エピソード44-5

桃魔術研究会 第二部室 睦美のオフィス――


 静流と真琴、シズムは、放課後、睦美のオフィスに呼ばれていた。

 PMCがらみの件で、ライブチャットを執り行う為である。


 国尼メンバーは、静流、睦美、真琴、シズムと、技術担当にカナメである。

 学校にある一番大きいディスプレイを持ち込んでいる。


「睦美先輩? 今日のチャットはどんなメンバーなんです?」

「主に軍関係だね。あとはお姉様たちが、どうしてもって聞かなくてね……」

「波乱が無ければイイんですけど」

「それは問題無い……と思う」


 ちなみにチャットメンバーは、


「国尼メンバー」静流、睦美、真琴、シズム、カナメ

〔アスガルド組〕アマンダ、リリィ、レヴィ

〈薄木組〉郁、澪、萌

{太刀川組}ジェニー、ルリ

[流刑ドーム組]薫子、忍、リナ


 と、そうそうたるメンバーとなった。

 約束の時間が来た。


「よぉし時間や! いくでぇ、3・2・1、キュー!」


 カナメのキューで回線が繋がった。


 右下のマス、流刑ドーム組が一番乗りだった。


[静流ぅぅぅぅ!]

[静流ぅ……やっと、動いてる静流が、見えた……]

「し、忍ちゃん? なんか痩せてませんか?」

[静流ぅ、お姉ちゃんたちは、アナタとの約束、ちゃぁんと守ってるんだからね。グス]

「え? 泣いてる!? 何で?」

[おう静坊。こいつらは今まで相当我慢してたんだ、気の利いたセリフでも言ってやれよ]


 訳アリの姉たちは、目立つ事を避ける為、静流に会う事を自粛していた。

 それに加え、色々と忙しかった静流は、姉たちとのコミュニケーションを怠っていた節があった。


「お姉様たち、元気?」

[う、うん。元気、だよ]


 画面の薫子は、苦笑いを浮かべ、そう言った。


「どうしたの? 元気無いね。何か問題でも?」

[ち、違うよ静流、ちょっとバイトが忙しくってね]

「バイトって? お金が必要なの?」

[何かと、物入りなのよ]


 そんな事を話していると、隣の左下に薄木組が写った。


〈おお!静流、変わり無いか?〉

「イク姉も、相変わらずみたいですね?」

〈静流クン、ちゃんと食べてる? 睡眠は?〉

〈静流様、良かった。お元気そうで〉

「ミオ姉、萌さん、大丈夫、子供じゃないんだから心配しないでよ」


 次に写ったのは、右上のマスで、太刀川組であった。


{ヤッホウ♪ 静流クン!}

{ム、ムホホホ~ッ! リアルタイムです! ライブです! 純生です!! すいません、取り乱してしまいました。静流様、御機嫌よう、ムフゥ}


「ど、どうも。なんだろ、このハイテンション具合は……」


 最後のマスは、左上のアスガルド組だった。


〔はい、皆さん注目! 揃ったみたいね。では始めます〕

〔静流クーン、元気?〕

〔静流様、お約束の件、やっと実現、出来そうです!〕

「レヴィさん。お疲れ様でした」

〔でもさぁ、レヴィって何か動いたわけでも無いよね?〕

〔ギク……そないな事、言わんといてぇな〕


 司会のアマンダが、挨拶を始める。


〔えー、御機嫌よう皆さん。早速ですが……]


 アマンダが話し始めているのを完全に無視して、4分割のディスプレイの中で、それぞれの組がわちゃわちゃしている。


〈おい!ルリ、ココナの奴めは、その後どうなったんだ?〉

{まだ進展ないの。え? 今日の議題ってその件だと思ってたんですが!?}

〔そっか、中尉殿と少尉殿は、あそこの隊長と同期でしたね?〕

〈奴とは腐れ縁だ!〉

{ココナもイクも強情だからなぁ。昔はバディだったのに……}

〈ルリ! それはもう昔の事だ!〉

「バディ、って相棒って事でしょう? イク姉?」

〈う、うるさい! 昔の事だ〉

[ね、ねえ静流? 軍の保養所って、私たちも利用できる、かな?]

