エピソード47-12

学園内 アンドロメダ寮―― 白百合の間 


 寮に戻ったヨーコは、先に帰っていたアンナに事情を説明した。


「大変なのアンナ、かくかくしかじかで、静流様の高校に行く事になったの!」

「え? それは随分急だね。たしか展覧会やってるって?」

「そう。アナタも見たでしょ、アノ記事。それを確かめに私たちが行くの!」

「まぁ何でもイイか。コレで退屈凌ぎが出来るし♪」


 そうこうしている内に、ナギサがサラを連れて来た。


「サラには簡単に説明しておいたわ」

「これから静流様の高校に、行くんですか?」

「そうよ。気合入れなさいね!」フーフー


 ヨーコのテンションがグングン上がっているのが、周りのものを冷静にさせた。


「ちょっと待って、アタシたち、静流様の高校行った事ないじゃん」

「え? あ、そうだった……」


 アンナにそう言われ、ヨーコのテンションが急降下した。


「うぇ~ん、どうしよう!?」

「ヨーコ、アンタの猪突猛進ぶり、どうにかしないとね」

「でも、それがヨーコの持ち味? だったりして?」

「サラ、あまりヨーコを過大評価しない方がイイわよ?」


 ヨーコのテンションが下がりきった所で、アンナは溜息混じりに言った。


「簡単な事じゃない、念話すればイイのよ」

「静流様に!? いきなりじゃ、ちょっとハードルが高いよ……」


 ヨーコの念話恐怖症が、念話をためらわせている。


「あからさまに残念そうな声だったら、どうしよう……」

「クヨクヨしてないで、さっさと掛けなさいよ。アタシが掛けよっか?」

「ま、待って! うぅ、そうだ、アノ人に掛けよう」

 

