エピソード44-2

ワタルの塔 二階 娯楽室――


 アマンダとリリィが『塔』の娯楽室に行くと、先客がいたようだ。


「あ! 来てくれたんだね。ありがとう」

「どうもリリィさん。雪乃がココに行けば、面白い事があるかもって言うから」

「どーでもイイから、静流に会わせて」


 先に『塔』にいたのは、薫子と忍であった。 


「よく来てくれたわね。感謝します」

「御機嫌よう、少佐殿?」

「どうも」


 薫子は特に変化は見られないが、忍は、目の下にクマが出来ており、少しやつれた印象であった。 


「忍ちゃん、何か元気無いね? さては、『ニパ』の効力が切れたな?」

「うう。静流に迷惑が掛かるって、薫子が下手に動くなって言うから、静流に会うの、ずうーっと我慢してた……」

「そっか。もう少しの辛抱だからね?」


 忍は、養分が枯渇しているようで、生命反応が弱く、声も小さい。


「静流は? どこ?」

「ごめんなさいね、今日は呼んでないわ」

「じゃ、帰る。行こ、薫子」


 忍は、静流がいないとわかると、ドームに帰ろうと薫子を促した。


「お待ちなさい、特に薫子さんは」


 アマンダは薫子を引き留めた。


「私をココに呼び出したって事は、何か事件かしら?」

「薫子さん、アナタにお願いがあるの。【ゲート】を新設してもらいたいの」

「え? 何ですって?」 

「静流クンの為なの。協力して頂戴」

「それを早く言いなさいよ。で、何処に作るの? 私だって、あれから随分上達したんだからね?」

「落ち着いて。今説明するから」


 アマンダは二人に事情を説明した。


「何ですって? それじゃあ静流が軍の犬になっちゃうじゃない!」

「低賃金でコキ使われるなんて……絶対ダメ! ぐるるる」

「忍ちゃん!? どうどう。少なくとも低賃金ではないと思うよ」


 案の定、姉たちは憤慨した。


「で、協力お願い出来るかしら?」

「勿論! 丁度良かった。最近退屈だったのよ。静流も構ってくれないし……」 

「ありがとう。私たちが静流クンを護るのよ」

「そう言う事なら、ひと肌どころじゃなく、五肌くらい脱ぐ!」


 忍の目に、やる気の炎が灯った瞬間であった。


「とりあえず、ウチの事務所に来てくれるかしら?」





              ◆ ◆ ◆ ◆





アスガルド駐屯地 魔導研究所内 事務所――


 アマンダたちが【ゲート】を使い、姉たちを連れて戻って来た。


「ただいまレヴィ。お姉さんたちを連れて来たよ」 

「ようこそいらっしゃいました。ささ、こちらに」


 事務所のソファーに通された姉たちは、いつの間にか3人になっていた。


「おや。リナさんも来て下さいましたか」

「ああ。退屈凌ぎにはなりそうだからな」


 ソファーに座ると、薫子は早速アマンダに聞いた。


「それで、私はどうすればイイのかしら?」

「アナタ、一度行った所以外にも、座標設定出来るの?」

「ふっふっふ。勿論よ。誰かの記憶とリンク出来れば、だけどね」


 薫子はドヤ顔でそう言った。


「結構。今回のターゲットであるダーナ・オシー駐屯地には、わたしもちょっと前だけど行った事があるわ」 

「どの位前なの?」

「竣工のセレモニーに呼ばれた時だから、55年位前、かしら?」

「ちょっとどころじゃなくて、随分前じゃない! 大丈夫なの?」

「駐屯地の中じゃ、新しい方よ」


 薫子は溜息をつくと、アマンダに言った。


「そこに横になって、オデコを出して」 

「こう、かしら?」


 アマンダのオデコに、薫子は自分のオデコを重ねた。 


「【メモリーサーチ】うわっ! ちょっと、何よコレ!? アンタ、どう言う思考してんの?」


 薫子は顔を赤くして、アマンダの方を軽蔑を含んだ目で睨んだ。 


「うん? 何を見たの?」

「変態! 静流をあんな体位だったり、こんな体位だったり……最低!」


 キョトンとしているアマンダを、薫子は指を指して非難した。


「ああ、アレ? 考えてるわよ、いーっつも。アナタもそうでしょう?」

「わ、私は……常に、じゃないから」ポォ


 開き直ったアマンダが、薫子にカウンターを浴びせた。


「と、とにかく! 場所よ、場所を思い浮かべて頂戴!」

「フフ。わかったわ。結構ウブなのね? アナタ」

「からかわないでよ! もう」


 気を取り直して、再度トライする薫子。

 テーブルには、地図と、駐屯地名鑑のダーナ・オシー駐屯地の頁を開いた状態にしてある。


「今、位置を思い出してる。ココよ」