「うん、出来るよ。軍の人のエスコートがあればね。温泉もあるし……」


 話が一向に進まないので、アマンダはキレた。


〔だぁまらっしゃぁぁぁい!!〕


「〈〔[{!!!!}]〕〉」


 アマンダの一喝に、一同は沈黙した。


〔コホン。いい?今回の仕事は、『竜崎ココナ』の病状を特定し、治療する事、です〕


「竜崎ココナさんって、『カラミティ・ロージーズ』の隊長さん、ですよね?」

「ああ。コードネーム『ドラゴン・フライ』、私がコンタクトを取りたかった人だね」

「その人がピンチなら、助けなきゃ」


 静流は真剣な顔になり、そう言うと、画面の向こうに反応があった。


〈良く言った静流、偉いぞ!〉

{ああ、静流様ぁ、繋がりたい……です}

〈少尉殿? その表現、露骨ではないでしょうか!?〉


 アマンダは続けた。


〔竜崎ココナ大尉は、原因不明の病にふせっています。今まで、現代医学、魔法医学、はてはサイコ医学まで、多岐にわたる検査を行いましたが、全て原因究明には及びませんでした〕

「あとは、オカルト要素位ですかね? 『呪い』とか?」

〔静流クン、冴えてるわね。 そう。恐らくは『呪い』だと私も思ってる〕

「すると、【解呪】ですか? 僕よりも、美千留の方が得意ですけど」


 そんな話をしていると、ジェニーが割り込んで来た。


{すいません、少佐、間違っていたらごめんなさい}

〔何かしら? 宗方ドクター?〕

{オカルト方面に精通している医者に、心当たりがあるんですが……}

「そんな人がいるんですか? 宗方ドクター?」

{ええ。先輩に聞いたんですが、その昔、報酬次第で何でも治療しちゃう、凄腕の医者がいた、らしいのです}

「ん? 最近、そんな話を聞きましたね……芸能事務所の社長さんに聞いたんですけど、確か『黒孔雀』と言う伝説の闇医者がいるって言う話」

{そう! その方なら、もしかするとこの難病を治療出来るのでは……と思いまして}


 ジェニーは、画面越しにアマンダを見た。


〔確かにいるわね。静流クン、アナタはもうとっくに会ってる〕

「へ? 誰です?」


 レヴィはポンと手を打ち、何か思い出した。


〔ああ、そのお方なら、この間お会いしましたよ? ねえ、少佐殿?〕

「え? 会ったんですか? レヴィさん?」


 静流は意外な展開に動揺している。

 アマンダはゆっくりと口を開いた。


〔だって『黒孔雀』は、私の……姉だからよ〕


「うぇ!? カチュア先生が『黒孔雀』!?」

{やはりそうでしたか。如月という名字に、何か引っかかっていまして}

〔そう。姉の如月カチュアは、かつて『黒孔雀』と呼ばれた伝説の『闇医者』。法外な額の報酬をもらって、裏でヤバい患者とかを診ていたの。高度な医療魔法を使ってね。安心して。闇とは言え、医師免許は持ってるから〕

〔そうでしょう? お会いした時、ピーンと来たんですよね、少佐殿のお姉様が伝説のお医者様……エモい、エモ過ぎますぅ〕


 アマンダは姉の事を語る時、確実にテンションが沈んでいる。

 レヴィは妄想を膨らませ、身をよじっている。


〔あの人に借りが増えるのは癪だけど、仕方ないわね。軍からも正式に依頼を出すか……〕


 アマンダはブツブツとかすかに聞こえる位のボリュームで呟いた。 


「アマンダさん、カチュア先生に診てもらうわけにはいきませんか?」

〔さぁね。あの人の事だから、その時の気分次第ね……〕

〔大丈夫。二つ返事でOKだと思うよ♪〕

「リリィさん? そんなに上手くいきますかね?」

〔静流クン、キミのお願いなら、ね♪〕


 リリィが画面越しに下手なウィンクをした。


「あの先生なら協力してくれるさ。私もそう思うね」

「睦美先輩まで? 一応頼んではみますけど……」


 静流は、カチュア先生に念話してみた。

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