第10話 8歳の誕生日
今日で8歳になる。
今までずっと勉強・武術を頑張ってきた。
そのおかげで、王族教育はいくつかの科目は終えてしまった。
歴史、文化、地理、政治、経済はもう学ぶことはないということで授業が終わったのだ。
まぁ、政治、経済は前世での知識もあるので勉強することが大して苦ではなかったが。
礼儀作法と文学はまだ続いている。
前世では礼儀作法とは無縁の生活を送っていたので、他科目より時間がかかってしまっている。それでも、あと数ヶ月で終わると思う。3年前の社交会では、15歳の子供が踊るような見事なダンスを踊ったのだ。数年すれば成人並みには踊れるようになった。
文学は、作品数が多いためすべてを読み切るのに時間がかかっている。他言語の勉強や書庫で専門書を読んでいたりしていたので、文学作品を読む時間はあまりとれていなかったのだ。まぁ、これもあと数ヶ月で終わるだろう。
それと、兵法の授業もまだ続いている。
これはかなり時間がかかっている。というのも、どういった地形ではどのような戦術が効果的なのかを学び、その後に過去の戦の例を覚えていかないといけないのだ。法学の勉強に似ているが、法学とは全く異なる科目だ。それに、前世では戦争のない平和な日本でのほほんと暮らしていたため、実際の戦争がどういったものなのか具体的に想像できず、学んでいるという実感がわかないのだ。こればかりはあと数年は続きそうだ。
魔法と魔術は現代人間語・現代魔術言語・古代人間語・古代魔術言語の4つを習得できた。
これで、この国の宮廷魔術師長と同じだけの力を手に入れてしまった。
あと、無詠唱魔法は
けれど、無属性魔法の索敵魔法を一日中展開することは今も続けており、2年前は半径5mほどの索敵圏だったが、今では半径50mにもなった。成長しただろ?
それと、特殊属性の魔法は、無・精神・契約・自然・光・闇・付与・毒・治癒・電気・重力が仕えた。最後の2つの属性は古代魔術言語じゃないと使えなかったが、まぁ、俺は特殊属性のほとんどを使えた。
次は古代エルフ文字を覚えようと思うのだが、この国にはおろか、どの国にも使える人間はいないらしい。
どうやら、古代エルフ文字を使えるのはエルフしかいないようだ。
けれど、書庫に古代エルフ文字についての本があったのだ。エルフ語で書かれていたが。
そのため、古代エルフ文字は完全独学になりそうだ。
ちなみに、俺に古代人間語と古代魔術言語を教えていたサラ先生は宮廷魔術師長に出世した。古代言語を2つも使えるのだ。すぐに出世して当然だ。
魔道具と錬金術はお父様に基本的なことだけを学べばいいと言われたが、おもしろいためずっと勉強している。
魔道具の製作は想像以上に難しかった。
魔道具は所定の位置から魔力を流し込み、回路を伝って発動場所まで魔力が流れることで発動する。発動する術の種類は回路の
わかりやすく言うと、
『〇〇〇の素材を用いて魔力回路を魔力入力台から2cm直進、左に折れて1.3cm直進、その後1周当たり半径1cm、高さ0.5cmの螺旋を描きながら3cm上昇したところまで描き、そこに発動台を設置すると×××の魔道具ができる』
ていう感じだ。パズルのようで、学んでいてとても面白い。
錬金術はとても役立つ。
薬の調合を主に勉強しているが、武器の作成も可能らしい。薬の調合がある程度できるようになったら武器の作成の練習をするつもりだ。
剣術・体術は3歳の時から変わらず、毎日2時間練習している。
まぁ、王族教育はこんなもんだ。
それと、エルフ語とドワーフ語を習得した。
あと1年ほどかかると思っていたのだが、予想以上に早く習得できてとても嬉しい。
エルフ語とドワーフ語の最後の授業の日の夜には、お父様とお母様に呼ばれ、ソフィアと一緒に4人で談笑し、習得した言葉を実演した。
すると、皆褒めてくれた。
お父様は獣人語を、お母様はエルフ語を使えるため、お父様とは獣人語で、お母様とはエルフ語でいくつか会話をしたが、
そういうわけで、俺はかなり沢山のことを学んだ。
けれど、書庫にあるエルフ語とドワーフ語の本はまだ1冊も読んでいないので、勉強することはまだまだ沢山あり、俺は暇を持て余すことなく、毎日楽しくしている。
ソフィアも勉強に熱心で、既に文字をすべて覚えたのだ。俺が言えることではないが、5歳で既に文字を覚えたのだ。ソフィアの勉強熱心な姿をヘルマン兄様に見せたいものだ。
まぁ、そういうわけで今日で俺は8歳になる。
というわけで、誕生日パーティーが開かれることになった。
この国では、8歳と16歳の子供の誕生日を祝いのが通例らしい。
といっても、家族だけでのパーティーで、貴族たちは来ないので気が楽だ。
そして、今日はお婆様とヘルマン兄様もこのパーティーに来るのだ。
楽しいパーティーになるかどうか不安だが、いつもの夕食のように2人がすぐに退室してくれることを祈った。
* * *
パーティーの時間になった。
「ランス、誕生日おめでとう!」
「「おめでとう!」」
お父さん、お母さん、ソフィアの3人にそう言ってもらった。
お婆様とヘルマン兄様は祝いの言葉を述べずに、俺を
まったく、2人は俺が生まれたときから何も変わっていない。
まぁ、他人に
特に、お婆様。5歳の時のパーティーの時と同様に、今の彼女は俺を
まぁ、2人のことを気にしていてもパーティーを楽しむことはできないので、2人を気にしないことにした。
「ランス。誕生日プレゼントを用意したよ」
おっ! お父様、プレゼントを用意してくれたのか!
