エピソード39-13

ワタルの塔―― 2階 応接室


 学園の者たちを見送った静流たちは、今日の反省会を兼ねて応接室でお茶を飲んでいた。


「とりあえずお疲れ様。乱入騒ぎも無く、成功だったんじゃないかな?」

「やっぱお姉様たちと軍の方たちを締め出したのは、ちょっとやり過ぎだったかな?」

「そうよ静流、ちゃんと筋を通せば、騙すような事をする必要、無かったんじゃない?」

「ま、まあ今回はしょうがないさ。この塔の利用方針だって、まだ決まっているわけではないのだから」

「その辺りは、やっぱり軍に委託する方向になるんでしょうか?」

「ただね、静流キュン、私はもう少し慎重に動く必要がある、と思うんだが……」


 睦美は、塔の管理を全て軍に任せる事に、いささか抵抗があるようだ。


「例えば、我が国に脅威をもたらす可能性がある地域に、秘密裏に【ゲート】を設置し、奇襲攻撃を行うとか」

「確かに軍事利用されると、いろいろヤバいですね。インベントリなんかも相当ヤバいですし」

「そうだね。無限に武器や人員を配置し、【ゲート】を使って攻撃、とかね」

「かといって、封印するのも、何か勿体ない気がしますし……」


 うーん、と二人は腕を組み、難しい顔をしている。すると真琴が、


「軍というか国に、『塔』の利用費を請求しましょうよ。そうですね、『シズルカ寺院』とか作って、お布施みたいにするんです」

「【ゲート】使用料か。悪くないな。宗教法人にすれば、税金対策になるか……ふむ」

「女神の権能っぽくすれば、【ゲート】の存在も、超常現象とかの扱いになって、それほど混乱しないかも知れませんね?」

「いずれにしても、難儀な問題だな……」

「まあ、この塔や【ゲート】の存在も、現在アマンダさんで止めてもらってる状況ですからね」


 そんな事を話していると、エレベーターの稼働音が響いた。


 ウィーン


「誰か来たみたいだね。ちょっと見て来ます」


 静流が席を立ち、エレベーターの方に向かう。すると、


「何じゃお前たち! 私が先だ!」

「こういうのは階級は関係ないんですよね!」

「ちょっと、押さないで下さい!」


 そんな声がして、程なくエレベーターの扉が開いた。ブゥーン


「うわっ!」

「きゃ!」

「あいたっ!」


 ドアが開くなり飛び出して来たのは、郁とリリィ、澪であった。


「うわっ! どうしたんです? 皆さん?」

「よ、よお静流、メンテ終わったか?」

「エレベーターが動いてるって事で察して下さいよ、イク姉」

「うげぇ、早く退いてよ澪、重いんだけど」

「きゃ、すいません! リリィ先輩」

「ミオ姉に、リリィさんまで」

(僕たちの用はもう済んだんだけどね。ふう、危なかった)


 静流は、額の汗をハンカチで拭った。するとエレベーターがまた動き出し、扉が開く。ブゥーン


「静流様ぁ! 待っていてくれたのでありますか?」

「早く降りて下さいよ佳乃先輩、後ろがつかえてますんで!」

「「あ! 静流様だ!」」

「メンテ、終わってるみたいね」


 次に来たのは、佳乃、萌、工藤姉妹、それに仁奈であった。


「という事は、残りは……」


 エレベーターから出て来たのは予想どおり、アマンダとレヴィであった。


「静流クゥン、会いたかったわぁ♡ ヌフゥン」

「静流様!、お疲れさまです」フーフー


「皆さん、お疲れ様です。今日って、ココで何かイベントでもやるんですか?」

「静流クンこそ、本当はもう何かあったんじゃないの? 女の子連れ込みイベント、とか?」

「ギクゥ、す、鋭いですね。ただ、変な方向のではないですから」

「ほらね? 私の目は誤魔化せないのよ! フフン!」




              ◆ ◆ ◆ ◆




 静流は、今日の親睦会について、簡単に説明した。


「すいません、あまり人が多くなるとやりにくいなぁ、と」

「なぁんだ、そんな事? 変な気を回して損したわ」


 静流の説明に、アマンダは安堵しているが、一点について気になっていた。


「でも、来たのよね? 姉さん」

「カチュア先生ですか? 相変わらずでしたよ」

「全く。油断も隙もあったもんじゃないわ!」

 