 ヨーコは苦し紛れに睦美に念話を掛けた。


〔書記長閣下、応答願います!〕

〔ん? その声は、ヨーコ君かい? ちなみに私はもう書記長ではないよ〕

〔では睦美さん、早速ですが、学園の非公式ミッションで、そちらの『国尼祭』に行く事になったのですが……〕

〔ほう。それはそれは。大方見当が付くよ。『アノ絵』の事だろう?〕

〔はい。では存在するのですね? シズルカ様の絵が〕

〔ああ。我らの静流キュンの作品だ!〕

〔えっ!? 静流様の作品なのですか? ああ、何と素晴らしい!〕

〔セキュリティ面で作者名は伏せてあるがね。まぎれもない静流キュンの作品だよ〕

〔それで、私たちが実際に拝観させて頂く事になったのです〕

〔わかった。時差を考慮すると早く来た方がイイね。【ゲート】を使って、直ぐ『塔』に来れるかい?〕

〔勿論です。あ、でも少し身だしなみを整えないと……〕

〔わかった。今から30分後にしよう。コッチはお昼前だから、朝食は抜いたほうがイイよ。ウチでお昼にしよう〕

〔ありがとうございます。では、よろしくお願いします!〕ブチ


 睦美との念話を終えると、ヨーコのギアがトップに入った。


「さぁ準備開始よ! ほらアンナ、とっとと支度しなさい!」

「わかってるって。今どっちの勝負下着にするか、迷ってる所なの」

「そんなの、どれでもイイでしょうが! イヤミか?」

「つべこべ言わない。アナタも会いたいでしょう? 静流様に♪」

「もちのロンよ。よし、コッチの可愛い方にしよっと」





              ◆ ◆ ◆ ◆




学園内 保健室――


 ヨーコたちは保健室を訪れた。

 ヨーコたちは私服にするか迷ったが、学校の行事である事から、制服で行く事でまとまった。


 コンコン「おはようございます!」ガラッ


 扉を開けると、ニニが一人で紅茶を飲んでいた。


「ニニちゃん先生!?」

「御機嫌よう皆さん、神父から事情は伺っています」チャ

「あのう、カチュア先生は?」

「あの女狐は、事もあろうに、無断外泊致しました!」


「「「何ですってぇ?」」」


 ニニは眉間にしわを寄せ、右手を固く握った。


「全く、ドコをほっつき歩いてるのか……」

「それで、神父様からお聞きになってる、とは?」


 ヨーコはニニちゃん先生に恐る恐る聞いてみた。


「国分尼寺魔導高校へは、私が引率します」チャ

「先生が!?」

「何です? 何か問題でも?」

「いえ。特に」

「なら、よろしい」チャ


 ニニちゃん先生は、そう言ってメガネの位置を微調整した。

 アンナはニヤリと微笑み、ニニちゃん先生に聞いた。 


「先生が引率を? ははーん、さては先生も静流様にお会いしたいクチですね?」

「そ、そんな事……私はただ、ムムの学び舎に興味があるだけ……です」

「フフフ。そう言う事にしておきますか」


 アンナにいじられ、手をブンブンと振り回し、顔を赤らめるニニ。

 ヨーコは先ほどの睦美とのやり取りを、ニニに説明した。


「わかりました。少し早いですが、『塔』に乗り込みましょう」


 ニニは保健室の隅にある、掃除道具が入ったロッカーを開ける。


「では、参りましょう」



「「「「はい!」」」」



 先生たちの後を、恐る恐る付いて行く四人。一瞬で塔の1階ロビーに出る。


「気味悪い。なかなか慣れないわね……」


「2階で待たせて頂きましょう。さぁ、エレベーターに乗って」チャ


 ニニちゃん先生は生徒たちをエレベーターに案内した。





              ◆ ◆ ◆ ◆





ワタルの塔 二階 応接室―― 少し前


 仮設住宅から塔に『出勤』したシズルーに、意外な来訪者が挨拶して来た。


「おはよう、お勤めご苦労様。シズルー大尉殿?」

「睦美先輩!? どうしてココに?」

「いやちょっとね。ココを少し借りたいんだよ」


 睦美はいろいろな事情をシズルーに説明した。

 

「そんな事になってるんですか? しかもヨーコたちまで!?」

「ああ。アノ絵争奪戦は、恐らく三つ巴になると私は踏んでいるよ。フフ」

「笑いごとじゃありませんよ……ふう、まいっちんげ」


 シズルーが落ち込んでいる様を、睦美は愉しんでいる様に見えた。


「ちょっと待った! コッチに来ない様にみんなに言って来ます!」タッタッタ

「悪いね、世話を掛ける」

 

 医療チームは既に4階に上がっており、今現在2階にいるのは、夏樹、瞳、ケイといまだに4階に顔を出さない郁であった。

 シズルーは食堂にいるみんなに事情を話し、暫く食堂を出ない様に説明した。


「あ、もうすぐ来ちゃうじゃないですか! 僕は4階に行きますんで、あとお願いしますっ」

「わかった。任せてくれ」


 シズルーがエレベーターに向かおうとしたその時、エレベーターの扉が開いた。


 ウィーン


 エレベーターから先生と生徒らしき者たちがぞろぞろと出て来た。

 うっかり鉢合わせてしまったヨーコたちとシズルー。


「えーっと、睦美さんは…… ん? 軍人さん?」

「何々? どなた? うわ、超イケメンじゃないさ」

「軍服から察するに、統合軍のお方では無いようね。ワケアリかしら? ムフ」

「あれ? この人、どっかで見たような……ピンクの髪、素敵」

「アナタたち、大人しくしなさい! すいません、騒がしくしまして」チャ


 それぞれが感想を言い合い、ニニが生徒たちを叱った。


「フフフ。構わんよ。学生諸君、青春を謳歌したまえ」

「「「はーい」」」

「むふぅ。イイ声ねぇ♡」


 シズルーの声にいち早く反応したのは、ナギサだった。

 すると、奥から睦美が出てきて手を挙げた。


「おーい、皆さん、コッチですよぉ」

「あ、どうもぉ」


 睦美に気付いたヨーコが手を振って応じた。


「では、私はこれで」

「お疲れっーす」


 そう言ってシズルーは、右手を挙げ、エレベーターの方に歩いて行った。

 アンナはシズルーの背中越しに声を掛けた。


(ふぅ、何とか誤魔化せたかな。今ヨーコたちにバレると、いろいろ厄介だからな)


 一行は睦美と合流した。


「どうもニニ先生。よくいらっしゃいましたね」

「ミス柳生、ご協力、感謝いたします」チャ

「そうかしこまらなくても。フフ。ムムちゃんが驚く顔が目に浮かびますよ」

「フフフ。それは楽しみですね」


 緊張がほぐれたニニは、睦美に微笑んだ。


「睦美さん、今の軍人さんって何者?」

「ああ、彼はウチのPMC『ギャラクティカ・ミラージュ』のエース、シズルー・イガレシアス大尉だよ」

「そう言えば、会社を立ち上げたんでしたね」

「ああ、まだまだ準備段階だけどね。早速だが行きましょう」


「「「「お願いします」」」」

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