お父様に渡されたのは、底辺が1辺5cmほどの正方形、高さが40cmほどある直方体の包みだ。
「今包みを解きなさい」
そう言われたので、期待に胸を膨らませながら包みを解いた。
すると、中にあったのは魔法の杖だった。
「ランスは古代言語を2つも使えるというのに、
うん。これはかなりの業物だ。
杖は長さ30cm強の枝でできており、持ち手の部分に深紅の水晶がつけられている。
枝は恐らくキノヒの枝だ。キノヒの木はラノア王公国とアルム合衆国の間にある大森林に生えており、そこには凶暴な魔物が多く生息しているため伐採が困難なのだ。けれど、キノヒの枝を使った杖には魔力を増幅する効果があり、より強い魔法が撃てるようになるのだ。
それに加えて、持ち手部分の深紅の水晶はおそらく火炎の水晶だろう。
これは火山周辺に見られる鉱物で、おそらく深成岩の一種であろう。そのため、見つけることも困難なのだ。けれど、火炎の水晶には魔力の移動速度を上げる効果があるのだ。例えば、
すなはち、この魔法の杖は国宝に準ずる業物なのだ。
「お父様、こんなに素晴らしい杖をありがとうございます!」
「ランスが喜んでくれて、儂はとっても嬉しいよ」
俺が高価なプレゼントをもらったということで、ヘルマン兄様が俺に嫉妬の眼差しを向けてくる。
「お父様、俺の時には本をプレゼントして下さっというのに、どうしてランスには魔法の杖をプレゼントするのですか?」
「ヘルマンには魔法の適性はないだろ? ヘルマンに魔法の杖をやっても意味ないから本をプレゼントしたのだ。もしかして、剣が良かったのか?」
「いいえ。本と魔法の杖では価値が違いすぎませんか? ランスにはこんなにも高価な魔法の杖をプレゼントし、俺には何故欲しくもない無価値な本をプレゼントしたのですか?」
「わかったから、来年はヘルマンも16になるだろう。そのときにヘルマンが欲しいものをプレゼントするから、それまで我慢するのだ」
「数日中に欲しいです!」
ヤバい。ヘルマン兄様が我儘が暴走している。
「それほど我儘だったら、国王なんて務まらないぞ。王族たるもの、国民のために身を粉にして働くことが義務なのだ。故に、我儘であってはいけない。ヘルマンはもう15歳なのだ。そろそろ国王に相応しい振る舞いをしないといけない。駄々をこねるのもそろそろ止めぬか」
「国王が我儘で何が悪い! 国民は国王に付き従うことが義務なのだ! 国王が何をしようとも、国王の勝手ではないですか!」
あっ。
今、言ってはいけないことを言った。
これは、お父様を怒らせたに違いない。
罵声がこの場に鳴り響くことになるだろう。
はぁ。
どうして俺の誕生日パーティーがこんなことになってしまったんだろう。
けれど、お父様から罵声が発せられることはなかった。
お父様は淡々とした口調で話し始めた。
「ヘルマン、お前は国王に向いていない。お前が王になると国民が困窮することになりかねない」
「だからなんですか? そうなって何がいけないのです?!」
「数百年続くラノア王国をお前の代で
「だから、それの何が悪いと言うのですか?!」
「先代から続くこの王国を儂は後世にも残していきたい。次代でラノア王国が潰れるなんてことは絶対にさせない。だから儂は決めた」
お父様は次の言葉を言う前に一呼吸置いた。
「王太子をランスにする」
えっ?!
