エピソード44-3

五十嵐家 静流の部屋――


 その日の夜、ドラマの撮りが終わったシズムが帰って来て、静流の部屋で休んでいた。


「お疲れ。状況はどうなってるの?」

「こちらは順調にこなしています。あちらは、お待ちください、只今アップデート致しますので……」


 ロディは、分身とシンクロし、記憶のアップデートを始めた。 


「アップデートが完了しました」

「軍に行った方のロディの状況は?」

「軍からの正式な発注があり、少佐殿たち一行は、クライアントである、ダーナ・オシー駐屯地に明日、事前打ち合わせに行かれる予定です」

「ダーナ・オシー駐屯地って、アフリカの?」

「はい。【簡易ゲート】を、薫子様がご用意して下さいました」

「薫子お姉様が!? って事は……」

「忍様と、リナ様がご一緒でした」

「リナ姉まで? こりゃあ、無傷じゃ済みそうにないな……」

「少佐殿は本件の内容を確認し、条件に満たない場合は、契約を反故にするおつもりです」

「じゃあ、その仕事を受けるかは、その打合せ次第なんだね?」

「左様でございます」





              ◆ ◆ ◆ ◆





アスガルド駐屯地 魔導研究所内 事務所――


 ダーナ・オシー駐屯地との事前打ち合わせの日取りとなった。


「みんな、準備はイイかしら?」

「大丈夫です。いつでも行けます」


 打合せに参加するメンバーは、仲介役のアマンダ、補佐にリリィとレヴィ、それにロディである。

 静流にはロディから報告は済ませており、分身は現在、シズムとして学校で静流の傍にいる。

 仁奈は、アミダくじでドベを引き、留守番となった。


「リリィ、観光じゃないんだからね、ちゃんと交渉して来るのよ?」

「わかってるって。ちゃんとお土産買って来るから♪」


 アマンダは【簡易ゲート】の前に立つと、みんなに言った。 


「じゃあ、行くわよ?」

「「「了解!」」」




              ◆ ◆ ◆ ◆





ダーナ・オシー駐屯地 正門――


 アマンダたちは、約束の時間を少し早めに到着した。

 ここダーナ・オシー駐屯地は、北アフリカの地中海に面したモロオカにあり、夏は乾燥し、冬は多雨であり、雪も見られる。

 一年の平均気温は、アスモニア等とさほど変わらない、比較的住みやすい地域といえよう。

 

「へえ。アフリカって言っても、ただひたすら暑いってわけじゃないんだね?」

「アフリカ大陸は広いわ。この辺りは住むにはもってこいの所よね。物価も安いし」

「少佐殿、あちらが正門です!」


 そんな事を話している内に、正門が見えて来た。

 よく見ると、二人の隊員が立っている。


「さぁ、出陣よ。ロディちゃん、お願いね」

「承知しました」シュン


 ロディは『あの方』に変身した。

 服装はシズルーと同じ系統の、旧ドイツ軍親衛隊の黒を基調にした軍服である。

 やがて正門に着く。


「御足労頂き、ありがとうございます、ローレンツ准将閣下!」

「『元』な。もう退役したんだ、そう言うの止めてくれんか?」

「し、失礼致しました!」


 そう言って最敬礼した二人の隊員に、アマンダが声を掛けた。


「ご苦労様。『代表』は長旅でお疲れです。早いとこ中に案内して頂戴?」

「は、かしこまりました!」


 守衛で手続きを手早く終えた二人は、一行をエスコートする。


「自分は独立混成旅団 独立遊撃部隊 副隊長 村上 夏樹曹長であります!」 

「同じく、植木 瞳伍長であります!」


 村上夏樹曹長は、金髪をポニーテールにしている、ややつり気味な青い目が特徴の隊員であった。

 植木瞳伍長は、深緑の髪を二つに編み込んだ、色白の隊員であった。


「別名『カラミティ・ロージーズ』の隊員さんたちですよね? 有坂リリィ曹長です」

「いかにも。まぁ、その呼称については、自分たち的には不本意なのですが」

「まだイイ方ですよ? 『ブラッディ何がし』に比べれば……」

「あの隊ですか……」

「何かあるんでしたっけ、あの隊と?」

「隊長同士が、ちょっと……」

「あのオチビ、問題ばっかり起こしてるのね!」

「少佐殿は、榊原中尉殿と面識があるのですか?」

「まぁね。あるミッションで知り合ってからは、何かにつけてウチに厄介事を持って来るわね」


 それを聞いた瞳が、夏樹に耳打ちした。


「ナッキー、頼んでみたら?」

「そうだね。あとでお願いしてみよう」


 程なく司令室に着いた。夏樹がドアをノックする。コンコン


「司令! お客様がご到着されました!」

「よし! お通ししろ!」


 良く通る声がして、夏樹はドアを開ける。


「遠路、お越し頂き、誠にありがとうございます、ローレンツ准将閣下!」ザッ


 目に入るなり、ここの最高責任者と思しき将校が挨拶した。


「だから、『元』だと言っておろう。部下にも言ったがの」

「し、失礼致しましたっ!」


 先ほどの二人と同じリアクションをとる最高責任者。


「尾崎司令、閣下は現在、PMC『ギャラクティカ・ミラージュ』の代表として、社会に貢献していらっしゃるのです」

「呼び名なんぞ、どうだってイイわい! カッカッカ」


 尾崎と呼ばれた司令は、エスメラルダとアマンダをソファーに座らせる。

 リリィとレヴィは、その後ろで、夏樹たちと休めの姿勢を取っている。


「お前たち、別室にお通ししなさい」

「は、失礼します。皆さん、こちらに」

「ども」


 リリィたちは、夏樹たちと司令室を出て行った。

 部下たちが出て行ったのを確認し、尾崎は改めて挨拶した。


「お忙しい中、お時間をお割きいただきまして、ありがたく存じます。 私がダーナ・オシー駐屯地司令、尾崎クリスティーナ であります! 差し支えなければ、クリス、とお呼び下さい」


