エピソード42-7

【特典映像】 『天誅! 許すまじ不正!』の途中


某飛行場―― 将校クラブ 個室 夕方


 夕日が差す個室で、褐色の肌の女性将校が、グラスにワインを注ぎ、香りを堪能していた。  

 すると、別の部屋が何やら騒がしい。


「何だ、貴様は! へぶぅ」

「不審者だ! 取り押さえろ! ぐしっ」


 そんな声がしても、女性将校は動じず、相変わらずグラス揺らし、ワインの香りを楽しんでいる。

 騒ぐ声が次第に近づいて来ると、間もなくこの部屋のドアがノックされた。


「少佐殿! た、大変です!」

「何ですか? 騒々しい」


 ドアが開き、青い顔をした兵士が最敬礼する。

 その兵士の後ろに、黒い軍服の男が立っていた。


「案内ご苦労」ビシッ

「ぐはぁ」ドサッ


 兵士は首筋に手刀を食らい、無力化された。


「やっと来たわね、シズルー。待ちくたびれたわ」

「私は、貴殿に招待された覚えはありませんが?」

「どうやら正気みたいね? ふん、さてはジョアンナの奴、しくじったわね?」

「私を篭絡するには、ちと役不足でしたね?」

「そんな事イイから、まぁ座って」


 女性将校は、シズルーを座らせ、ワインを注いだ。


「疲れたでしょう? 一杯如何?」

「此度の件、説明して頂けないでしょうか? 少佐殿?」

「説明も何も。私はアナタが欲しい。それだけ」

 

 そう言って女性将校は、グラスのワインを口に含んだ。


「仕事の依頼であれば、正式な発注方式に従って頂きたいのですが?」

「そんなもの、私の知ったことじゃない。欲しいから奪う。それだけよ」

「……ココにいる理由が無いので、帰らせていただく。では」


 この不毛なやり取りに、シズルーは席を立った。


「お待ちなさい! イイのかしら? この子がどうなっても?」


 女性将校は、シズルーにモニターを向けた。

 モニターに映っているのは、身長150cm程の女の子が、下着姿ではりつけにされ、数頭の軍用犬に体中を舐めまわされている所であった。

 小柄ながら、たわわに実ったバストを包んでいるブラジャーが、軍用犬たちに脱がされる寸前であった。 


「何!? 待て! ケイコをどうするつもりだ?」

「何って? ワンちゃんたちとイイ事をするのよ。さぁ、私たちも楽しみましょう? んむぅ」


 女性将校がじりじりとシズルーとの距離を詰め、顔を近付ける。すると、



  ド……ドォォン!



 少し離れた所から、何かが爆発した音がして、程なく地響きが起こった。


「な、何事?」

「ククク、そうか。そう言う事か」


 シズルーが不敵に笑いだす。女性将校は何が起きたのか、いまだにわかっていない。


「何が起きているの? 教えなさい!」

「来たのだよ、『あの方』がな」

「『あの方』?……ま、まさか、そんな事、ありえないわ……」


 動揺している女性将校から距離を取るシズルー。


「そんなに快楽を求めるか。ならば見せてやろう。本当の【魅了】とは、こう使うのだ!」


 シズルーはメガネを外すと、女性将校を鋭い眼光で捕らえる。


「【魅了】!」パァァァ

「はっふぅぅぅん♡」


 女性将校は、シズルーの目から発した桃色のオーラを浴びると、たちまち精悍な顔が緩み、目が♡マークに変わる。


「さあ吐け! あの少女はどこにいる!」 

「だ、第三格納庫よ……はぁ、お願い、楽にして頂戴!」はぁはぁ


 シズルーは、女性将校のオデコに手をやり、魔法を発動した。


「少し眠っていろ、【スリープ】」ポゥ

「はひぃぃぃん」ガク

 

 無力化した女性将校を地べたに寝かせ、シズルーは第三格納庫に向かった。





              ◆ ◆ ◆ ◆




第三格納庫――


 第三格納庫では、起動したMTモビル・トルーパーに、一人の女性将校が対峙していた。

 手には伝説の武器『カイザーナックル』を装備している。


『抵抗は止めて、大人しく武装解除しろ!』

「は、笑わせる。そんなオモチャに、このアタシが止められるかな?」


 MTからのプレッシャーに、全く動じない女性将校。すると、


「ボス! お待ちく下さい!」

「シズルーかい? お前さん、無事か?」

「もうイイのですボス、これ以上の破壊行為は慎んで下さい!」


 シズルーが慌てて女性将校を止める。


「何だい? もう終わりかい? つまらんな」


 シズルーはMTに搭乗しているパイロットに事情を説明し、この場を納めた。

 次に格納庫内の一室に行き、はりつけになっている少女を助けた。


「大尉ィー」ガシッ

「こら、抱き付くな、ケイコ」

「うぇーん、ぎもぢ悪かったでずぅ~!」

「よしよし、よく耐えたな。偉いぞ」





              ◆ ◆ ◆ ◆



司令室――


 騒動が収まり、司令室に通されたシズルーたち三人。

 

