エピソード51-41

インベントリ内 プレイルーム――


 ルームD入口前に、レヴィ、佳乃、萌ががいた。


「コードネームを確認。私はエバ」

「自分はシノ」

「私はモエミ」


 三人のモブ子はお互いの顔を見合い、頷いた。


「では、入ります」コンコン


 ルームDに三人のモブ子が入った。


「いらっしゃい。うわ、団体さんだ……」



「「「きゃっはぁ~! シズミ君だぁ♡♡♡」」」



 出迎えたシズミを見て、三人は奇声を上げた。

 現在より5歳位は若い静流の登場に、三人は興奮していた。


「じゃ、オーダーシートをちょうだい」

「お願い……します」


 見た目とは違って淡々と仕事をこなすシズミ。


「おっと、お姉さんたちがダッシュ7を希望してたんだね?」

「そ、そうでありま……す」


 つい口癖が出てしまったシノ。


「シノお姉さん、語尾が何か軍人さんみたいだよ? もしかして緊張してたり?」

「そ、そうなのであります。お姉さんは緊張しているのであります」


 面白がってシノの顔を覗き込むシズミ。


「ボクの知り合いにも、そう言う口調の人がいてね。真面目で、クールな見た目に似合わず、ちょっとおっちょこちょいの所があって、カワイイ面もある人なんだ」バァァ


「ぽっふぅぅん♡」


 シズミが語った人物像に心当たりがあったシノは、顔から火が出るかというくらいに盛大に照れた。

 エバとモエミが顔を見合わせ、ニヤリと笑った。


(ほ、本物キターーーーーーッ)


 本物と確信したエバたちは、さらなる言質をとるべく動いた。


「シ、シズミ君、その人の周りに、やけに歴史に詳しい子とか、いません?」ハァハァ

「うん。いるよ。歴史とメカが大好きなひと。ソバカスがチャームポイントなんだよね」パァァ


「はっひぃぃん♡」


 エバは静流がそんな認識だった事に驚きながらも喜んだ。

 モエミも続こうとするが、ふと我に返った。


(あれ? 私って、何か静流様に気に入られる様な特徴、あったかな……?)

「じゃあじゃあ他には? どんな子がいるの?」フー、フー

「んーっとね……」

 

 モエミが結局無茶ぶりをすると、シズミは天井を見ながら呟いた。


「幼馴染?」

「次っ」

「ちっちゃい隊長?」

「次っ」

「双子?」

「次っ」

「あとは……歌のお姉さんと、ツンデレ」

「はぁっ!? ツンデレ!?」


 最後のワードに驚愕したモエミ。

 モエミは恐らくツンデレが自分なのだろうと推測した。


「そう、ツンデレ。最初はとっつきにくい人だったけど、中身はイイ人だった。きっと照れ屋さんなんだろうね?」パァァ


 「きゃっふぅぅん♡」


 静流にふつふつと沸いていた怒りが、今の言葉で瞬時に反転し、愛おしさに変わった。

 三人は、目の前のシズミが本物である事を確信した。

 次にシズミが、三人に提案してきた。


「そうだ! お姉さんたちにイイもの見せてあげる」

「イイもの、ですか?」


 エバが中腰でシズミに聞いた。


「特別に、変身シーンからのダッシュ7登場ってどうかな?」

「ふぇ? イイのですか? それは願ってもない事ですが……」

「イイのイイの。ちょっと下がってくれる? あ、途中の工程はカットするから」


 シズミは周囲に空間を作ると、得意げに首に提げた勾玉を握り、変身のキーとなるワードを唱える。



       行くよっ!『念力招来!!』ゴォォ



 シズミの身体を桃色のオーラが覆い、バチバチとプラズマ現象が起こる。

 オーラをまとったシズミの身長がぐんぐん伸び、オーラが消えると漆黒の鎧武者が現れた。

 大きく『愛』の文字が飾られた兜からのぞく長い桃色の髪はサラサラのストレートであり、左目を眼帯が覆っている。

 ダッシュ7は、ダッシュ6の『裏モード』であり、本物は段階を踏まないとお目にかかれない。


「待たせたな。娘たちよ」

「「「ダダダ、ダッシュ7さまぁ~♡♡♡」」」


 三人のモブ子は、両手を頬にあて、『夢見る乙女モード』になった。

 

