エピソード41-13

五十嵐家――


 右京から入手した動画を見終わった静流は、制作したリリィたちに確認すべく、緊急ライブチャットをする事となった。

 そろそろ約束の30分が近付いて来た。


「オシリス、準備はイイ?」 

「バッチリ。いつでもイケるわ」


 静流はデスクトップPCのモニターを使い、ウェブカメラ兼その他諸々をオシリスに任せる。


「時間よ。3・2・1、キュー!」


 オシリスのキューで回線が繋がった。

 ディスプレイの2マスにそれぞれアスガルド組と薄木組が写った。

 アスガルド組は、リリィとアマンダ、薄木組は郁と澪、それに萌だった。


〔お、始まったみたいですよ? 少佐殿! ハァーイ、静流クン!〕

〔わ、わかってるわよ〕

〈おい、押すなって、萌、前に出過ぎじゃ!〉


「えー、今晩は。皆さんお元気ですか?」


〈静流様、私は元気です〉

〈静流クン? 緊急ってアナタ、また何かに巻き込まれたの?〉

〈ええい鬱陶しい、で、何があったのじゃ? 静流よ〉


「皆さんに、お聞きしたい事があります」


〔そら来た少佐殿、ほら早く〕

〔静流クン、御機嫌よう。静流クンが聞きたいのって、『アノ動画』の事でしょう?〕

「さすがアマンダさん。察しが良くて助かります」


 画面の中のアマンダは、心なしか小さく見えた。

 意を決したアマンダは、机に手を突いた。


〔静流クン、御免なさぁーい!!〕

「いきなりどうしたんです? アマンダさん!?」


 画面の中のアマンダは、間髪入れずに頭を下げ、静流に謝った。

 キョトンとしている静流を見て、アマンダは首を傾げた。


〔あら? 怒ってないの? 静流クン?〕

「いえ? 別に怒っていませんが?」

〔リリィ! どう言う事?〕

〔あれ? てっきり静流クンが『アノ動画』の事で怒ってるのかと〕


 アマンダに突っ込まれ、リリィは自信なさげにそう言った。


「まぁ、僕に内緒で、あんな楽しそうなものやってたなんて、ズルいとは思いましたけどね」

〔そうだったの? で、見た感想は?〕

「良く出来てるじゃないですか! スゴいです」


 画面の中の静流は、親指を立て、グッジョブのポーズをした。


〔そ、そう? そんなに良かった?〕

「ええ。とっても。出演はやっぱり皆さんだったんです?」

〔そうなの。少佐殿なんてそりゃあもうノリノリで。あいた〕

〈静流ぅ、私の一の太刀、カッコ良かったろう?〉

〈私だって、頑張ったんだからね?〉

〈私も、出ておけば良かったかな……〉


 それぞれの画面で言いたい放題になっている。

 静流は一番気になっている所をリリィに聞いた。


「でも、どうやって男女を反転させたんです?」

〔それはね静流クン、知り合いの映像会社でやってもらったの。『煩悩エミュレーター』とか言うソフトを使うみたい〕

〔あの子、いろいろありそうだけど、仕事はキッチリこなしたようね〕

「小松右京さんですよね? 今日お会いしましたよ」


〈〔え? ええ~!!〕〉


 静流の思いがけない発言に、一同が画面に顔を近付けた。


〈あの、いろいろとヤバイ人に会ったの!? 何かされなかった?〉

「大変お世話になりましたよ。この動画も、右京さんにもらったんです」

〔参ったな、まだ会わせるつもりは無かったんだけどなぁ……〕


 静流は今日の出来事をかいつまんで説明した。


〔ミフネ・エンタープライゼスって『あの』三船兄弟がやってるの?〕

「四男? じゃなくて、長女になるのかな?」

〔四郎か。会った事無いわね。性転換魔法って、確か……〕

「心当たり、あるんですか?」

〔いえ、ちょっと。そんなはずない、か〕


 アマンダは少し考えていたが、どうも違ったようだ。


〔スゴいじゃん静流クン、芸能関係の超大手だよ?〕

〈で、そこでバイトする事になったの? 静流クン?〉

「うん。でも素で仕事するわけじゃないから、身元特定とかはされないと思うよ」

〈そう言う事じゃありません! 静流様、本当に大丈夫、なんですか?〉

「今から心配してたって、しょうがないですよ」


 結果を称える派と、今後が心配な派に分かれている。


「それで小泉撮影所のスタッフさんに聞いたんですよ。サムライレンジャーの件を」

〔そうだったんだ。いやぁ、突貫で作ったから、報告が遅れてごめんね?〕

「急いでた。それだけ、ですか?」

〔あとはちょっと恥ずかしかったんだよね……少佐殿なんて、『黒歴史よ!?』なんて言ってて〕

「そうですか? 僕には皆さんがイキイキして演技していたように見えましたよ?」

