エピソード39-12

流刑ドーム―― 薫子の部屋


「さぁて、もうすぐ夕方ね」 


 そう言って薫子は、例の『密着ライブ中継』をチェックした。

 画面の中の静流は、今だにベッドで寝転がり、マンガを読んでいる。


「ん? おかしいわね? そろそろ出かける頃でしょう?」


 薫子が見ているライブ中継画像は、オシリスが仕掛けた「ダミー映像」である。すると、いきなりドアが開く。バァン!

 

「騒々しいわね忍! ドアが壊れるじゃない!」

「薫子! 何かおかしい!」

「静流でしょう? 夕方『塔』に行くって言ってたのに、まだ部屋でマンガ読んでるわよ?」

「これ、ライブじゃない」

「何ですって!?」


 このあと二人でじいっと画面を似ていると、横から雪乃がひょこっと顔を出した。


「また熱心に何かやってる。え? 静流さん? 何なのこの映像? 盗撮?」

「ち、違う、あ、違わないか」

「どう言う事? 詳しく説明なさい!」


 この後、二人は雪乃にこってり絞られた。


「全くもう、これじゃあ静流さんのプライベートも何もあったもんじゃないですわ!」

「はい、すみましぇん」

「首謀者は睦美さんね? 私が叱って差し上げないと……」

「それはそうなんだけど、この映像、おかしいのよね」

「どれどれ? ん? これは録画された映像を繰り返し配信しているだけ、みたいですわ?」

「何ィ!?」

「アナタたち、一杯食わされたのよ」

「じゃあ、静流は?」

「恐らく、とっくに『塔』にいるわ。アナタたちは『招かれざる者』と言う事」クスッ

「「ほえー」」


 途方に暮れている二人を、いい気味とばかりに嘲笑っている雪乃。そこにリナが顔を出した。


「おい、メンテ終わったのか知らね? って何だよ二人共?」

「ぐぎぎぎ、許さんぞ、睦美め」

「静流、今行くから待ってて」




              ◆ ◆ ◆ ◆




ワタルの塔―― 2階 応接室


 ブラムから突然電源室のメンテナンスを言い渡され、親睦会は幕を下ろそうとしていた。


「ええ? もう、終わりですか?」

「しょうがないわね。今回はこの辺でお開きね」

「静流様ぁ、二次会の会場は?」

「こらアンナ! わがまま言わないの」

「私の部屋だったら、いつでも空いてるわよ?」ムフゥ

「すいません、遠慮しておきます」

「もう、素直じゃないんだから」


 アンナは、こんな事をつぶやいた。


「はぁぁ、いつでも静流様に会える手段って、無いんだべかぁ?」

「今の状態でも十分満足でしょう? わがまま言わないの」


 確かに、交通手段を全く利用せずに空間を瞬時に飛び越えられるこの状況は、はっきり言って異常である。


「ネットは? 『ライブ中継』とか、流行ってるべ」


 この展開に、睦美は困惑した。


「ネット中継……許されるものなら、私は24時間、静流様を感じていたい、です」ムフフフフ


 ヨーコは、自分の妄想に浸り始めた。


「ちょっと待ってよ、24時間って、僕のプライべートは?」

「おイヤ、ですか?」

「イヤも何も無いよ! それじゃあ研究所のネズミみたいじゃないか!」


 静流の顔が少し青ざめているのを、睦美は見逃さなかった。


「24時間は大袈裟過ぎでしょ? 週イチで1時間とかはどうです?」

「う、う~ん……」


 ナギサがグイっと静流の方に乗り出し、交渉に入った。


「ダメ……ですかぁ?」


 ナギサが珍しく、上目遣いで静流に迫った。

 静流もその雰囲気に押され、つい口が滑った。


「その位だったら、中継時間を僕側に任せてもらえれば、ね」

「本当ですか!? わぁ、ゴネてみるもんですね♪」


 ナギサは嬉しさの余り、ぴょんと跳ねた。

 睦美はナギサの振る舞いを見て、小さくうなった。

(このナギサという子、出来るわね)


「うおぉ、よくやったわ、ナギサ!」フーフー

「ナギサ、アンタやるでねえの! 今度からアンタを『ゴネシエーター』って呼ぶわさ」

「それを言うなら『ネゴシエーター』でしょう? もう」


 意味がわからない者たちからすれば、似たようなものだろう。


「目の付け所がイイね。よし、我々も協力しようではないか!」ハハハハ

「先輩? イイんですか? 本当に?」

「問題無いさ真琴クン。『キュー』はこっち持ちなんだからね」

「もうプロデューサー気取りですか? 全く」


 睦美はこの状況を利用し、収拾をはかるつもりらしい。

(さっきの静流キュンの顔を見たら、続けるなんて、無理よ)


