エピソード51-42

インベントリ内 出口付近――


 プレイルームから出て来た三人のモブ子たち。


「ふう、あっという間の夢体験でしたね……」

「このイベ自体が主体で、頒布品の方がオマケでもイイくらいなのであります」

「コミマケ以外でも、開催してはもらえないのでしょうか?」


 前方で部員が例の言葉を発していた。


「こちらで後処理出来まぁーす! おしりふきも完備でぇーっす!」

「使用済みの紙おむつは、こちらにお願いしまーす」


 部員が仮眠室にあったものと同じ、電話ボックス程の大きさの部屋が5基並んでいる所を指さした。

 プレイルームから出て来たユーザーたちが次々にボックスに入り、後処理を済ませていた。


「うへぇ、今気付いたけど、スゴい事になってます……」

「自分も、大洪水であります……この紙オムツ、何気に高性能なのでありますね……」

「早く穿き替えて、皆さんと合流しましょう」


 処理を済ませた所に、部員が声をかけて来た。  


「お疲れ様でしたっ。 こちらをお飲み下さい」


 部員から丸薬の様なものを渡された。


「これは?」

「貧血に効く丸薬です。増血、メンタルキュア、滋養強壮の効果が得られますっ!」


 イベント参加中に鼻血等で失われた血液を補うものとして、恐らくカチュアが調合した薬であろう。


「至れり尽くせり、でありますな。では頂くであります。パク」

「私たちも飲みましょう。 パク」


 三人が薬を口に放り込んだ。


「「「ぱぴぃ~!!」」」


 薬を飲んだ直後、全身が黄色いオーラに包まれた。


「力が……みなぎるのであります!」

「感覚は、アノ『電気ウナギパイ』に似てますね」

「今夜はグッスリ眠れそうです」


 丸薬により、身も心もリラックスした三人が、出口の方向に歩いていると、長机が用意されているスペースがあった。


「よろしければ、アンケートにご記入お願いします!」


 長机にはアンケート用紙とペンが用意してあり、投函用のポストが置いてあった。


「一筆したためますか? 先程の要望」

「そうですね。書きましょう」


 三人はマークシートに記入したあと、要望を書き込む欄に思いの丈をつづった。

 ポストに投函し、インベントリを出ると、献血カーに戻って来た。


「うわ……何か眩しい」

「ご利用、ありがとうございましたっ!」


 部員に見送られ、献血カーを出た三人。

 すると、近くに見知った者たちがたむろしていた。


「お疲れ様」

「あれ? お待たせしちゃいました?」

「私たちもさっき出て来た所よ。みんな揃ったわね? じゃあカフェで反省会するわよ!」


 そう言ってミランダは、カフェがある建物にみんなを誘導した。




              ◆ ◆ ◆ ◆




国分尼寺魔導高校 桃魔術研究会 第一部室――


 部室では、明日の分の頒布品の調達に部員たちはバタバタしていた。

 インベントリの管理事務所から、左京と白黒ミサが部室に戻って来た。


「お疲れ様です!」

「ご苦労。現在の在庫を確認したか?」

「はい。只今1000部弱です。あとは、ネット販売用に刷ったものが500部程あります」

「フム。概ね想定通りか。みんな、聞いてくれ。実はあと500部程都合したいのだ」


「「「えぇ~!!」」」


 黒ミサの発言に、衝撃を受ける部員たち。


「あと500部……ですか?」ざわ…

「今発注しても、到底間に合いませんよ……」ざわ…


 部員たちに不安がよぎった。

 場の空気を感じ、白黒ミサが語気を強めた。


「狼狽えるな! 策はある!」  

「今必要なのは、出来るだけ上質な紙なの」


 ざわついていた場が、しんと静まった。

 続いて左京が部員たちに聞いた。 


「『生徒会報』に使用する紙があったと思うのだが、わかるものは?」

「はい! 私が把握しております!」

「500部刷るのにまかなえそうか?」

「そうですね……微妙です」

「確か、ミスプリで回収したボツの会報もあったと思うが?」

「それも含めれば、何とかイケそうです」

「よし、直ぐに用意するのだ! 急げ!」


「「「「御意!」」」」


 数人の部員が一礼し、部室を出て行った。


「あとはシズムンに連絡して、こちらにお越し頂けば、取り敢えず準備完了だな」




              ◆ ◆ ◆ ◆




レストラン『ロイヤル・ストレート・スラッシャー』―― 


 イベント参加後に合流したモブ子たち。企業ブース脇のレストランで軽食をとっていた。


「取り敢えずはバレずに参加出来たみたいね? ウチは問題無しだったわよ? みんなは?」

「もう、バッチリです」

