エピソード51-28

インベントリ内 15:25時――


 忍に連れられ、急ごしらえの仮眠室に案内された真琴たち。

 仮眠室では、ブラムが機材のチェックを行っていた。


「あ、忍ちゃん、真琴ちゃんたちがテストしてくれるの?」

「うん。直ぐに取り掛かる」


 忍はランダムに3台選ぶと、電源を入れ、設定を始めた。


「みんなのオーダーはこれね?」

「はい……お願いします」


 三人は顔を真っ赤にしながら、小さく頷いた。


「設定はしておくから、みんなはこれに穿き替えて来て」


「「「えっ!?」」」


 忍はそう言って三人に何かを渡した。


「あそこの部屋を使ってね♪」


 ブラムは電話ボックス程の大きさの部屋が5基並んでいる所を指さした。


「真琴はわかるよね? サラ先生も」

「お気遣い、感謝します」カァァ


 前に使用した事があったからか、忍の言っている事を素早く察知した真琴たちだったが、未経験の鳴海には、意味不明だった。


「な、何です? 一体!?」

「悪い事は言わない。穿き替えて来た方がイイ」

「その方がイイですよ? 後々わかりますので……」

「さぁ、行きましょう」

「は、はぁ……」


 鳴海は納得していないまま、真琴たちに手を引かれ、ボックスの方に連れて行かれた。




              ◆ ◆ ◆ ◆




ポケクリバトル会場 15:30時――


 プラセボの尾崎が去り際に、素子に話しかけた。


「『ハシビロコウ』の続編は作らないんですか?」

「な、何でその没ゲーの名を!?」

「私事ですが、そちらの乙女ゲーのファンでしてね。ココだけの話ですが」

「それは御贔屓にどうも……」


 尾崎と入れ替わりに、ポケクリバトルの運営スタッフがグループCのテントに来た。

 白黒ミサがスタッフに挨拶した。


「あ、運営の。ちーっす!」

「皆さん、お疲れ様でした」

「どうも」

「えーっと、リーダーのツンギレさんは?」

「アタイ、ですが?」


 スタッフに呼ばれ、蘭子は手を挙げた。


「明日の個人戦にエントリーされていますね?」

「ああ。してる」

「おめでとうございます! 今日のMVPに選ばれました!」


「「「うええ~っ!!」」」


 それを聞いた蘭子たちは動揺した。


「おかしいだろ? 撃破数ならシズムかお静、ユズルだろうに?」

「それは僕らは団体戦に出ないからじゃないの?」

「イイのか? アタイで……」


 まだ半信半疑な蘭子を、ユズルたちは褒め称えた。


「選ばれたんだから、イイに決まってんだろ! 素直に喜べよお蘭!」

「そ、そうか。やったんだな? アタイは?」

「そうだよ! おめでとう!」


 固まった顔が次第に緩くなった所で、スタッフが蘭子に告げた。


「この結果、通達通り、明日の個人戦はシード権で三回戦から参戦になります。それで、誠に申し訳無いのですが……」

「な、何だよ? まだ何かあんのか?」


 スタッフは言いにくそうにしていたが、やがて話し始めた。


「個人戦には『メルクリア・ノヴァ』は使用を禁じます」



「「「ぬわにぃ~!?」」」



 予想外の言葉に、蘭子たちは面食らった。


「公式が認めたんだ! 召喚してもイイだろ?」

「客だって、メルクが出て来るのを期待してるんじゃないの?」


 思わず達也とユズルがスタッフに抗議した。


「その辺りは運営でも物議をかもしたのですが、やはり唯一無二の存在に『対処法』も不明では、公平性に欠ける、と言う理由が決め手でした……」


 スタッフが言葉を選びながら、ゆっくりと説明した。


「そうか……言われてみればもっともな意見だな」

「ん? それじゃあ団体戦もグレーだよね!? 大丈夫なの?」

「そちらは問題ありません。問題ならその場で止めています」

「ふぅ。確かに公平じゃねぇな……」


 達也たちのトーンが下がり、諦めムードに変わった。

 蘭子は重くなった空気を変えるべく、強がり半分で言い切った。


「しゃあない、わかった。問題ねぇよ! ウチにはまだレジェンドがゴロゴロしてるからなっ」




              ◆ ◆ ◆ ◆




インベントリ内 15:30時――


 睡眠カプセルがズラッと並んだ仮眠室。


「濃厚な三分間を存分に堪能して」


 それぞれが睡眠カプセルに入り、忍とブラムが設定をしていく。


「それじゃあ、イイ夢を」 


「「「おやすみなさーい」」」


 ブゥゥーン


 カプセルの蓋が閉まり、角度がゆっくり鈍角になっていく。