「こ、ここの司令をやっております、○○ですっ」ビシ 

「今回の始末、どうしてくれるんだい?」

「は、まことに、申し訳ありませんでした!」ガバッ


 司令は、いきなり土下座した。


「貴方様が、かの有名な◇◇元准将閣下でいらっしゃる事は、先代の司令から伝え聞き、存じ上げております」

「軍はとっくに退役した。もう昔の事だよ……それで?」

「ま、どうぞお掛け下さい」


 司令にソファーに座るよう促される三人。


「おい、連れてこい!」

「はっ!」


 司令が部下に命ずると、先ほどの女性将校と、月光に乗せて連れて来た女性兵士であった。


「お前たち、今回の事件の首謀者だな?」

「は、はぃ。申し訳、ありません」

「少佐殿が、どうしてもモノにすると聞かないもので……あいたっ」

「お黙り! 元はと言えば、アンタがちゃんとやらないから……」


 二人のみにくい言い訳を聞いて、女性将校は憤怒した。


「みっともない所、見せるんじゃないよ!」 

「「ひ、ひぃぃぃ」」


 女性将校が一喝すると、二人は限界まで収縮した。

 司令が事情を二人から聞く。


「何と馬鹿な事を。大体、お越し頂くには、それ相応の手続きが必要なのだぞ? 私に稟議を上げるのが第一であろうが!」

「す、すいましぇん」

「しかも依頼の内容が、部下たちがシズルー殿に『オイルマッサージ』をして頂く、だとぉ? 不届き千番! 即却下だ!」

「で、ですが司令、その『施術』を受ける事により、我が基地の防衛能力は、数段に跳ね上がるのです!」ハァハァ

「何だとぉ!?」

 

 女性将校から事情を聞いた司令は、驚愕しながらも、恐る恐る元准将閣下に聞いてみる。

 

「閣下、後日、正式に発注致しますゆえ、その際は、お手柔らかにお願いします」

「フン、さぁて、どうしようかね?」

「この埋め合わせは、当基地が誠心誠意致しますゆえ、なにとぞ再考を」


 司令室にいる全員が、元准将閣下に頭を下げる。


「ふむ。シズルーや、お前さんはどうなんだい?」


 女性将校は興味が薄れたのか、部下に意見を求める。 


「どうって、どの仕事を受けるかは、ボスの気まぐれでしょう? その時の風向き次第、ですな」

「って事らしいよ? それでイイかい?」

「ははぁ。仰せのままに」


 その後もぺこぺこと頭を下げられ、司令室を出た三人は、月光を停めてある滑走路脇に向かった。


「しかしボス? ココまで、どうやって来たんです?」

「は? 拳圧を飛ばして、それに乗って来たに決まっておろう?」

「フフ。常に枠外の行動をなさる。破天荒な方だ」


 月光の後ろの席にボスを座らせ、操縦席にシズルーが、ケイコはシズルーの膝の上に座らせる。


「大尉ぃ~♡」ガシィ

「おい、しがみつくでない! 操縦の邪魔だ」

「大尉ぃ、帰ったらお風呂に入りたいの」

「そうだな。犬に辱められて、唾液まみれだったものな」

「シズルー、ケイコを洗っておやり」

「勿論、隅々まで洗ってやるつもりですよ?」

「わぁい、大尉とお風呂だぁ♡」


 夜間戦闘機『月光』は、月明りに照らされ、ベースを目指して飛び立っていく。







   どんな小さな不正でも、



        この部隊は見逃さない。



           特殊部隊『月光』 月に代わって、成敗致します。






                   FIN




    注)この動画は、事実を基にしたフィクションです。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



桃魔術研究会―― 第二部室


 動画が終わった。


「どうだい? スゴいだろう?」

「ツッコミどころ満載ですよ。大体、本編よりも数倍長くなかったですか?」


 睦美は静流のツッコミをスルーして、うんうんと満足げに頷いている。


「ねえ静流? シズルーは誰がやってるの? あと、あの幼女と娼婦って、太刀川にいた受講者じゃないの?」

「あれは僕じゃないよ。でも変だな? ブラムはダンジョンにこもりっきりらしいし……残るは」

「「ロディ!?」」


 静流と真琴は、顔を見合わせて言った。


「相変わらずシンクロ率高めだね、妬けちゃうな」ぷぅ

「そんな事より、あれはロディなんですね? 睦美先輩?」

「そうらしいよ。少佐殿も使役する権利、あるらしいじゃないか」

「そうか。アイツならやれるか。 アマンダさんと最初の頃、仮契約してたっけ……」

「ま、大方、『静流キュンの為なのよ』なんて言う口車に乗ったんだろう。AIなんて、そんなもんだよ」

「これ見るまで知らなかった。口止めされてたか……」

「叱らないでやってくれよ静流キュン、結構面白かったろう?」

「まあ、確かに。カット割りとか、随分本格的でしたね? あれ? まさか」

「そう。映像製作は小松氏に頼んだようだね」

「やっぱりそうか」


 動画を見終わった静流と真琴は、部室をあとにした。


「コレで殺到しているオファーが、減ればイイんだけどな……」

「うん。でもさぁ、特典のせいで、オファーがさらに増えちゃったりして?」

「ま、まさかぁ……」




              ◆ ◆ ◆ ◆





アスガルド駐屯地 魔導研究所内 ブリーフィングルーム―― 現在


 動画を各駐屯地に配布してから、数日が経った。

 アマンダは、リリィ、仁奈、レヴィをブリーフィングルームに呼んだ。


「シズルー関連で、何か動きはあった?」

「効果は抜群ですよ少佐殿、オファーの取り消し依頼が殺到しています!」

「よし、これでウチらの思惑通りよ。ニニ先生の助言が効いたわね」

「でも少佐殿? アレを見て、それでもオファーする所があったら、どうします?」

「もし、正規の発注形式でオファーが来たら、受けるしかないんでしょうか?」

「その時はその時。今は成功の余韻に浸りたい気分よ」


 その心配は、数日後に的中する事になろうとは……。 

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