エピソード47-23

ワタルの塔 1階 ロビー――


 睦美たちのHRが終わるのを待って、一同は塔に向かった。

 メンバーは睦美の他は静流、シズム、真琴に学園関係者であった。

 美千留は『塔』に行きたがったが、カナ子と共に家に帰らせ、達也たちともHR終了後に別行動をとった。

 国尼を出る際に、あらかじめシズルーには念話済である。


「さぁ、エレベーターに乗りたまえ」


 睦美はみんなをエレベーターに乗るよう促した。

 エレベーターはすぐ上の2階で止まった。


 ウィーン


 エレベーターから、睦美を先頭に、先生と生徒らしき者たちがぞろぞろと出て来た。

 すると、エレベーターのすぐ近くでシズルーが待っていた。


「やあ、シズルー大尉殿。お勤めご苦労様」

「これは柳生GM、ようこそいらっしゃいました」


 にこやかに手を挙げて挨拶する睦美に、うやうやしく頭を下げるシズルー。

 目を疑う光景に、一同は困惑した。


「あ! 朝のイケメン軍人さんだ!」

「睦美さん? 『GM』って何です?」


 ヨーコの頭に『?』マークが現れた。


「よくぞ聞いてくれた! GMとは、ゼネラル・マネージャーの事。そしてココにいる彼は、私の会社の傘下であるPMC『ギャラクティカ・ミラージュ』のエース、シズルー・イガレシアス大尉だ!」ビシッ

「以後、よろしく頼む」


 睦美に紹介されたシズルーは、学園の者たちに頭を下げた。

 睦美はさらに続けた。


「しかも、何と大尉は静流キュンの御親戚にあたるのだ!」ビシッ


 一同は、睦美から静流に視線を変えた。


「へへ。そう言う事だから、よろしく頼むね?」


 静流は後頭部を搔き、照れながらそう言った。


「え!? あ、確かに桃色の髪だわね」

「しかも超イケメンと来た。やっぱスゴいね。 静流様の家系って」

「この流れから、大体は想像付いたけど、確かにイケてますね……」

 

 ヨーコは、シズルーを見て何か直感的なものを感じたようで、それほど驚かなかった。

 静流がシズルーに声をかけた。


「お疲れ様、シズルーさん」

「よく来たな静流。さ、皆さんを応接室にお通しして」

「うん。みんな、応接室に行くよ」


「「「「はーい」」」」


 睦美が応接室にみんなを誘導する。

 真琴が睦美に聞いた。


「そう言えば、左京も呼んでましたね、『GM』と」

「当然だ! これでも我が『桃魔グループ』の取締役なのだから、GMと呼ばれてもおかしくは無いだろう?」

「それは随分お偉くなられて」

「ハッハッハ。そう噛みつくなよ、1stマネージャーの真琴クン?」

「ぐぬぬ……」


 そう言うやり取りをしながら、応接室へ向かう一行。

 シズルーが静流を呼び止めた。


「静流、ちょっとイイか?」

「はい。何でしょう?」

「ミッションまで少し時間が出来た。お互いの今までの出来事を確認しておこう」


 そう言ってシズルーは、周りに人がいない事を確認し、静流のオデコに自分のオデコをくっ付けた。


 【同期】パァァ


 淡い光に一瞬包まれたが、直ぐに霧散した。


「そうか。そんなことがあったのか……」

「すみません、結果的に静流様の尊厳を傷つけるような事となりまして……」

「気にしなくてイイ。お前はよくやってくれたよ。一個も間違った選択は無かった。ありがとう」パァァ

「勿体なき、お言葉……」ポォ


 ロディは、静流に褒められたからか、頬をほんのり赤くした。


「で、この後どうされますか?」

「そうだな。少しの間、入れ替わるか」

「御意」シュン


 静流とシズルーが、一瞬で入れ替わった。


「ヨーコたちが帰る頃、また入れ替わるからね」

「仰せのままに」


 素に戻った静流は、応接室に向かった。

 シズルーとなったロディは、4階に向かった。


「お待たせ、真琴!」

「静流!? もうイイの?」コソ

「ちょっとの間だけでも、みんなの相手しておいた方がイイと思ってね」

 

 本物に入れ替わっている事に、いち早く気付いた真琴。

 ロディに、ヨーコだけは気付かれている旨を【同期】で知っていた静流は、ヨーコに声をかけた。


「悪かったね、ヨーコ。退屈だったんじゃないの?」

「ふぇ? し、静流……様?」


 ヨーコは、驚きのあまり目を見開き、口を両手で押さえた。

 静流は人差し指を口にあて、『シィー』のポーズをした。


「さっきロディと【同期】した。あまりぱっとしなかったでしょ? ウチの学校」

「いえいえいえ! そんな事はありません! 絵だって素晴らしかったし」

「お世辞はイイから、率直な意見を聞かせて?」

「うーん。そうですね。私たちは静流様の生の魔法を受けていますので、少し物足りなさを感じましたね」

「あ、それ私にもわかる。他の子はアレで十分満足するんだな、って」


 ヨーコとの会話に、真琴が割り込んで来た。


「そっかぁ。アノ絵の事で面倒な事になってるんだったら、わざと紛失させるとかはどうかな?」

「バカね。そんな事したら、もっと大騒ぎになっちゃうでしょ?」


 また一人、話に割り込んで来る者がいた。


「それは悪手だな。お疲れさん、静流キュン」

「睦美先輩、あ。GM、でしたっけ?」

「好きな様に呼んでくれて構わないよ。他ならぬ静流キュンだからね」


 睦美は今後の予想を静流たちに話した。


「明日のオークションは、波乱含みになると見ている」

「そこを何とか、穏便に出来ませんかね?」

「フフ。静流キュンらしいね。やっぱ影武者クンと話すより千倍楽しいや」

「茶化さないで下さいよ。で、何か秘策とか無いんですか?」

「フム。どうかな?」

「ちょっとぉ、真面目に考えて下さいよぉ……」


 半ば楽しみながら曖昧な返事をする睦美に、静流が懇願する。


「むほぉ、困っている静流キュン、イイなぁ、実にイイ……」

「睦美さん、もうその位で。静流様が可哀そうです」

「おっと失敬。で、キミの学園もエントリーする可能性は?」

「フム……」


 さらにまた一人、話に割り込んで来る者がいた。


「恐らく、乗り出すと思います」チャ

「ニニちゃん先生!」

「私も気付いていましたよ? 何せ、先生ですから」チャ


 ニニちゃん先生は、ドヤ顔で静流に見栄を張った。


「ニニちゃん先生、僕的には学校間で遺恨が残るような事にならない様に済ませたいんですけど……」

「フム。そうですね……」


 ニニちゃん先生は顎に手をやり、少し考えたあと、睦美たちに提案した。


「例えば、各学校に絵を描いて渡す、と言うのは如何でしょう?」チャ

「成程、量産ですか。しかし、それでは絵の価値が下がってしまうばかりか、静流キュンに負担が掛かってしまうよ」


 睦美の意見に、静流は屈託の無い笑顔で言った。


「僕が絵を描いて寄贈する事で、全てが円満に解決するんだったら、喜んで描きますよ」パァァ


 「「「はっふぅん」」」


 静流のニパを受け、のけ反る一同。


「くぅ……やはり『生』は効くなぁ。 いや、それではマズい。そんな事をしたら、日本中、いや世界中からオファーが来てしまうよ」

「えっ!? それは困りますね……」


 五人は揃って腕を組み、首をひねった。


「「「う~ん……」」」

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