エピソード51-6

膜張メッセ 偽装献血カー内 09:55時――


 開場の10:00時まで、あと5分となった。


「よし! そろそろ頃合いだな。各自、持ち場に着くように」

「「「イエス、マム!!」」」


 睦美の指示で、部員たちが『戦闘モード』に入った。

 部員とすれ違いで、部屋に白黒ミサが入って来た。


「「「部長!副部長! お疲れ様です!」」」

「時は来た。皆の者、心してかかれよ?」


「「「御意っ!」」」


「GM、ユズル様、行ってまいります!」


 部員たちは一人ずつ睦美たちに頭を下げ、車を降りて行く。

 睦美は大きく頷き、部員たちを送り出した。


「ああ、行ってこい」

「い、行ってらっしゃい」


 苦笑いを浮かべ、部員たちを見送るユズル。 

 そのユズルの両脇には、薫子と忍がぴったりと腕を抱き抱えており、身動きが取れずにいる。


「暫く我々は高みの見物と行きましょうか」プチ


 睦美がリモコンを操作すると、右に五十嵐出版のブースが映し出され、左に正門付近が映し出された。


「うわ……人が一杯いる。年明けの多無神社みたい」

「皆さん、目がギラついてますね。私も以前はアッチ側だったんでわかります」


 ユズルは人があまりにも多い事に驚き、右京はかつての自分と重ね合わせ、若干興奮している。

 左京は正門付近の映像を見て、複雑な面持ちで呟いた。


「やはり男性の参加者が多いですね……真冬なのに湯気が立っています……」

「ん? 同族嫌悪か?」

「そうじゃない、と言ったら嘘になりますね……」

「はっきり棲み分けが出来ない以上、仕方のない事だ。無理に付き合う必要は無い」

「そうですね。面倒事は御免こうむりたいものです……」

 

 不安そうな左京をなだめ、睦美は手をポンと叩いた。


「よし、いよいよだな。臨戦態勢は整っている。頼んだぞ、みんな」


 タイミングを計っていたのか、唐突に白ミサがしゃべり始めた。


「さぁて、お仕事ですよ? シズムン♪」

「え? お仕事?」


 白ミサにそう言われ、首を傾げるシズム。

 すると鳴海が立ち上がった。


「シズム様、この後はミサミサたちと行動を共にして下さい。お二人共、お願いします」チャ

「御意。何をするかは私たちと来ればわかるから、取り敢えず行こう♪」


 鳴海の指示を受け、白黒ミサがシズムの左右に周り、腕を組んだ。


「あ、あれれぇ~?」


 シズムは二人に半ば強制的に連れて行かれた。


「あらら、連行されちゃったよ……」

「今回、ユズル様及びシズム様は、正式な仕事も請けていますので。悪しからず」チャ

「そうだった……鳴海さん、僕の予定ってどうなってましたっけ?」


 ユズルは自分の予定を確認した。

 ユズルの両脇にいるお姉様たちが、あからさまに苦々しい顔になった。


「仕事って何? S4の活動は午後からでしょう?」

「そうもいかないんです。『ポケクリバトル』にも出なくちゃならないし……」

「外に出てはダメ。瘴気にあてられる」


 ユズルの身を案じ、腕にしがみついていた忍は、ふと何か思い付いた。 


「そうだ薫子、変身してユズルの代わりに仕事して来て」

「はぁ? 何で私が!?」

「安心して、ユズルの面倒は私が見るから」

「忍ぅ? いい加減にしなさいよ!?」


 ふてぶてしい態度の忍に、薫子はブチ切れ寸前だった。

 にらみ合う二人をよそに、鳴海はメモ帳を見ながらユズルに告げた。


「コホン、ユズル様は、11時にサラ先生をエスコートする事になっています」チャ

「あ、そうだった……」


 ユズルは以前からサラと会場を回る約束をしていた。


「エスコートって、デートの事?」ジロ

「サラとデートって、どう言う事?」ジロ


 ユズルは両側から痛い位の熱視線を浴び、慌てて弁明した。


「ち、ちょっと待って。これにはワケがあるんだ」


「「ワケェ?」」


 ユズルはサラとそうなる事になった経緯を説明した。

 『国尼祭』で出品した『自画像』は、サラに描いてもらったものであり、今日のデートは、サラが望んだその報酬だった。


「ああ、あの絵ね。その節はお世話になったわぁ……」

「本当は私が競り勝つつもりだった……ひと月のレンタルじゃ納得いかない!」


 実はあの絵、落札された直後に、購入したココナが忍たちに借していたのだ。


「サラはもう来てるのかな?」

「そうね。もうそろそろ起きて来る頃だわね」

「ん? どう言う事です? リリィさん?」


 リリィの物言いに、眉間にしわを寄せるユズル。





              ◆ ◆ ◆ ◆



「ピピピピピ」


 いきなり電子音が鳴った。

 献血バスに設置した『睡眠カプセル』から発している。


  ブゥゥーン


 二台の睡眠カプセルの蓋が同時に開き、角度がゆっくりと鋭角になっていく。


「う、うう~ん」

「ふぁぁ~っ」


 カプセルの中で目覚めた二人が、軽く伸びをした。


「ふぁああ、良く寝た。おはよ、イイ夢見られた?」

「おはようございます先生、正に至福の時……でした」


 次第に意識がはっきりして来た二人。


「あぁ……このカプセル、一家に一台必要だわね」

「睡眠学習は完璧、です。あとは……本番あるのみ。 くふぅ」


 カプセルから出て来た二人は、周囲を見渡した。


「いないですね、リリィさん。あちらの部屋にいるのでしょうか?」

「先ずはシャワーと朝食よ。行ってみましょ?」


 二人はドアを開け、インベントリに入った。





              ◆ ◆ ◆ ◆



「さぁ、時間だ」


 一同がモニターで見守る中、開場の時間となった。



「「「「わぁぁぁぁ!!」」」」ドドドド



 開門されるや否や、地響きと共に一般参加者がそれぞれの目標に向かってダッシュした。


「スゴい瞬発力ね。普段引きこもってる連中とは思えない……」

「これこれ真琴クン、それは偏見だぞ? とりわけココに来ている猛者たちは、フットワークが軽い、アクティブなヲタ、と言えよう」


 次々となだれ込んでくる一般参加者をモニター越しに見て、圧倒されている一同。

 すると献血バスのドアが開き、二人の人影が入って来るが、モニターに釘付けで、誰も気付かなかった、


「リリィ! 起きたわよ!……ドコにいるのよ、全くもう……」

「おかしいですね……」


 誰かが入って来た事に、やっと気付いた模様。


「リリィさん、誰か呼んでますけど……」

「へ? あ、起きたか……」 


 リリィはソファーから立ち上がり、声のする方向に向かった。


「あ!どうも先生! いやぁもうそろそろ起きる頃だと思ってたんスよ」

「……何よリリィ、いるんじゃない、シャワーを借りたいんだけど?」

「おはようございます、リリィさん」

「おはよ。シャワーと朝食は向こうだよ。ほらお二方、そんな恰好でウロウロしない」


 リリィは危険を察知したのか、二人をユズルから遠ざけようと自然に動いた。


「何? 向こうに誰かいるの?」

「い、いや、あとでイイじゃないスか」

「何か隠してるわね? すっごく気になるんだけど?」


 先生と呼ばれている女性が、リリィの制止を振り切り、つかつかと歩いて行く。

 もう一人の女性が、その後ろをたどたどしく付いて行った。

 

「ふぅ、流石はアノ少佐の姉君、一筋縄ではいかないわね……」


 リリィは溜息をついたあと、そう呟いた。

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