エピソード41-12

五十嵐家――


「「ただいまー」」


 静流が玄関で靴を脱いでいる。シズムはデフォルトの豹になって中に入る。すると、けたたましい足音を立てて美千留がやって来た。ドドドド 


「しず兄! どうだった?」ハァハァ

「そう焦るな、結果は上々だ」


 部屋に入ると、当たり前のように真琴がベッド寝転がり、マンガを読んでいた。


「よぉ、 お疲れさん」

「真琴? 人の部屋でよくもまあ無防備でくつろいでくれちゃってるな」

「そんな事より、どうだったの? 試験は?」


 静流は二人を座らせ、今日あった事をかいつまんで説明した。


「ミフネ・エンタープライゼスの代表が、校長の弟さんだったの?」

「100年くらい前から『妹』だけどね」

「で? 何でしず兄までミフネに?」

「成り行き上仕方なかったんだ。『化装術』の鍛錬になるって木ノ実先生が……」

「他には何か、隠してない?」

「メメ君とノノ君が、サラと組んで作った薄い本のライダーが、今度特別番組にゲスト出演するんだ」

「スゴいじゃないの! あの子たち、やるわね。他には?」

「サムライレンジャーの映像権を売ってくれって、アメリカの制作会社からオファーがあったらしいよ」

「アレを? とてもじゃないけど、お茶の間には向かないと思う。せめて深夜枠よね?」


 真琴も大体同じ考えで、静流は自分の考えががまともである事に安堵した。


「僕もそう思った。どうも、アチラ用に作ったPVがあるらしいんだ。メールでもらう事になってる」


 静流は、真琴の横に寝そべり、ノートPCを立ち上げる。


「よっこいしょ。ちょっと真琴、狭いからズレてよ」

「な、いきなり横に来たら、ドキッとしちゃうじゃない!」

「ふぅん。 真琴でも、そんな乙女チックなリアクションするんだ」

「か、からかわないでよ、もう」


 静流が真琴のリアクションを微笑ましく見ていると、不意に上から物体が落ちて来た。 


「ぐぅぇ!? み、美千留さん!? 重いんですが!?」

「今のしず兄、キモかった。しず兄の分際で……何か腹立つ」


 静流は体を半回転し、美千留を振り落とす。どさっ


「ぐえ。痛い」

「本当にお前って奴は……お! 来てる来てる!」


 メールソフトに着信を知らせるメッセージがあった。


「さぁて、何が書いてあるのかな?」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――  



 親愛なる静流様


 今日はお疲れ様でした。

 私にとって、今日ほど充実した一日はありません。 

 これを機に、より一層お近付きになりたく思い、静流様さえよろしければ、

 是非我が社にも遊びにおいで下さいませ。先ほどの動画データを添付しました。

 ご覧頂いたあと、よろしければ感想などを頂きたく思います。


                                 かしこ

 

   

                  株式会社ナマジカ 映像制作部 小松右京



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――  



「意外とまともだったな。右京さん」

「どう言う人なの? この人。静流を『様呼び』するって事は……」

「薄い本のお得意さん。それもかなりヘビーな方だよ」

「うわ。出たな? ほんっと神出鬼没よね?」

「なぁ。真琴は二次元の僕のファンサイトってわかるか?」

「黒魔が運営しているやつ? 会員制で無料と有料があるみたいね」

「知ってるのか。ちょい待ち、有料?」

「何でもかなりエグい情報もあるらしいって聞いたけど」

「おい、何だよそれ、うぅ……探りを入れる必要がありそうだな」


 静流は寒気を感じ、ぶるっと身震いした。

 メールに添付されたデータを移し、動画再生ソフトを立ち上げる。

 リリィと右京がが制作した、サムライレンジャーの別『テイク』を早速チェックする静流。


「よし、再生するぞ」

「面白そうね」

「なになに? 新しい動画?」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――  



 時は現代。突如、何者かの陰謀により街は大混乱であった!

 絶体絶命のピンチを迎えたその時、特殊な鎧をまとった謎の少年少女が現われた!

「浪人ギア」と呼ばれる鎧をまとい、少年少女たちは今日も戦う!


 

         『装甲武者 サムライレンジャーズ』

  ARMORD SOLDIER THE SAMURAI RANGERS

          