 そう言ってクリスは最敬礼した。


「エスメラルダ・ローレンツ。こっちは、アスガルド駐屯地、魔導研究所の如月アマンダ技術少佐だ」

「ご丁寧にどうも。如月少佐、お噂はかねがね」

「噂? 何でしょうか?」

「レッドドラゴン討伐を始め、異空間貯蔵庫の調査等、多岐にわたる活躍、素晴らしい」

「やけに詳しいですね? 超常現象にご興味がおありで?」

「もう、そんなにかしこまらないで下さい。私が一番年下なんですから」

「そう言えばアナタ、史上最年少司令でしたね? 確か今年で?」

「145でぇす♪」


 そう言うとクリスは、立ち上がり、くるっと一回転した。


「言って下されば、空港までお迎えに上がったのですが……」

「イイのよ。移動時間は実質そんなにかかって無いしね」

「どういう、事でしょうか?」

「御免なさい、機密事項なの」

「うう、気になりますぅぅ……」




              ◆ ◆ ◆ ◆




厚生施設内 喫茶『アッセンブルEX-10』


 部下たちは、喫茶店でお茶を飲んでいた。


「へえ、イクちゃんが? 意外ですねぇ?」

「最近遠回しにメールが来まして、ウチの隊長は大丈夫か? と」

「直接やらないのが、中尉殿らしいですね。かわいらしい」


 リリィたちはそんな話を聞いて、郁を少し見直した。


 夏樹は真剣な顔になり、リリィに語り始めた。


「実は、姫……、ウチの隊長なのですが……」 


 話始めたその時、微妙なタイミングで一人の隊員が店に入って来た、


「あ、副隊長、お呼びですか?」

「ケイ? こっちにいらっしゃい」くいっ


 夏樹は店に来た隊員を手招きした。


「皆さん、この子は谷井 蛍兵長。ウチの隊員です」

「初めまして、ではないですね?」

「うん。何かの時にチラッと」

「私は先日、下見に来た時に」

「そーですよね。あ、もしかして、依頼、受けてくれるんですか? うわぁい」

「こらケイ! 早とちりしない!」

「あぐっ」


 瞳はケイに突っ込みを入れた。


「で、シズルー大尉はどこ?」

「残念。今日は来てないよ」

「そーなんだ。ちょっとがっかりだな……」ぷぅ


 ケイは頬を膨らませ、あからさまにぼやいた。


「ケイ!? 失礼しました」

「はぶぅ」


 瞳はケイの頭をグリグリと押さえつけた。


「ハハハ。まぁまぁ、その位で勘弁してあげて下さいよ」

「リリィ殿がそうおっしゃるのなら」 

「そうですよ。今回の影の功労者は、ケイちゃんなのかも知れませんから、ね?」

「は? どういう意味ですか?」


 夏樹たちは揃って首を傾げた。当のケイもわけがわかっていない。


「大尉が太刀川で、キミたちと会えたから、こういう事になってるんだと思うわよ?」

「なるほど。確かにそうですね」


 うんうんと頷く二人。ケイはまだ首をひねったままだった。


「でも、良く入札して下さいましたね? ダメ元だったんですよ?」

「他にも声掛けてたんでしょう?」

「ええ。ですが、形式上声を掛けただけです。本命は決まっていましたから。ね、瞳?」

「はい。何でも、正式な発注形式じゃないと、ハネられると上の方からキツく言われたらしいですよ?」

「ふぅん、そうなんだ」


 それを聞いて、レヴィはリリィに耳打ちした。


「どうやら、効果はあったようですね?」

「うん。予想以上に、ね」


 リリィは本題に入った。


「で、詳細は非公開だったけど、あのPMCでないとマズい案件なの?」

「え? 聞いていないのですか? おかしいな……」ギロ

「ひっ、話しましたよぉ? 宗方ドクターと藤堂少尉には」


 夏樹に睨まれ、ワタワタしているケイ。


「ああ、太刀川の。はて? この間チャットで何か言いたそうにしていましたが、その件でしょうか?」


 レヴィは、先日のチャットで、ジェニーやルリの様子が少しおかしかったのを思い出した。


「言いにくくなるのも、無理は無いです……」

「そうですね。何せ、原因不明の病、ですから……」


 三人のテンションが一気に沈んでいくのを目の当たりにして、リリィたちは動揺した。 


「ま、お互いにワケあり、という事で、仲良くやりましょうや」

「フフ。賛成です」


 リリィは夏樹に握手を求め、夏樹は素直に応じた。

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