エピソード47-22

国分尼寺魔導高校 生徒会室――


 静流たちと学園の先生及び生徒は、生徒会室で談話していた。

 睦美がニニちゃん先生に聞いた。


「この後は、どうされますか? ニニ先生?」

「そうですね。学園には夕のお祈りまでに戻れば良いのですが、出来れば早めに戻って、今後の対策を相談しないといけませんし……」チャ


 睦美とニニとの会話を聞き、アンナがゴネ始めた。


「ええ~!? もう帰っちゃうの? だって時差6時間もあるんだから、夜までコッチにいても問題ナッシングでしょう?」


 確かに日本はアスモニアより6時間進んでいる。

 ヨーコとナギサがアンナに物言いをつけた。 


「アンナ? アッチに戻ってやる事だってあるのよ。わきまえなさい!」

「そんなに遊び倒したら、私たちがバタンキュウしちゃうでしょうに!」

「そんなに強く否定しないでよ! ぷぅ」


 そんなアンナに、ニニちゃん先生が追い打ちをかけた。


「そうですよミス・ミラーズ、第一、ミスター・五十嵐にご迷惑でしょう!」チャ


 ブーたれるアンナの横で、サラがぼそっと呟いた。


「私は、アキバとか、ナカノとかの『聖地』に行ってみたい、です……」

「それイイね。そう言う事だったら、俺が案内しよっか?」グッ

「ふぇ? でも……」

「くぉら! 達也ぁ~!?」グリグリ

「イテ、痛ぇぇぇ!!」


 サラは下を向き、困った顔をしている。

 達也の善意からの提案は、朋子の制裁により一瞬で霧散した。


「しかし、困りましたね……柳生さん、ちょっと」


 ニニちゃん先生は、睦美に耳打ちした。 


「この子たちを『塔』で預かって頂けませんか?」コソ

「それは構いませんが。一応管理者は静流キュンなので」

「あそこなら、色々な意味で安全でしょうから」

「わかりました。私が責任を持ってお預かりいたします」


 方針が決まり、睦美はみんなに説明した。


「えー、コホン。これから学園の方々は、我社の『VIPルーム』に案内する事となった!」

「ほう。GM、して、それはドコに?」

「左京、キミもおいおい招待するから、心して待っていてくれたまえ」

「はっ、御意」


 生徒会室にいる面々には、まだ『塔』の事を知らない者がいる為、睦美は肝心な所をぼやかして説明した。


「しょうがないわね。今日はこの位にしておくか」

「アンナ? 一体何様なのよ、アナタって」


 アンナとナギサが会話している横で、ヨーコは小声で真琴に聞いた。


「真琴さん、『VIPルーム』って?」コソ

「多分、『塔』の2階の事ですよ」コソ

「ああ、納得しました」コソ

「運が良ければ、会えるかも知れませんよ?『ホンモノ』に」コソ

「へ? ええ!?」ガタッ


 真琴の思いがけない発言で、ヨーコのエンジンに火が入った。 


「そ、それはまことですか!? 真琴さんっ!?」

「え、ええ。確かに私は真琴ですが……」

「そう来なくては! うぉぉ!」


 静流が影武者だった事から、今までローテンションだったヨーコは、一気にギアをトップに入れた。


「でも、仕事中だから、会えるかはわかりませんよ?」

「イイのです! お近くにいらっしゃる事がわかっただけでも!」フーフー


 そんな中、サラだけ下を向いている事に達也が気付いた。


「そっかぁ。じゃ、また今度な。サラちゃん」

「は、はい……」


 サラは残念そうな顔で、達也に苦笑いを向けた。

 それを見た左京のメガネに、窓から射す光がキラッと反射した。


「フッフッフ……そんなサラ先生に朗報が!」

「朗報? なんですか?」

「お耳を拝借」ごにょごにょ 

「へ? ええ~!?」


 サラの耳に左京が小声でささやくと、サラの顔がみるみる内に赤くなっていった。

 そして少しの沈黙のあと、サラはゆっくり口を開いた。


「……わかりました。そう言う事でしたら……」ハァハァ

「結構。サラ先生? アッチの方も、よろしくお願いしますね?」