〔よっぽどあの編集者が高スキル持ちだったんでしょうね。ああ、良かったわぁ。静流クンに嫌われちゃうかもって本気で思ってたのよぉ?〕


 さっきまで挙動不審だったアマンダも、正気を取り戻したようだ。


「で、あちらの反応はどうだったんです? リリィさん?」

〔とりあえず、掴みはオッケー、みたいな?〕

「好感触って所ですか」

〔そうだね。多分商品化とかでメーカーから調整が入るだろうし、キャラ設定とか色とかは変わっちゃうと思うよ〕

「そっか。でもこれで現実味が増しましたね」


 交渉はまずまずといった所である事がわかって。静流は安堵した。


「あ、あとあの動画に出ていたピンクは、誰が演じてたんです?」

〔ブラムちゃんにやってもらった。お菓子を報酬にね〕

「そうか、その手があったか」

〔衣装も出してもらったし、黒竜サマサマだったよ〕

「そう言えば、あいつに聞きたい事あったんだよな。ブラムってどこにいます?」

〔多分、『塔』にいるんじゃないかしら?〕

〔薫クンとダンジョン攻略してるって聞いたよ? ゆきのんに〕

「リリィさん、いつの間に雪乃お姉様と仲良くなったんです?」

〔割と早く。まぁ、共通の趣味があったんでね。時間はかからなかったよ〕

「理由は言わなくても、大体わかります」


 恐らく金銭的な事であろう。


「そう言えば、右京さんが『同朋』と呼んでいる人たちって、心当たりあります?」

〔ギクッ〕

「リリィさん? ギクッて口に出す人、初めて見ましたよ」

〈恐らく、会員制のファンサイトですよ、静流様〉 

〔ち、ちょっと萌ちゃん!?〕

「萌さん、知ってるんですか?」

〈わ、私は入っていませんよ? ただ何人か心当たりがある、と言いますか〉

「やっぱりそうか……」

〔静流クン、出来ればそぉーっとしておいてもらえると助かるんだけど。武士の情けってやつ?〕

「まぁ、まだ実害が出ていないので、様子見という事にします」

〔ははぁ。お目こぼし頂き、感謝いたしますです〕


 静流がそう言うと、リリィは大仰な言い回しで返した。


「僕が聞きたかった事は以上です。お手数おかけしました」ぺこり

〔ねぇ静流クゥン、週イチ位でこれ、今後もやってみない?〕

〈わ、私も、賛成です! 是非お願いします!〉


 リリィはライブチャットを有料でやろうと企んでいるようだ。萌はただ静流の顔が見たいだけのようだが。 


「そうですね。考えておきます」

「何だよ真琴!? いきなり顔出すなよ」


 返事をしたのは真琴だった。


〈真琴ちゃん!? 静流クンの部屋に、ずっといたの?〉

〈真琴さん、ズルいです〉


 真琴が写っている画面に、澪と萌が釘付けになっている。すると、


「やあ諸君! キビキビ働いておるかね? フフンッ」

「美千留!? 何言ってんだ、お前」


 おまけに美千留まで出しゃばる始末。


〈妹か。相変わらずマセておるガキじゃのう〉

「フンッ、背は私の方が高いもん!」

〈クッ、言わせておけば、小童めが〉


 それぞれが言いたい放題になって、収拾がつかない状態になっている。


「もう少し、社交性に富んだコミュを形成出来れば、やらない事も無い、かな?」

〔こりゃ、難易度高めだわ……〕

「ところで、『流天五十嵐流』ってネーミング、誰が考えたの?」


 静流はふと思い出した事をリリィたちに聞いてみた。


〈それは、自分であります!〉


 澪の横から、ひょいと顔を出した佳乃。


「佳乃さんが?」

〈どうでありますか? きっと気に入ってくれると思ったのでありますが〉

「悪くは、無いと思います。ちょっと恥ずかしいけど」

〈そうでありましょう!? もっと褒めて下さってもイイのでありますよ?〉


 画面の中の佳乃は、主人が投げたボールを取って来た犬のようになっていた。


「佳乃さんのアサシンモード、似合ってましたよ?」

〈静流様が喜んでくれたであります。ムフゥ〉

〈ええ~、私も頑張ったんだよぉ? 静流クン〉

「はいはい。でも、お世辞抜きに皆さん、良かったです」


 静流は、撮影に参加した者に対し、敬意を払った。


「今日、小泉に行って撮影現場を見たんです。ものすごい活気でした。『ものづくりの力』はスゴいです」


 静流がいきなり真面目な話を始めるので、一同はしん、と黙り込んだ。


「今度は、僕も参加したいです。機会があれば、ですけど?」ニパァ


 少し顔を赤くした静流が、照れながらそう言った。



「「「「きゃっふ~ん!!」」」」



 静流のニパは、映像でも効果は抜群らしい。

 ライブチャットはここでお開きになった。

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