「一方的に配信するだけでなく、相互に出来ないかしら?」


 カチュアはそんな事をつぶやいた。


「『ライブチャット』ですね。可能だとは思いますよ」チャ


 ニニが反応した。


「ですが、消灯後に『ライブチャット』をやるのは、学園としては承認しかねますね」チャ

「ですから、時間を守るという事で」

「ふう。その辺りの規約を詰めないとですね?」チャ


 だんだん現実味を帯びて来た会話に、静流は少し引き気味に聞いた。


「本当に、やるつもりなの?」

「当然です!」

「私は真面目だよ、静流キュン」

「会員制にして、会費集めるのは、どうだべ?」

「イイわねそれ。設備費もバカにならないでしょうに」


 すさまじい勢いで進んでいく『静流様ライブチャット企画』。


「静流キュンさえよければ、部屋に固定カメラを設置しよう。初期費用はこちらで持つよ」

「何だろ? このトントン拍子感……」


 静流はこの時、妙な胸騒ぎがしていた。




              ◆ ◆ ◆ ◆



インベントリ内 ――

 

 インベントリでは、仮設住宅の建設が完成に近付いていた。


「ロコ助ちゃん、あとはこの区画を整備すれば、生活空間としては完了ね?」

「そうですニャ。順調ですニャ」


 机に設計図を広げ、アマンダがロコ助と打合せ中であった。


「ちーっす、少佐殿」

「「お疲れ様です、少佐殿」」


 リリィに続き、仁奈とレヴィが顔を出した。


「あらお疲れ様。どうしたの? ガン首そろえて」

「少佐殿、今、アノ塔でメンテやってるらしいですね?」

「何? 聞いてないわよ?」

「ブラムちゃんから連絡行ってませんでしたか?」

「大体アノ塔にメンテなんか必要無いでしょ? 人為的に壊された発電機は、おチビちゃんに【修復】させたでしょうに」


 少佐の話を聞き、リリィは確信した。


「やはりそうでしたか。間違いないようですね?」

「何よ、リリィ?」

「今現在、『塔』で何かやってますね。恐らく『人払い』のブラフかと」

「イイじゃないの。私たちも、普段好き勝手に使ってるんだから。放っと来なさいよ」

「でも、ちょっと気になりません? 少佐殿?」


 リリィは少佐に聞く。後ろの二人もうんうんと頷いている。


「そうね……そこまでしてあの場所を使うって事は……まさか」


 アマンダは自分の考えた最悪のケースに、ゾッとしている。


「偶然を装って、顔出してみるか?」

「そう来なくっちゃ!」ニタァ




              ◆ ◆ ◆ ◆




ワタルの塔―― 1階 ロビー


一同は、エレベーターで1階に降りた。


「今日は楽しかったよ。ありがとう」


 静流が学園の生徒及び先生に挨拶した。


「こちらこそ。お時間を頂き嬉しかったです」ポォ

「まだ遊び足りないべ~!」

「こら、静流様を困らせたらダメでしょう?」

「また、来たいです」


 生徒たちは満足したみたいだ。先生たちは、というと、


「たまにはこっちにも遊びに来てね。いつでも鍵は開けたままにしとくから。ムフゥン」 

「ミスター・イガラシ、また、お会いしましょう」


 カチュアはいつも通りの挨拶だったが、ニニは前よりもかなり柔らかくなった感じがした。


「はい! 寮長先生にもよろしくとお伝えください」


 学園側の面々に別れの挨拶を終え、【ゲート】まで見送る。


「今度来るときは、『女王様ゲーム』やりましょうね? ムフゥ」

「ライブチャットの件、お願いしますね? 睦美さん」

「ああ、任せてくれたまえ。ヨーコ君」


「では、御機嫌よう!」


 学園側の客が帰り、ほっと一息ついた。


「ふう。何とか無事に終わりましたね! さすが睦美先輩だ」

「うむ。毎度の事ながら、結果オーライって所だろう」

「上でお茶でも飲みますか」


静流たちは、今日の反省会を兼ねて応接室でお茶にする事にした。

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