「大丈夫です。やる気120%充填……です」フンッ


 サラの顔が次第に生命力を取り戻していった。


「では、色々と準備があるので、これにて解散!」

「お疲れしたぁ!」


 ささやかなお茶会は、これで幕を閉じた。





              ◆ ◆ ◆ ◆




ワタルの塔 4階 医務室――


 ココナの夢に割り込み、本体を連れ出すという荒唐無稽なミッションは、今夜行われるようだ。


「ミッション開始は夜。それまで仮眠でも取ってイメージトレーニングしておく事。イイわね?」

「「「了解!」」」


 ミッションに向けて英気を養おうとしている静流に、睦美から念話が入った。


「さて、ひと眠りするか……」


〔静流キュン、応答せよ〕

〔睦美先輩? 何かありましたか?〕

〔色々あって、学園の方々をそちらで預かってもらう事になったのだが、構わないだろうか?〕

〔問題ありませんよ。そちらの動向も把握しておきたいし〕

〔準備が出来たら、そちらに行くよ。では〕ブチ


 念話を切り、ため息をつくシズルー。


「ふう。向こうはどうなってるんだろう? 面倒な事になってなきゃイイんだけど……」

「どうしたの? 大尉?」

「学園の者たちが、二階に暫くいる事になったようだ」

「ミッションの邪魔にならなければ、私たちは問題無いけど」


 シズルーの返事に、アマンダは我関せずだったが、カチュアは少し反応した。


「え? あの娘たちが? ま、イイか」

「何か問題でも? 姉さん?」

「夕べ、吞み過ぎで帰らなかったから、ニニに怒られるかなって……」

「フン、自業自得です。ですが、接触はなるべく避けた方がイイですね……」


 ジルはそう言って、顎に手をあて、考えている。


「どうしたのよ、神父?」

「わかりませんか? 今回のミッションはあくまでも私用、プライベートなのです。ココを出入りしている所を、出来る限り見られたくありません」


 カチュアはポンと手を置き、納得の表情を浮かべた。


「なるほど。そう言えばウチって、バイト禁止だもんね」 

「今更ですが……その通りです」

「上手くやれば、会わずにやり過ごせるわよ」

「そう上手く行きますかね……」

「2階に行かなければ……あ、仮眠室は2階だったわね……どうしよう」


 アマンダは若干焦った。


「ま、何とかなるわよ……多分?」





              ◆ ◆ ◆ ◆





ワタルの塔 2階 娯楽室――


 シズルーは、2階に下り、娯楽室を覗いた。

 中には郁が、リナとゲームをやっていた。


「よお! 静坊、お疲れ」

「リナ姉、来てたんだ。気を付けてよ、今の僕はシズルー大尉なんだよ」

「悪りぃ。それより忍の奴、ちゃんと仕事してんのか?」

「やってるよ。今夜が『ヤマ』だと思うんだ」


 今のやり取りに、郁が食いついた。


「おい静流! ココナはそんなに悪いのか!?」

「イク姉? だから今の僕、シズルー大尉だってば。大丈夫。命に別状は……無いと思う」

「何じゃその言い草は!? ハッキリせんか!」

「あのねえ、イク姉、実は……」


 シズルーは今のココナの容体を、簡単に説明した。


「……つまり、心の病気、とな?」

「何か、めんどい奴だな、そのココナって奴」

「でも、忍ちゃんが発案した、夢を使って治療する方法を今夜実行するんだ。それで『ヤマ』って言ったの」

 

 郁はとりあえず納得してくれたようだ。


「薫子お姉様と雪姉は?」

「アイツらはドームにいる。その内顔出すかもな」

「そうだ! 実はさぁ、頼みがあるんだけど」

「ん? 何だ」


 シズルーはリナと郁に、カチュアたちの事情を話した。


「フム。要するに、学園の奴らに神父と女医がココにいる事を悟られない様にすればイイのか?」

「そう。何事も穏便に済ませた方がイイでしょ?」

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