 ものの数秒で眠りに落ちる真琴たち。




              ◆ ◆ ◆ ◆




個人サークル 五十嵐出版ブース 15:25時――


 レヴィたちが五十嵐出版のブースに着いた。


「はわわ、スゴい列ですね? 佳乃先輩」

「コレがデフォルトでありますよ、萌殿!」


 コミマケ初参加の萌は、キョロキョロと周囲を見回した。


「さぁ、取り置きの窓口はコッチですよ! 並んで下さい!」


 ルリは慣れているのか、一同に声をかけた。


「いらっしゃいませ。取り置きですか?」

「はいっ! お願いしますっ!」


 ルリは受付に取り置きのチケットを渡した。


「えーっと、はい、こちらです。お客様、ラッキーですね♪ ユズル様のサイン入りですよぉ!」


「「「おぉー!!」」」ざわ…


 リリィが上手くやってくれたお陰で、取り置きが限定分の枠内に収まっていたようだ。

 一般購入の希望者から、羨望の眼差しを一手に受けるルリ。


「お買い上げ、ありがとうございまーっす!」

「こ、こちらこそ、ありがとうございまーすっ♡」


 八冊セットの薄い本を受け取ったルリは、本を抱きしめ、頬ずりしながら出口の方にフラフラと歩いて行く。


「きゃっはぁ……この愉悦感、たまりませんわぁー♡」


 他の者もルリに続いて、チケットと交換し、薄い本を受け取っていく。


「ふっふっふ。手に入れたぞ! 待っていてくれシズベール!」

「いけません……聖職者である私がこのようなハレンチな物を……はぅ」

「へぇ。良く描けてるね。うわぁ、スゴい体位……どういう骨格してるのかなぁ?」


 受け取った者たちが、それぞれの感想を述べながら、出口に向かっている。


「レヴィ殿、リリィ先輩に、とりあえず多めに取り置いてもらってよかったでありますね? ムフゥ」 

「そこはぬかり無く。元々10セット確保しておいてもらってましたからね。ヌフフフ」


 みのりが指を使って数え始め、ある事に気付いた。


「ん? って事は、あと1セット残っているんですか?」

「そうですね……バラでよろしければ、薄木の方たちで分けて下さいよ」

「イイんですか? 良かったね、みのり!」

「うん! ありがとうございます! 澪先輩たち、喜ぶぞぉ」


 ホクホク顔のみのりを見て、アマンダは首を傾げた。


「アナタ、絵よりも実物の方が数千倍興奮するわよ? 早くご馳走にありつきたいわぁ~♡」


 アマンダのひと言で、一同に緊張が走った。


「で、では行きましょう……いざ『楽園』へ!」


「「「「了解!!」」」


 一同は献血カーのある駐車場に向かって歩き出した。




              ◆ ◆ ◆ ◆




インベントリ内 仮眠室 15:35時――


「ピピピピピ」


 時間となり、電子音が鳴った。


  ブゥゥーン


 睡眠カプセルの蓋が開き、角度がゆっくり鋭角になっていく。


「諸君! お目覚めは如何かなっ?」


 ブラムがカプセルの中を覗き込んだ。


「はぁ、はぁ……んふぅ……終わったの?」

「あふぅん♡……へ? もう終わり、ですか?」


 真琴とサラが覚醒した。

 顔を紅潮させ、虚ろなまなざしでブラムを見た二人。


「マネージャーさんはどうかな? うわっ……大丈夫、かな?」


 ブラムが鳴海の寝ているカプセルを覗き込むと、気の毒そうな顔になった。


「あぁ……ジンさまぁ……コレが『朝チュン』というシチュエーションなのですね……素敵です♡ ムニャ」


 もう目が覚めている筈なのだが、鳴海は心地よい余韻に浸っていた。

 ニヤついたブラムが、鳴海の乳首辺りを指でつついた。


「随分お楽しみだったみたいだね?」チョン

「ひゃうっ! はっ、ココは?……夢?」


 慌てて飛び起きた鳴海。正気に戻るのに数十秒かかった。


「どうだった? コレ、結構イイでしょ?」

「欲しい……100年ローン組んででも購入したいです」


 真琴たちが鳴海に寄って来た。


「鳴海さん、早く処理しましょうよ、気持ち悪くないですか?」


 真琴が自分の股間を指差しながら鳴海に言った。


「へ? ひぅっ、こんな事、信じられない……」


 鳴海は、自分の股間を確かめ、次第に顔が青くなっていった。

 サラが恥ずかしそうに鳴海に言った。


「こ、こういう事になるから必要だったんですよ? 『紙オムツ』が……」

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