 崖の端に立つ、髪の色が違う6人の若者。5人の男に1人の女。

 右から小豆色、青、灰色、橙、紫、そして桃。


 それぞれが首に提げた勾玉を握り、変身のキーとなるワードを唱える。



          『念力招来!!』ゴォォ



 それぞれの身体をパーソナルカラーのオーラが覆い、バチバチとプラズマ現象が起こる。

 オーラが消え、中から戦国時代の鎧武者を思わせるデザインの防具を付けた者たちが現れる。


 模擬戦用の戦闘用ゴーレムを相手に、先陣を切るものが現れる。

 髪の色と同じ、小豆色の甲冑を身に付けた鎧武者、サムライ・エンジであった。

 おもむろに抜刀し、技名を叫ぶ。



          『流天るてん五十嵐流 一刀両断! うぉぉ!』ザシュ



 エンジが放った斬撃に、ゴーレムは真っ二つになる。


 次に現れたのは、青い甲冑を身に付けた鎧武者、サムライ・ブルーであった。

 両手に太刀を持つ二刀流の構えから、技名を叫ぶ。



          『参る。流天五十嵐流 電光石火!』ビシッ



 ブルーの凄まじい速さの斬撃に、ゴーレムは粉々になる。



 次に現れたのは、橙色の軽装の甲冑を身に付けた鎧武者、サムライ・オレンジであった。



          『流天五十嵐流 神出鬼没!』シュバッ 



 オレンジがそう呟くと、不可視化が発動し、音も無くゴーレムの背後をとり、直刀で首筋を掻き切る。



 次に現れたのは、紫色の甲冑を身に付けた鎧武者、サムライ・パープルであった。

 数百メートル離れた複数の戦闘用ゴーレムを相手に、弓に矢を三本つがえ、技名を告げる。



          『流天五十嵐流 百発百中!!』ビシュ



 一度に3本の矢を次々に放ち、ゴーレムたちは的に使う、わら人形の様になっていく。


 次に現れたのは、桃色の甲冑を身に付けた華奢な鎧武者、紅一点のサムライ・ピンクであった。

 複数のゴーレムに囲まれ、ピンチのはずだが、ピンクは小悪魔的な笑みを浮かべ、羽根つきの扇子をゴーレムに向ける。



        『流天五十嵐流 極・楽・浄・土 ンフ♡』ファァ



 ピンクはフィギュアスケートのスピンの様に回り出し、桃色のオーラを放つ。

 桃色のオーラを浴びたゴーレムたちはヘロヘロになってバタバタと倒れていく。

 決めポーズをとり、蠱惑的な笑みを浮かべるピンク。


 5人が決めポーズをとる先に、ゴーレムたちが大群で現れる。

 すると後ろから灰色の甲冑を身に付けた鎧武者、サムライ・グレイが5人の前に出る。

 腰の長刀を抜き、右上に構え、技名を告げる。



         『流天五十嵐流 一騎当千!』ズシャァ



 左下に斬り下ろす『袈裟斬り』の型から、素早く刀を持ち換え逆に斬り上げる。

 常人の目では追いきれない、一度の動作で二回斬撃を繰り出す、いわゆる『燕返し』である。

 この動作で生まれた衝撃波が、ゴーレムたちに向かって広範囲に飛んで行き、やがて跡形も無く蒸発した。

 

 戦いが終わり、グレイが刀を鞘に納めると、他の5人がグレイの周りに集まり、頷き合う。

 リーダー格のグレイを中心に、それぞれが遥か彼方を眺めている横からのカットが入る。



 

 光あるところに影がある。


   まこと栄光の影に数知れぬサムライたちの姿があった。


     命をかけて世界を救った影の若者たち。だが人よ、名を問うなかれ。


         闇に生まれ闇に消える、それがサムライたちの定めなのだ。

            

               サムライレンジャーズがやらねば、誰がやる!





               FIN



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 動画が終わった。

 少し沈黙があり、やがて、静流がつぶやいた。


「なるほど。戦隊モノを意識して、それぞれを一人ずつ割り振ったのか。さすがだな」

「ふうん。悪くないじゃん。この間見たヤツとは違ってるね」

「何でも、アメリカに売り込むつもりらしいぞ?」

「ああ、アンナの所で流行らそうとしてるってヤツ?」


 静流は顎に手をやり、真っ先に浮かぶ疑問を口にした。


「髪の毛の色からすると、グレイはアマンダさんで、エンジがイク姉でブルーが仁奈さん、オレンジは佳乃さんにパープルがミオ姉、まではわかるんだけど、ピンクって誰だ?」

「あれ? しず兄じゃないの?」

「違うよ。僕はこのテイクはノータッチだし、今初めて見たんだからな」

「それに、男女が入れ替わってるわよ? どうやって撮ったんだろう?」

「よし、ちょっと確かめてみるか」


 静流はリリィに念話を繋いだ。


〔リリィさん、今、イイでしょうか?〕

〔ん? どしたの静流クン? 何か声、低くない?〕

〔リリィさん、ライブチャットの件って、まだ生きてますか?〕

〔う、唐突に来たね。うん、いつでもOKよ。もしかして、ついにやる気になった、とか?〕

〔それは置いといて、皆さんとお話がしたいんです〕

〔そ、そう? そんな事言われると、アタシたちも嬉しいよ?〕


〔早速ですが、直ぐにお願いしたいのですが〕

〔そ、そんなに緊急、なのかな?〕

〔ええ。緊急、です〕

〔わかった。で、誰を呼ぶ?〕

〔とりあえずリリィさんたちと、薄木の面々、かな?〕

〔わかった。準備するから、30分頂戴よ〕

〔わかりました。じゃあ、よろしくお願いします〕ブチ


 静流との念話が終わって、リリィはアマンダに声を掛けた。


「少佐ぁ、静流クン、ちょっと怒ってるみたいでしたよ。恐らく『アノ動画』の件だと思うんですけど?」

「何ですって!? う、マズいわね。やっぱり先に相談しておけば良かったかしら?」

「ちゃんと説明すればわかってくれますよ……多分?」

「んもぅ、気休めはよして頂戴!」

「何でも、このあとライブチャットしたいって言ってますけど」

「わかったわ。素直に謝りましょう」

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