 きいぃー!となっているアマンダは、姉そっくりであった。


「ところで、アナタたちは何で来たの?」

「おう。静流の顔でも見に行こうってな、澪が」


 郁はニヤリと笑みを浮かべ、流し目で澪を見た。


「わ、私!? 確かに言い出しっぺは私、だけど……」


 澪は背中を丸め、モジモジしながらそう言った。


「ミオ姉、僕がココにいるって、よくわかったね?」

「とりあえず行ってみようって。いなかったら呼べばいいかな、って」

「全くぅ、僕を召喚獣みたいな扱いしないでよね? フフフ」

「そ、そんなつもりじゃないのよ? ちょっと甘えてただけ」

「応接室でお茶でも。美千留たちもいますし、どうぞ」


 静流はとりあえず軍のみんなを応接室に案内した。

 急にまたにぎやかになってしまった応接室。


「あ!美千留ちゃんだぁ! カワイイ~!」


 工藤姉妹が美千留を発見すると、瞬歩で美千留の傍に席を陣取った。

 澪は、真琴と目が合ったので、とりあえず挨拶した。


「真琴さん、御機嫌よう」

「どうも。澪さん」


 静流が手をポンと打ち、何か思い出した。


「睦美先輩! 軍の人勢ぞろいです! 『アノ件』について聞けますよ!」

「む! そうか。それは絶好のタイミングだったね」 


 静流と睦美がハイタッチをして喜んでいる。


「あ、皆さん! 僕の先輩を紹介します!」


 静流の呼びかけに、睦美に注目する軍関係者たち。


「静流キュンの良き理解者、生徒会書記長、柳生睦美です! 以後お見知り置きを!」ビシッ


 睦美は、先ほどの学園との口上合戦時とは違い、控えめな自己紹介であった。

 静流がアマンダから順に紹介していく。

 そのあと、佳乃は目を輝かせながら、睦美に聞いた。


「貴殿が、静流様がいつも頼りにされている、『書記長殿下』でありますか?」

「いかにも。私で間違いないでしょうな。貴方がお噂の村雨軍曹殿で?」

「はい。ですが噂になる程の者では無いのであります」

「なるほど。静流キュンの言う通り、あなたの物腰の柔らかさ、どうやら純朴な方のようだ」


 佳乃に対し、睦美は『大佐モード』全開だった。


「静流様、これが『大佐モード』発動中の先輩殿なのでありますね!」

「ん? うん。そうですね」

「お近づきになれて、光栄であります! 書記長殿下!」

「よしてください、その呼び名は学校内のごく小規模な内輪でのものです。お恥ずかしい」

(何なの? 上下関係をわきまえた上でこのプレッシャーは。只者ではないわね)


 睦美は村雨佳乃とのファーストコンタクトをそう分析した。一方、


「確かに、上官と話している錯覚に陥りそうでありますな」

(聞きしに勝るその振る舞い、これで年下? 末恐ろしいわ)


 佳乃は柳生睦美とのファーストコンタクトをこう分析した。

 



              ◆ ◆ ◆ ◆




 静流がレヴィに確認したい事があるのだが、周りが放っておいてくれない。


「静流クン、ちょっと相談なんだけど、イイかな?」

「何です? リリィさん?」

「『サムライレンジャー』のショートムービーなんだけどさ、結構イイ感じで出来たんで、動画サイトにUPしたいんだけど」

「ああ、前にパイロット版を見せてもらったやつですか? ついに完成したんですね?」


 以前リリィは、アスガルド駐屯地で『サムライアーマー』の開発実験をした際に収録したメイキング映像を編集し、パイロット版を静流に見せた所、ウケが良かったので本格的に制作に乗り出していた。

 パイロット版をサイトにUPした際は、PV数はあまり伸びなかった為、放置状態であった。

 しかし、何故かアメリカのごく一部の田舎町では好評だったようである。


「その動画、UPする前に一応僕にも見せて下さいよ。それでオッケーだったらイイですから」

「きっと気に入ってくれると思うよ!」グッ


 そう言ってリリィは、親指を立て、下手なウインクをした。




ワタルの塔―― 2階 応接室


 静流は、リリィの作った動画を見る為、娯楽室に入った。


「何だ? またいかがわしい動画でも、観るのか?」

「違いますよ、皆さんと一緒にしないで下さい!」


 静流は、ゲーム機が繋ぎっ放しだったのを思い出した。


「あ、ちょっとまって下さい、それは、」

「何だこのゲームは? フム、面白そうではないか?」

「最大10人で出来るって。 やりますか? 中尉殿?」

「お、イイぞ!」


 勝手に始めようとしている二人に静流は、


「その前に、動画、見せて下さいよ!」

「そうだった。じゃあ、コレね」


 リリィからUSBメモリーを受け取ると、再生ソフトを立ち上げた。

 程なく動画が始まった。

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