「こ、この感じ……なのであります。 おっほぉ」

「ああっ、凛々しいお姿……生きてて良かった……」フー、フー

「イケナイ……心拍数がだだ上がりですぅ」ハァハァ


 ダッシュ7は改めてオーダーシートを確認した。


「エバ殿は、フム……鎧をパージしたい、と?」

「是非! 是非お願いしますっ!」ハァハァ


 エバは手を組み、神に祈るように懇願した。


「では、頼もうか?」ズシャ


 あっさりと受け入れたダッシュ7は、腰に差した刀を抜き、椅子にどかっと座った。


「は、はいっ! 二人も、手伝ってくれますか?」


「「かか、かしこまりぃ」」


 三人は、ダッシュ7の鎧を丁寧に外していった。


「むはぁ、モノホンですぅ、感動ですぅ」


 エバは手に取った鎧のパーツを眺め、うっすら涙を浮かべた。


「エバ殿、ここはどう外すのでありますか?」

「ここはね、この紐をほどけば、ほら」カシャ

「ほぉ。流石」


 筋金入りの歴史マニアのエバは、鎧の構造も当然熟知していた。


「手際がイイな。下女しもおなごにもらいたい位だ」


 感心したダッシュ7は、自然と言葉が口を衝いて出た。

 下女は、主人の身の周りの世話をする女中やメイドに近い存在である。

 真っ先に反応したのは、エバのみだった。


「今……何と申された?」

「おっと、気を悪くしたのなら謝る」

「いいえ……むしろ本望……至上の喜び、ですっ」


 気を良くしたエバの手が加速し、見る見る鎧が外れていく。

 圧倒されたシノたちは、邪魔にならないように数歩下がった。


「お立ち下さい……あとは草ズリと、ハイタテだけ…です」


 エバはダッシュ7を椅子から立たせ、腰回りの最後のパーツを外しにかかった。


「こここ、股間が目の前に……はうっ」

「どうした? エバ殿?」


 震える手で草摺に手を掛けるエバ。


「ええい、ままよ! 失礼しますっ!」カシャ


 すべての鎧を外し終わり、作務衣の様な下着姿になったダッシュ7。


「うむ。見事だ。おや……?」パラ…


 エバを褒めたダッシュ7だったが、次の瞬間、袴の帯がほどけ、ストンと落ちた。


「「「ぷぎょぉぉぉ~♡♡♡」」」


 思わぬ所でダッシュ7のフンドシが目に入り、三人は悶絶した。


「おっと失礼。ん? どうしたのだ?」


 ズリ落ちた袴を穿いたダッシュ7は、三人の態度に首を傾げた。


「オーダーの続き、イイでしょうか?」

「ああ、構わんよ」


 想定外の激レアプレミアム超ラッキースケベに遭遇した三人は、正気を取り戻すと各々の欲求を満たす為、あれこれ指示を出した。


「リンパマッサージとは、何をすれば良いのだ?」

「それはですね……」


 エバは、ダッシュ7の両手を自分の耳たぶに持って行き、ぐりぐりと引っ張るように指示した。


「これで良いのか?」

「あぁ……イイです。脳がとろけそうです……」

「「次、こっちもお願いします!」」

 

 暫くとっかえひっかえ対応に追われるダッシュ7。


「あああ、あすなろ抱き、お願いするのでありますっ」

「承知した」

「次っ、床ドン、お願いします」

「承知した」


 次にエバは、自分用のブロマイドの撮影を希望した。


「この状態で写真を撮るのか?」

「お願いしますっ! 鎧をムイたダッシュ7様は、滅多にお目にかかれませんから」

「わかった。構図を指示してくれ」


 エバは、下着姿のダッシュ7に、『風呂上がりのバスローブ男』のポーズをとらせた。


「ベッドに横座りして、足を投げ出すんです。それで右手にワイングラスを持って下さい」フー、フー


 ダッシュ7は、エバに言われるまま、ポーズをとった。


「はい、目線下さい! ナイスです! 撮りまーすっ!」パシャ


 オーダーのほとんどを消化した所で、エバがダッシュ7に頼んだ。


「最後に、神ボイスはコレでお願いしますっ」

「うむ。『ならば見せてやろう、最終奥義、【旭日昇天】!!』どうだろうか?」


「「「きゃっふぅぅぅん♡♡♡」」」


 三人は、実際に技を受けたかの如く、大きくのけ反った。


「気を付けて帰るが良い」

「ありがとうございましたぁ!」


 出口用ドアから出て行く三人の顔は、入室直後に比べ、表情豊かになっていた。


「何か元気になってる。 リンパマッサージが効いたのかな?」

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