「【メモリーサーチ】よし。頭に大体入ったわ。イケるわよ」


 薫子はアマンダから離れ、親指を立てた。


「とりあえずの【簡易ゲート】なら、いつでも作れるわ」

「結構。レヴィ、先方にアポを取りなさい」

「は、かしこまりました!」


 アマンダはすくっと立ち上がり、部下に命じた。


「よぉし、役者を揃えて、最終打打合せよ!」

「了解!」




              ◆ ◆ ◆ ◆





 数十分後、その流れで薫子に【簡易ゲート】の設置を完了させた。


「出来たよ。ココで合ってる? 覗いてみて」

「私が行ってみたいです! 少佐殿」

「レヴィ? じゃあ、お願い」

「了解!」


 ブリーフィングルームに設けた【簡易ゲート】を、レヴィは恐る恐る通った。


「む? ここは……どこでしょう?」


 レヴィはキョロキョロと辺りを見渡す。

 そんな様子を見ていた、鮮やかなシアンの髪をした、背の低い、少女とも言えそうな女性隊員が話しかけて来た。


「どうしたの? 迷子? って兵長さん?」


 女性隊員はレヴィの階級章を見て、少し驚いた。


「いかにも私はレベッカ・フレンズ兵長ですが……ケイちゃん?」

「ああ、レヴィさん、でしたっけ? いかにも、谷井 蛍上等兵であります」


 二人は多少面識があるようだ。


「よかった。ココはダーナ・オシー駐屯地ですよね?」

「うん。もう少し行った所に正門があるよ。あっち」


 ケイは、駐屯地の方を指さした。


「あ、レーダーが見えますね。タカン局舎でしょうか?」

「うん。そうだねって、何処から来たんです?」

「ちょっと下見に来ましてね。ご協力、感謝します」

「ん? 下見??」

「では、失敬」


 レヴィは軽く敬礼をすると、空間に出来た穴に入って行った。

 

「ん? あれ? いなくなっちゃった?」


 ケイはキョロキョロと辺りを見回すと、首を傾げた。


「何だったの? 超自然現象? おっと、早く帰ろっと」


 不思議がっていたケイは、何かを思い出し、駐屯地の方に駆けて行った。





              ◆ ◆ ◆ ◆





 レヴィがブリーフィングルームに戻って来た。


「ふう。只今戻りました」

「ご苦労。で、位置は合ってた?」

「駐屯地正門から数百mと言った所でしょうか。目立たない所で、とりあえずはOKかと」

「そうね。仕事が決まったら、最適な位置に固定しましょう」


 【簡易ゲート】の設置は、成功であったようだ。


「薫子さん、無事に行けたみたい。成功よ」

「ふっふっふ。そうでしょう? この位、簡単よ♪」


 薫子はドヤ顔でそう言った。


「少佐殿、向こうでケイちゃんに会いましたよ?」

「そう。変わりは無い?」

「見た感じは、前に見たままでしたね」

「そう。彼女は静流クンの『施術』受けてるのよね?」

「そのようですね。みのり殿にそう聞きましたが」


 アマンダは薫子に言った。


「お疲れ様。報酬は何を用意する?」

「何でも、イイのかしら?」

「内容によるわね。とりあえず言ってみなさい」


 薫子は少し考えたのち、ゆっくりと口を開いた。


「今回の件って確か、睦美の所でPMCを作るってヤツだったわよね?」

「そうよ。それが何か?」

「私を、その会社で雇って」


 薫子は真剣だった。


「雇用については、睦美さんに相談して。暫くは静流クンだけで運用するつもりらしいけど」

「アナタから頼んでくれればイイの。お願い」

「当然私も、もれなくついて来る」

「わかったわ。約束します」


 薫子はアマンダに握手を求め、アマンダは素直に応じた。

 忍は握りこぶしを作り、やる気になっている。


「面白そうだな、アタイにも一枚噛ませろよ」

「リナも? そうね。戦力にはなるか」

「陽動専門」

「何だよそれ? アタイは狂戦士じゃないっての」


 ここに、社員No.2から4までが、水面下で内定した。

 事前打ち合わせについては、人数を最小限に絞ることになったので、姉たちの出番はお預けになった。


「ちぇ、何だよ出番なしか?」

「まぁ、その辺で遊んでてくれて構わないから」

「忍ちゃん、見たかったんでしょ? コレ」

「む? 新入荷の本!」

「ネットも使い放題よ。好きなだけ遊んでってイイわよ♪」


 そのあと姉たちは、軍の施設を散々使い倒し、満足げに帰って行った。

 移動手段を手に入れたアマンダたちは、あとは本番に臨むのみとなった。

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