「ククク、天下の『KAZU』メンバーに舐めた口きくとどうなるか、わかってねぇようだな」


 男が斧を掲げると、頭上でぶんぶんと振り回し始めた。

 精いっぱいの威嚇のつもりなのだろう。


(わかってねぇ、か……)


 俺はその皮肉な物言いに笑った。

 それ以上に、この男は大変な事実をわかっていない。


 ――俺がすでに、力を取り戻しているということを。


 プレイヤー最強と呼ばれた、【剪断の手】の力を。




 ――――――――――――――――――――――――


 ご来訪くださりありがとうございます。

『明かせぬ正体』はゼノン編集部様にてコミカライズされており、とてもおもしろく描いて頂いておりますので、ぜひそちらも御覧ください。


 https://comic-zenon.com/episode/4856001361118693555


 ポルカの別作もよければお読みくださると嬉しいです。

 色々書きましたが、『縁の下のチカラモチャー』が人気作となりました。


 また、『気遣い魔王』がただいまの新作です。一話目だけでもよければぜひぜひ。

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