エピソード47-29

ココナの深層心理の部屋――


 メルクとシズルーは、もう一度同じ手順を踏んだ。

 すると、どうやら先ほどの件はリセットされているようだ。

 そのまま作戦開始となった。


〔少佐、ミッションGO!〕

〔プランB、スタート!〕


 パァァー!!


〔閃光弾か!? ううっ〕


 まばゆい光が、シズルーとココナを包んだ。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




〔……さま、姫様〕

〔はっ! ここは……〕


 ココナが辺りを見回すと、十畳ほどの大部屋に、派手な装飾が付いた家具があり、一番目を引くのは、天蓋付きのキングサイズのベッドである。

 気が付くと、背後にピッタリと青年が貼り付いていた。

 青年は桃色の髪をした、ほっそりとした体ながら、割れた腹筋や厚い胸板、いわゆる『脱いだらスゴい』を地で行く容姿だった。

 その青年が、ココナの耳元でささやいた。 


〔何ぼーっとしてるの? ヒトを自分の部屋に半ば強引に連れ込んで……〕

〔私が!? お前を?〕


 ココナはくるっと半回転し、顔を赤くしながら、半裸の青年を顔と身体を交互に見ていた。

 青年は優しく微笑み、ココナの手を取り、自分の胸にあてた。


〔ひっ!〕

〔どうせまた公務中にムラムラっと来ちゃったんでしょ? 昼間っからお盛んです事♥〕

〔な、何を言っている! 無礼であるぞ!?〕

〔ヒドいなぁ、姫様の性欲処理にいちいち呼び出されるボクの事も、少しは気遣って欲しいね?〕

 

 青年はココナの手を次第に下の方に導いた。 

 ココナは青年の手を振りほどいた。


〔離せ! セバス、セバスはおらんか?〕チリン


 慌てて呼び鈴を鳴らすココナ。


〔姫様? もうお済みですか? まさか、シズベールが粗相を?〕


 呼び鈴に気付いた初老の執事が、そんな事を告げた。


〔一体何が起きているのです!? 私の部屋にこんなかわいらしい少年が……まぶしい! 何か着なさい!〕

〔ち、違うよセバス、姫様が急にボクに冷たく当たるんだ……記憶が無くなったみたいに〕

〔フム……なるほど!〕

 

 初老の執事が、手をポンと置き、何かに納得している。


〔セバス? 何がわかったのです?〕

〔姫様は、リセットなさったのですね?〕

〔は? 今何と?〕

〔皆まで言わせるのですか? イイでしょう! つまり、姫様は最近頻繁にシズベールばかりを呼び出しては可愛がっておられました。そこで『慣れ』が生じ、マンネリ化した行為に新風を吹き込もうと画策された、と〕

〔なぁんだ、そんな事か。だったら、ボク以外の子を連れ込めばイイのに……〕


 青年は少し頬を赤らめ、床の方を眺めながらつぶやいた。


〔きゃ、きゃるる~ん〕ブブーッ


 ココナは鼻血を吹きながら、大きくのけ反った。


〔これシズ、姫様はお前を、ナンバーワンではなく、オンリーワンと認めておるのだ。わからんか?〕

〔それほどまでにボクを? 姫様が?〕

〔うむ。精一杯、ご奉仕するのだぞ? ではお邪魔虫はこれにて〕


 執事はうんうんと何度も頷き、ホクホク顔で部屋を出て行った。

 少しの沈黙ののち、ココナはゆっくりと口を開いた。


〔全て、思い出した……〕

〔姫、様?〕

〔お前が! 侯爵夫人の所にも出入りしていると噂で聞いた。私は……お前が他の者に抱かれている事を思うと、居ても立っても居られなくなり、お前を頻繁に呼びつけ、辱めた〕


