エピソード47-34

ダーナ・オシー駐屯地 正門――


 アマンダたちは、ココナの朝食後、すぐさまダーナ・オシー駐屯地に向かった。

 メンバーは、静流、アマンダ、郁、ルリ、忍、リナ、ブラムの他、ココナとその部下であった。

 他のカチュア、ジル、ジェニーは、それぞれのホームに戻って行った。

 仕事上、静流はシズルーに変身している。

 【ゲート】を通るまで、ココナは塔の物珍しさや、外の砂嵐を見て驚愕するばかりであった。

 

「さぁ、帰りましょう、姫様」

「お前たち、随分順応してるな」

「二泊三日ですよ? そりゃあ慣れますよ」

「いちいち驚いてたら、身が持ちませんから」

「司令、喜ぶぞぉ♪」


 部下たちに手を引かれ、【ゲート】を通り、一瞬で所属基地に帰還したココナ。

 

「何と! 信じ難い……」

「一応『機密』なので、口外無用でお願いね? ま、あそこであった事など、気軽に話せる内容じゃなかったわね。フフフ」

「わかっています少佐殿。誰が喋りますか!」


 散々自分の夢の中を閲覧されたココナは、顔を赤くして反論した。


「大尉ぃ、コッチですヨ♪」グイ

「そう急かさないで下さいよぉ」

「静流様、口調が素になってます。可愛い」

「おっと、いかんいかん」


 ココナは、自分の少し前でケイと手を繋いで歩いているシズルーを、羨ましそうに眺めていた。


「イイなぁ……」

「姫様、心の声が駄々洩れですよ? ヌフフ」

「はっ! ……放っといてくれ」


 部下に弄られ、思わず両手で口を塞ぐココナ。

 

