エピソード51-45

インベントリ内 休憩所 VIP席――


 そのあと静流は、魔力を著しく消耗し、三人掛けソファーに薫子の膝枕で横になっていた。


「静流……もう限界よ!? ドクターに診てもらいましょう!」

「そんな大袈裟な……もうじき終わるから、大丈夫だよ……」

「薫子! 静流の看病は私がやる! 退いて!」

「忍、そんな事言ってる場合じゃないでしょ? 全くもう……」


 そんなやり取りを見ていて、達也がボソッと呟いた。


「静流の奴……本当にヤバいんじゃないスか? 先輩?」

「せやな……最後のドクポも無うなってもうたし……」

「お静! しっかりしろ!」

「静流様……すいません、無理させてしまって……」


「大丈夫だから……気にしないで」


 みんなの声掛けに、静流は苦笑いで応えた。


「あたし、あの先生呼んで来る!」


 目の前の光景にいたたまれなくなった真琴が、決心して立ち上がろうとしたその時、部員が駆け足で報告に来た。


「皆さん! 本日のイベント、全て終わりました!」


「「よっしゃぁー!!」」 


 それを聞いたカナメたちは、思わずハイタッチした。


「おい静流! 終わったみたいだぜ? よく頑張ったな!」

「なんとか持ちこたえみたいやな! ヒヤヒヤさせおってからにぃ!」


 カナメと達也にねぎらいの言葉をかけられた静流。


「お……終わった、の? ふぅ。良かった……穴をあけないで終われた……」 

「ちょっと、静流!? 大丈夫なの?」

 

 薫子が呼びかけるが、安堵のためか、静流の意識が薄らいでいく。

 するとそこに、睦美とレプリカたちが来た。


「どうも! お疲れ様でした皆さん。 本日は予想を遥かに上回る結果に――」


 睦美の挨拶も全て聞かず、忍が睦美に食って掛かった。


「睦美!? どうしてくれるの? 静流が魔力切れ起こしてるのよ!」

「ぐぇ……そ、その件につきましては……済まなかった静流キュン」


 鬼の形相の忍に胸倉を掴まれ、たじろぎながら睦美が静流に謝った。


「だ、大丈夫、です。それより、レプリカのみんなは?」

「い、今連れて来た。ココにいる」


 静流は横になりながら、睦美たちの方を見た。

 睦美の少し離れた横で、四人のレプリカがオリジンの静流を見ていた。


「おいおい、ボク大丈夫なのか?」

「ゴメン、さっきちょっと魔法使った。そのせい?」

「多分魔力切れ起こしてるんでしょ? 寝れば治るよ……多分?」


 矢継ぎ早に三人のレプリカが話しかけた。

 そして最後のレプリカがイラつきながら言った。


「先生! いい加減離れてボクの本体を診てあげて下さいよ!」

「イヤよ! だって、もう過ぐ消えちゃうんでしょ? もう少し、このままでいさせてよ!」


 ジンに扮したレプリカに、先ほどから抱き付いたままになっているカチュア。

 ジンがカチュアを引きはがそうとしていた時、さらなる衝撃がジンを襲った。


「ジ、ジン様ぁ~!!」

「うごぉ!? な、鳴海マネ!?」


 ジンに危険タックルをかまし、胸に頬ズリしてきたのは、シズムとユズルのマネージャーである鳴海ショウコだった。 


「あぁ、ジン様、やっとお会い出来た……私がミフネに入社したのは、アナタにお会いする為だった……」

「ちょっとアナタ、私のジン様に気安く触らないで頂戴!」

「アナタの? 笑止! ジン様は、みんなのものです!」


「「きぃ~!!!」」 


 カチュアと鳴海が、ジンを挟んでガンを飛ばし合っている。

 それを見ていた静流が、青い顔でツッコミを入れた。


「ジンさん、朔也さんは確かシレーヌさんの旦那さんでしたよね?」


 そのツッコミに、二人が反応した。


「代表は『内縁の妻』です。戸籍上は『男』ですから、入籍は出来ません!」チャ

「思い出した! アイツめ……タダじゃおかないから!」


 カチュアが伝説の闇医者『黒孔雀』を名乗っていた頃、七本木ジンのマネージャーであった三船四郎は、カチュアに頼んで『性転換魔法』で女になり、名をシレーヌと改名した。

 カチュアのシレーヌへの怒りは、成功報酬であった、『ジンに会わせる』という行為が、結果的に実現しなかったからである。

 ちなみに、日本はジェンダー問題には遅れをとっており、法的に性転換が認められていない事や、同性での結婚は認めれらていない。


「っていうかボク、もう疲れたから早く本体の細胞の一つに戻りたいんだけど?」

「イヤ! 消えないで……私からジン様を奪わないで!」

「私だって! たまにはワガママ言いたい時だってあるのです!」チャ

「そう言われても……参ったなぁ……」


 ジンは困り果て、周囲の者に助けを求めた。


「お二人共、本物の朔也さんは、僕が必ず見つけ出しますから……信じて下さい」


 静流が息絶え絶えに言った言葉で、カチュアたちが急に大人しくなった。


「……御免なさい静流クン、どうかしてた」

「私も、取り乱してすいませんでした……」


 いつもの冷静な二人に戻ったかのように見えたが……


「お願い! 写真だけ撮らせて!?」ガシッ

「私も……端末の待ち受け画面、欲しいです!」ガシッ

「ち、ちょっと、コレって残業? うわぁぁ」


 そう言って二人は、ジンの腕にそれぞれがまとわりつき、ジンを引きずりながら強制的に隅っこに消えて行った。


「たくましい人たちやな……」

「放って置いてあげましょう。武士の情けよ」

「レプリカよりオリジン! 早く処置しないと……」

 

 と言った忍も、何処から手を付けたら良いか、迷っていた。

 そんな時、VIP席に入って来た者がいた。


「静流クン! 無事なの?」ハァハァ 

「リリィさん!? どうしたの慌てて?」


 リリィは何も知らず、レプリカの静流に話しかけた。


「なぁんだ。結構元気そうじゃない? 少佐の早トチリか……」


 リリィは勝手に安堵し、胸を撫で下ろした。


「少佐……? リリィさん、アマンダさんが……ココに来てるんですか?」


 静流の声が聞こえ、リリィが声のした方を見た。

 三人掛けソファーで横になり、青い顔をした静流が目に入った。


「へ? 静流クン!? ちょっと、大丈夫なの?」

「多分、見たままの状態だと思います……」


 今しがた会話したのがレプリカだった事がわかり、大いに慌てたリリィ。

 少し離れた所で、ジンに扮したレプリカと何かしているカチュアたちに、大声で話しかけた。


「ちょっとドクター!? 早く彼を診てあげて下さいよーっ!」

「今、忙しくてそれどころじゃないの! ほっといて頂戴!」

「そうです! ジン様との貴重な時間、邪魔しないで頂きたいです!」チャ

「ダメだわ、こりゃ……」


 リリィは手を広げ、『オーマイガー』のポーズをとった。

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