エピソード49-10

ミフネ・エンタープライゼス本社 重役室――


 七本木ジンこと荻原朔也の出演する、幻の特撮ヒーローものである、『翠玉すいぎょくの戦士 エメラルド・アイ』のAパートまで見終わっていた。


「鳴海、Bパートの再生、お願い」

「はい」ピッ


 鳴海がリモコンの一時停止ボタンを解除し、Bパートが始まった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 



 ブロロロォ……ン


 メッサーシュミットで疾走している丈一は、ふと考えた。


(アジトよりも先に、あのデパートに寄るか……)


 丈一は先ほどテレビ中継があったデパートに立ち寄った。 

 入口を入ってすぐのエスカレーターを大股で上り、4Fの婦人服フロアに向かった。


「何だ!? この状況は?」


 丈一が目の当たりにした光景は、下着売り場のフロアのあちこちで、男性客に馬乗りになっている女性店員や、一人の男性客に群がる複数の女性客だった。

 下着姿の女性たちの顔は青ざめ、うわ言を言いながら男性客を襲っている。


「君たち! 止めるんだ!」


 丈一がそう叫ぶと、好き勝手に行動していた女性たちが、一斉に丈一の方を見た。


「「「「ぬふぅ?」」」」


 女性たちがむくっと立ち上がり、丈一の方にふらふらと歩み寄って来る。


「むっふぅ、イイ男、はっけん♡」

「好き……好き……結婚してぇ……」

「よしおさぁん、愛してるわぁ……」

「たつひこさぁん、私をメチャクチャにしてぇ……」

「落ち着いて、気をしっかり持つんだ!」


 丈一の呼びかけには、ほとんど反応しなかった。


「ああっ、もう我慢、出来ない……」

「チッ、迂闊に攻撃すると、女性たちに怪我を負わせてしまう……」


 攻撃を躊躇した丈一は、やがて状態異常を起こしている女性たちに取り囲まれた。


「もう、逃げられないわよぉ……」

「早くぅ、私を抱いてちょうだぁい♡」

「クッ、どうすれば正気に戻せるんだ?」


 丈一の近くに、先頭の女店員がにじり寄って来た所で、丈一は腹を決めた。


「大人しく、私のモノになりなさぁい♡」

「……よし。 一か八か、 試してみるか」


 丈一は右手のエメラルドリングを女性たちにかざした。


『エメラルド・スパークリング!』 パァァァァ


 エメラルドリングから緑色の眩い光線が放出され、女性たちに照射された。



「「「「あっ、あぁぁ~ん♡♡♡」」」」



 緑色の光線を浴びた女性たちは、身をよじり、熱い吐息を吐いた後、やがて気絶していった。

 気絶した女性たちの全てが、恍惚の表情を浮かべ、両目が『♡マーク』になっていた。


「見たか! どんな薬物でも、 エメラルドの輝きには勝てないと言う事だ!」


 丈一はキメのポーズをとった。

 状態異常にかかった客たちを、到着した救護班たちに任せ、丈一はアジトに向かってメッサーシュミットを走らせた。




          ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




とある港の埠頭 黒レンガ倉庫――


 丈一は、試供品の小瓶にあった製造元の所在地付近にメッサーシュミットを停めた。


「この辺りのはずだが……ん?」


 異変に気付いた丈一は、すかさず物影に隠れた。

 丈一が見ている先で、黒ずくめの男たちが、倉庫から物資をトラックの荷台に運んでいる。


(あれは……例の香水か? よし、潜入しよう)


 丈一は見張りの男を後ろから忍び寄って無力化し、建物の中に入って行った。

 建物の中では、香水の製造から瓶詰めを行っていた。


「アンタたち! キリキリ働きなさい! 納期に間に合わないわ!」


「「「「ギギー!!」」」


 作業員に指示を送っているのは、露出度の高いスーツに、タイトなミニスカートを穿いた、グラマーな幹部クラスの女性であった。

 今の発言から、女幹部は苛立っているようである。


「はぁ、もう。首領の気まぐれには付き合い切れないわ……どこかにイイ男、いないかしら?」


 女幹部は、作業員を見張りながらボヤいていた。

 

「そこ! モタモタしない! ……ん? イイ男の匂いがするわね? コッチかしら?」


 女幹部はイイ男の匂いがする方に、吸い寄せられるようにフラフラと歩いて行った。


(マズい、近づきすぎたか?)


 丈一の方に歩いて来ている女幹部。丈一は覚悟を決めて、飛び出す用意をしていた。

 すると、作業員が小走りで近付き、女幹部に話しかけた。


「この上質な匂い……イイわぁ」

「工場長! 首領から入電です!」

「はぁ? 何よ、今イイ所だったのに……わかったわよ、もう」


 女幹部は長い髪をファサッとかき上げ、作業員と部屋を出て行った。

 すんでの所で難を逃れた丈一。


(ふぅ、危なかったぜ……)


 安堵した丈一は、うっかり物音を立ててしまった。 カランッ


「「「ギッ!? ギギー!」」」


 音に反応した作業員が、丈一に気付いた。


「チッ! ここまでか。一丁暴れるか!」


 丈一が物陰から飛び出し、あっという間に三人の作業員を殴り倒す。

 すると他の作業員が非常ボタンを押した。


 

 ウー! ウー! ウー!



 けたたましく鳴り響くサイレンに、先ほどの女幹部がすっ飛んで来た。


「何の騒ぎ!? はっ、アナタ、誰?」

「秘密結社G! お前たちの計画は失敗する! 覚悟しろ!」


 丈一は途中作業員をなぎ倒しながら、女幹部めがけて突き進む。


「「ギギィ!」」バシッ!

「「ギッ!ギギ!」」ドゴォ!


 作業員はあらかた倒し終わり、女幹部の前で止まった丈一。


「もう後が無いぞ? 降参するなら今だ!」 

「やるわねアナタ、それになかなかのイイ男♡ ねぇ、取引しない?」

「問答無用! 行くぞ!」


 丈一は飛び退り、距離を取ると、両手を握り、顔の前でクロスさせた。



【チェーンジ! エメラルド! ゴー!】ババババ



 『エメラルドリングのオーラをまとい、丈一は光の速さでエメラルド・アイに変身するのだ!』

 

 派手なエフェクトがかかると、丈一は緑色のラメ入りボディアーマーを装着した。

 ヘルメットには大型のアイシールドが顔を覆い、変身が完了すると目が緑色に発光した。



翠玉すいぎょくの戦士、エメラルド・アイ、見参!!」



 エメラルド・アイは決めポーズをとった。


「ふん。お前がエメラルド・アイとか言う、最近ウチのシマで好き勝手暴れてる雑魚か!」

「俺とお前、どちらが雑魚かどうか、見極めてやる!」


 エメラルド・アイは、両手でピースサインを作り、それを目に当てた。


【ステータス・オープン!】ビビー!


 エメラルド・アイの目から、緑色の光線が放射され、オーラが女幹部を包んだ。


「な、何よこの光、身動きがとれない!」

「解析……完了」


 やがて緑のオーラが消えると、黒い蝶を彷彿とさせるコスチュームに身を包んだ、改造人間が現れた。



「汝の正体見たり! 誘惑の魔女 クロアザミ!」ビシィ!



 エメラルド・アイはそう言い、クロアザミを指さした。

 

「フッ。 バレちゃあしょうがないわね。戦闘員、やっておしまい!」


「「「ギギー!」」」


 クロアザミが命令すると、全身黒づくめの戦闘員がわらわらと集まって来た。

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