「大尉殿! よくぞ戻られた!」

「うむ。心配をかけたな」


 守衛が半べそをかきながら最敬礼すると、ココナは敬礼で返した。

 奥の方からツナギを着た整備士らしき者が小走りでやって来た。


「おーい、お疲れーっ!」

「万里! ただいま!」


 MTの整備をやっている大江万里軍曹であった。


「万里、心配をかけたな」

「姫様、お帰りなさいッス!」

「万里、早速だがあの機体の事なのだが……」

「大丈夫ッス、話は聞いていますんで」


 万里は親指を立てた。


「後で顔を出す」

「オッケーッス! 準備しとくッス♪」


 一行は先ず、司令室に向かった。





              ◆ ◆ ◆ ◆





ダーナ・オシー駐屯地 司令室――


「竜崎ココナ、只今帰還致しましたっ!」

「……ココナ、良く帰って来てくれましたね……グス」


 クリス司令は、帰還したココナを見て、うっすら涙を浮かべていた。

 アマンダはこの三日間の作戦内容を、クリスに報告した。


「……概要は以上です。追って報告書を提出致します」


 アマンダはココナの人権を侵害しないよう、細心の注意を払いながら報告した為、クリスはうんうんと頷き、納得したようだ。


「そう。そんな事が。では以前、サイコドクターのユーリ・ゲレロが言った事は、あながち間違いでは無かったのですね……」

「ユーリ!? アイツも絡んでたの?」

「姉さん、知り合い?」

「世間は狭いって事ね。でも、アイツがサジを投げた症例を完治させたって事、悪い気はしないわね」

「あー、はいはい……」


 カチュアはドヤ顔でそう言ったが、周りの者は呆れ顔で、ほとんど静流の手柄であった事をツッコむ事はなかった。


「長らく、御心配をお掛け致しました」

「イイのよ。アナタが無事なら。本当に良かった。皆さん、ありがとう!」


 クリスは、アマンダたちに頭を下げた。


「私らもこうして予定通り竜崎大尉を救済出来て、胸をなで下ろしています」


 アマンダは最高責任者らしく、そう言った。


「皆さん、この後のご予定は?」

「そちらで開発中のMTの件で、技術支援をする予定です」

「まぁ素敵。それは願ったりかなったりですわぁ♪」 


 クリス司令の目がキラキラと輝いている。


「魔導研究所の技術少佐殿にご協力頂けるなんて、超ラッキーです♪」


 クリス司令はクルクルと回り、喜びを表現した。

 そんなクリスに、ココナは耳打ちした。


「司令、ひと段落したら、ご相談があります」

「なぁに? 何でも言って頂戴♪」

「今後の事、です」





              ◆ ◆ ◆ ◆





国分尼寺魔導高校 2-B教室――


「ふぅ。今日で『国尼祭』もやっと終わるなぁ……」

「ああ……アンナ様ぁ……」


 静流と達也は、天井を見上げ、それぞれ違う事を思い浮かべていた。


「た・つ・やぁ~!?」

「いててて、妄想くらいイイじゃねぇかよケチ!」

「開き直るか!? こいつめぇ」

「グギギギ、静流ぅ、助けてくれー!


 朋子にこめかみをグーでグリグリやられている達也。静流に声をかけるが、全く相手にされていない。


(静流様、早く戻って来て下さい……)


 ロディは『塔』で静流の唇を奪った事を想い出し、頬を染めた。


「……ずる? 静流!?」

「へ?……どうしたの? 真琴?」

「何ぼーっとしてるの? アナタらしくない」


 真琴の言葉にはトゲがあった。自分の目の前でそんな事があったのだから、無理も無いが。

 ロディは真琴に注意され、自分の顔を両手でパンッとはたいた。


(いけない。私がしっかりしないと)


 廊下からパタパタと足音が聞こえ、ムムちゃん先生があわただしく教室に入って来た。


「どうしたのムムちゃん? そんなに慌てて」

「校庭でツチノコでも見つかったの?」


「「「ハハハハ!」」」

「違います! そんなんじゃありません!」ハァハァ


 生徒に茶化されているムムちゃん先生は、呼吸を整え、口を開いた。


「皆さんに、ご報告があります!」


 クラスの面々が顔を見合わせ、首を傾げている。


「五十嵐クンの絵ですが、文科省で行う『国宝審査会』にかける事になりました!」


「「「ええ~!!!」」」


 クラス全員が一斉に静流を見た。


「従って、五十嵐クンの作品は、オークションにはかけられない事になりました」

「え~!? 幾らの値が付くか、楽しみだったのにぃ~」ざわ…

「おいおい『国宝』って、相当ヤバくないか?」ざわ…


 周りのみんなが言いたい放題言っている中、一人の生徒がメモ帳を片手にマイクを持つ仕草で静流に迫った。


「五十嵐クン、今の心境は?」

「新聞部の梨元さん? いきなりそんな事言われても、ピンと来ないよ……」

「ふむふむ。なるほどね」

 

 取材を始めようとする梨元に、真琴が言い放った。


「ちょっとまひる? 取材なら、1stマネージャーの私を通してくれないとね?」

「マコちゃん、そうカタい事言わずにぃ」

「静流もいきなりで困ってるの。落ち着いたら単独で取材させてあげるから」

「約束だからね? 頼むよ?」


 梨元はあっさりと引き下がった。


「先輩が言ってた方向に向かいつつあるみたいね」

「うん。参ったなぁ……」


 静流は困惑の表情を浮かべた。

 ムムちゃん先生はそんな静流をチラリと見たあと、咳払いをして自分に注目を集めた。


「コホン。皆さん! だからと言って、今回のオークションはタダじゃ終わりません!」


 そう言ってムムちゃん先生は、静流に下手なウィンクを投げた。


「何かやらかすんですか? 目玉商品は出品出来なくなったのに?」

「それは、秘密、でーっす♪」

「「「どわぁ~!」」」


 生徒たちは拍子抜けして机に突っ伏した。


「一体なんなんです先生? 勿体ぶらないで教えて下さいよぉ」 

「内緒。さぁ皆さん、もうひと踏ん張りですよぉ~♪」


 『国尼祭』三日目は、午前中は一般観覧にあてられ、午後は撤収作業を生徒たちで一斉に行う。

 同時に、闘技場に開設された特設会場にてオークションが行われる。

 ムムちゃん先生は、静流に向けて親指を立てた。


(五十嵐クン、午後からのオークション、楽しみにしててね♪)


「何だろう? イヤな予感しかしない……」

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