俺が王太子?
そりゃあ、今のヘルマン兄様が王位を継げば国が荒れるに違いないけど、ヘルマン兄様を再教育するっていう手段もあるのに、どうしてこうなったの?
「ライオノール。あなた正気?」
「エルマ、儂は決めた。ヘルマンなんかにこの国を任せるのは危険だと判断した。故に、次代の王をランスにする」
「お父様、どうして俺が国王ではダメなのですか?」
「言っただろ。お前が国王になると国が潰れかねない」
お婆様とヘルマン兄様がお父様を必死に説得しようとするが、お父様は聞く耳を持っていない。
それより、俺が今混乱している。
俺なんかが国王になっても大丈夫なのか?
大体、貴族や騎士団、魔法師団、魔術師団の人たちとまだ人脈の無い俺が王太子なんかになって、いいのか?
でも、考えてみれば、ヘルマン兄様が俺以上の人脈を持っているはずが無いよな。
社交界では毎度失敗するし、メイドや料理人を何人かクビにしていると聞いたし、授業をまともに受けないし、俺以上の人脈を作る事なんて不可能だろう。
じゃあ、俺が王位を継いだ方がいいのか?
あれこれと思考をしていると、お父様の怒鳴り声がいきなり響いた。
「お前たち2人が何と言おうともこの決定を変えるつもりはない。今日は部屋に帰れ!」
そう言うと2人は畏縮し、部屋から出て行った。
「ランス、ごめんよ。折角の誕生日パーティーがこんなことになってしまって」
「いいえ……それより、さっきお父様が言ったことは本当なのですか?」
「あぁ。儂は3年前のパーティーでヘルマンがフレアに尻もちをつかせたところを見てお前に王位を継がせようと決心したのだ。きっかけが欲しかったのだが、ちょうどいい機会だと思い今日2人にあのように言った」
「お母様も知っていたのですか?」
「いいえ。ランスが王太子になるかもしれないとは考えていたけれど、ライオノールから直接聞いたことはなかったわ」
そうだったのか。
3年前から俺を王太子にすることは決めていたのか。
だから俺に数多くの勉強をさせたり、フレアやサリーと仲良くなろうとも何も言わなかったのか。
「雰囲気が悪くなったが、4人でパーティーを続けよう!」
お父様がそう言い、パーティーを続けることになった。
「そうだ、ランス。明日、国民にランスを王太子にすることを宣言する。というわけで、スピーチを考えておいて」
「えっ! いきなりそんなことを言われても……『ピクニックに行こう!』と同じノリで言われても困ります。それで、どこで行うのですか?」
「城壁の上でやるよ。国民には明日城門前に集まるよう周知してある」
「なんという手際の良さ……もしかして、俺の誕生日パーティーでヘルマン兄様が我儘を言うことを見越していたのですか?」
「いや、あれは想定外だった。本当なら、パーティーの終わりに皆に言うつもりだったのだ。さっきはヘルマンの発言にイラッとしてしまって、言いたいことを全部言ってしまったって感じだな」
さっきのヘルマン兄様は国民を奴隷としかおもっていないような発言をしていたからな。あんなのが次代の王なんて、笑い話だよ。
* * *
ちくしょう! ヘルマンが国王になれば、この国はダリア共和国の物になったというのに。
ヘルマンを我儘に育てたのも、ヘルマンが国王になった時に、勉強をしてこなかったがために政治に
あと少しで私の
よくも私の邪魔をしたな、ランス!
こうなったら、ラノアにダリアから進軍させてやるんだから。
でも、ラノアに進軍すると私とヘルマンが人質になりかねない……。
それなら、数日中にでもこの城からヘルマンと一緒に抜け出そうかしら……。
でも、ライオノールが生きていたら密約違反になりかねないからなぁ……。
しかたない。
ライオノールには死んでもらおう。
その後ヘルマンと一緒にダリアに逃げて、ダリアから進軍すればいいのか。
ついでにランス、ナナリー、ソフィアにも死んでもらおう。
そうすれば、王族が一人もいなくなったこの国は
それで私は、ラノア王国に嫁いで工作し、ラノア王国を墜とす立役者にされるのだわ。
フフッ……。
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