「こちらも問題無いと思う」


 ミランダの問いに、エバとコロネは即答した。


「アナタの班は? ルリ子さん?」

「ウ、ウチの班も問題は無かったわよね? ミノーリ?」

「え、ええ……問題無いと、思います……」


 歯切れの悪い返事に、ミランダは眉間にしわを寄せた。


「むぅ……何か引っかかるわね。 まさか、誰かにバレたんじゃないでしょうね?」

「とと、とんでもない! 第一、バレていたらタダで済んでませんよ……」


 ミランダに睨まれ、ルリ子とミノーリの目が泳いでいる。


「それもそうね。 ま、イイわ。 で、本物の静流クンはどのルームにいたと思う?」


 その問いに、一斉に手が上がった。


「絶対Aだよ! 自信あるもん!」

「B……です。 恐らく」

「Cだ! 間違いない!」

「Dです! 根拠もあります!」


 ミランダの問いに、それぞれが自分が行ったルームで相手をしたのが本物の静流だと主張した。


「エバ、その根拠とやらは?」

「Dにいたシズミ君は、私たちの事を知っていると言いました!」

「それだったらウチのシズベールだって、七本木ジンの本名を知っていたぞ!」

「ウチだって、彼の口から『アマンダさん』というワードが出た時点で確信したの!」


 ミランダは、先ほどから怪しい仕草のルリ子に聞いた。


「ルリ子、アナタの根拠は?」

「以前、太刀川に赴いた事がある、との言質を得ました……」


 すべての意見について、どれも本物を裏付けるには十分な根拠だった。


「……どういう事? みんなにそれらしい根拠があるなんて……」


 全員が腕を組み、首を傾げている。

 すると、別のテーブルから声がかかった。


「悩んでても、答えなんか出ないよ?」


「「「「リリィ!!」」」」


 声をかけて来たのは、リリィだった。


「お疲れ様。どうやら上手く潜り込めたみたいね?」

「リリィ、カラクリがわかってるなら、説明しなさい!」


 ミランダはイラつきながら、リリィに詰め寄った。


「まぁまぁ落ち着いて下さい少佐殿。静流クンにとって、喜ばしい成果なんだから」


 リリィがミランダをなだめ、椅子に座らせる。


「勿体ぶらないで、早く説明しなさい!」フー、フー

「わかりましたよ。実はですね、先ほど四つの部屋にいたのは、静流クンの『レプリカ』なのです!」



「「「「な、なんですって!?」」」」



 リリィはこれまでの経緯を、かいつまんで説明した。


「……つまり、さっき私たちの相手をしてくれたのは、静流クンが魔法で生み出したレプリカという事?」

「そうです。しかも、個体別に独立した意識を持っている状態で、ですよ? スゴくないですか?」


 ドヤ顔で得意げに話すリリィ。 

 ミランダは顎に手をやり、少し考えたあと、リリィに聞いた。


「リリィ、静流クンのレプリカ、その状態で何組相手してるの?」

「そうですね、かれこれ30組くらいずつ、でしょうか? もう過ぐ今日の分は終わるらしいです」


 リリィの話を聞き、ミランダの顔が歪んだ。


「少佐殿? どうしました?」

「アンタ、この状況がわからないの? 全くおめでたいわね」

「ど、どういう事でありますか? 少佐殿?」


 ドスの効いたミランダの口調に驚いたシノは、理由を聞かずにはいられなかった。


「全くもう。ぶっつけ本番でやるとロクな事にならないって、彼自身がイヤと言う程味わってるのに……バカな子ね」


 静流は今までにも、魔法実験等で魔力を使い過ぎて倒れるような事があった。

 その都度『無茶はしないように』とアマンダに念を押されているのであった。


「……つまり、今の静流クンの状態って?」

「かなりヤバいわね。例えるなら、ターボ付きの車は通常、ブーストの制御をコンピューターでやるわよね?」

「確かに。レース用はドライバーがやる場合もありますけど」

「……今の静流クンは、ブーストの制御を全くやってない、状態だと思うの」

「つまり、それって?」

「最初から物凄いブーストがかかってる状態で、このままじゃエンジンに尋常じゃないダメージが生じる、って事」


「「「「えぇっ!!」」」」


 一同に緊張が走った。 


「それって、マズいって事じゃないですか!?」

「すぐに止めさせましょう! 静流様にもしもの事があったら……」


 ミノーリとモエミがワタワタと狼狽え始めた。


「落ち着いて。面が割れてるのは、リリィ、アナタだけよ。 様子を見てヤバい状態なら姉さんに診てもらって頂戴!」

「り、了解!」


 リリィは立ち上がり、献血カーの方に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る