 ココナはオーバーは身振り手振りで、自分の感情を表現した。


〔私は、何という事をしたのだ!? 済まない、許してくれシズ……〕

〔ボクには拒否権が無いから、呼ばれれば行かなくちゃダメなんだ。ボクの方こそ、済みませんでした〕


 シズベールは、片膝を突き、頭を下げた。


〔お願いだ! そんな仰々しい態度は止めてくれ! 悪いのは私なのだから……〕


 シズベールは立ち上がり、おもむろに両手を広げ、ココナに言った。


〔好きにしてイイよ。他ならぬ姫様だからね?〕パァァ


〔ひょっほ~ん♥♥♥〕


 その時、ココナの心のリミッターが外れた。


〔うがぁぁぁ!〕ガシッ


 ココナがシズに危険タックルをかまし、その勢いで天蓋付きベッドになだれ込んだ。


〔うう、たまらん!〕

〔焦らないで姫様。ボクはどこにも行かないよ♥〕


 ココナはシズの衣服をはぎ取り、首筋に吸い付いた。


〔あはっ、くすぐったいよ姫様〕

〔むほっ……ゲリニャック夫人には、どんな事をされたのだ?〕レロクチュ

〔そ、そんな事、言えないよ。あふ、姫様、激し過ぎ……んふぅ〕ポォ


〔ずっぴょ~ん♥♥♥〕


 ココナの思考回路のヒューズが飛んだ。

 その頃、作戦室の連中から、熱い息が漏れ始めた。


「ああ、私の静流クンが蹂躙されてる……むふぅ」


 カチュアは、ハンカチの隅っこをかみちぎりそうになっている。

 ルリは顔を上気させ、自分の肩を抱き、クネクネしている。


「ココナが静流様にむしゃぶり付いている……何て羨ましい。忍さん、マスターのデータ、私にも下さい!」ハァハァ

「絶対嫌。提供するんじゃなかった……もう中止にしたい」


 忍は顔を青くして、小刻みに震え、リナに介抱されている。


「落ち着け忍、静坊だって必死にこらえてんだ。見守ってやれよ」


 ココナの部下たちは、驚きを隠せずにいた。


「姫様があんなに興奮してる。人は見かけによらないんだな……」

「そりゃあ目の前にあんなにカワイイ子がいたら、ああなるのも仕方ないか……」

「『据え膳食わぬは何とやら』ってヤツか……」


〔シズベール! 私のモノになれ!〕クチュツ、ジュポッ


 突然の告白に、シズベールはココナに舐め回されながら、少しの沈黙のあとつぶやいた。


〔イイけど、条件があるんだ〕

〔はふぅ、条件とな? どれ、言うてみい〕ハァハァ


〔このお城を出よう。姫様、ふぁう〕

〔つまり、外でヤるのか? いわゆる『アオカン』か?〕

〔プッ。何でもイイよ。お城を出てくれたら、アオカンでもアキカンでも、何でもシてア・ゲ・ル♡〕パァァ


〔ばば、ばっふぅぅぅん♥♥♥〕


 ココナは今日イチののけ反りを見せた。


〔……わかった。城を出る。約束、忘れるでないぞ?〕

〔大丈夫。ボクが今まで約束、破った事ないの、わかってるクセに〕

(よっしゃあ! この勢いでクリアだ!)


 部屋を出る決心がついたココナに、シズベールは心の中でガッツポーズした。


〔じゃあ、目隠ししてイイかな?〕

〔ん?何じゃ? 新しいプレイか?〕

〔そうそう。姫様も気に入ると思うよ♥〕


 乱れた衣服を整え、シズベールはココナに目隠しをして、ココナの手を引き、部屋を出た。

 石壁の長い通路を、シズベールはひたすら歩いき、やがて、中庭に出た。

 外の風が、心地よく吹き込んで来る。


〔シズ、外に出たのか?〕

〔うん。でも、もう少し先だから、辛抱してね〕

〔お前と一つになれるのだ。この位我慢しないとな〕


 中庭を抜けると、城門が見えて来た。


〔もう少し、コッチです姫様〕

〔う、うむ〕


 城門の跳ね上げ式の橋を降ろし、橋を渡ると、そこにはメルクがいた。


〔もう、イイですよ。姫様〕

〔待ったぞこの瞬間、ああ、ついに私とシズが、結ばれる時が来たのだ!〕

〔目隠し、取りますね〕

〔も、もう辛抱たまらん、早く取らぬか!〕


 シズベールがココナの目隠しをゆっくりと取ってやる。

 ココナが目をゆっくりと開く。


〔今じゃ! シズルー!〕

〔な、何?〕

〔はい!【メンタル・キュア】〕ポゥ


 シズベールの手に、水色の霧が出現し、ココナのオデコに乗せた。


〔あっひぃぃぃぃん〕パァァ


 ココナは【メンタル・キュア】を掛けられ、よだれを垂らしながら、白目をむいて昇天した。

 倒れ込むココナを抱き留め、ゆっくりと芝生に横たえるシズルー。


〔ミッション、コンプリート〕



 画面がホワイトアウトした。

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