エピソード39-9

ワタルの塔―― 2階 娯楽室


 娯楽室にみんなを呼び、半円形のソファーに座る。

 静流は必然的に中央に座らされる。


「端っこがイイんだけどなぁ、僕」

「ダメです! そして隣は、って早っ!」


 ヨーコが静流の隣に座ろうとした時には、ちゃっかり美千留が座っていた。


「永久指定席なの。おあいにく様」

「美千留ちゃん、カワイイ顔してエグい事するわね……」

「シズムはこっちの隣で見ててよ」

「うん。わかった」


 シズムは静流の横にちょこんと座った。


「くっつ、静流様の隣がぁ……」


 あとの席順は、左右で学園側と国尼側に座る。

 画面の手前にテーブルがあり、左右それぞれ一個ずつコントローラーが置かれる。


「ふぅ、ポールを取られたら、どこでも一緒よ」


 カチュアは、興味無さそうにしている。


「浮かない様子ですね先生? そうだ、何か賭けましょうか?」


 睦美は、つまらなそうにしている先生を煽った。


「何を賭けるって言うの?」

「そうですね、静流キュン、ちょっとイイかな?」コソ

「何です? うひゃぁ、そんな事、出来ませんよ」コソ


 静流の顔が少し赤くなって、睦美とコソコソしている。やがて、


「……わかりました。それで手を打ちましょう」

「よし、決まった!」


 静流の顔が赤いのと、睦美の顔が緩んでいるのが何やら滑稽だった。


「喜びたまえ! このゲームをトップでゴールしたものに、静流キュンから素敵なご褒美を与える!」

「何です? ご褒美って?」

「それは『熱い抱擁』だ!」


「「「「何ィィィ!?」」」」


「タダの抱擁ではない。先程のブラム君よろしく、静流キュンが『肉布団』になってくれるのだ! ヌフフッ」


 睦美は両手を顔の前に出し、指をわしゃわしゃした。


「静流クンの肉布団……イイかも」

「むはぁ、想像しただけで興奮しちゃう」


 それを聞いた一同の背後に、陽炎のようなオーラが見えた様に感じた。

 だだ一人と一匹と一冊を除いては。


「そ、そんな淫猥な行為、許しませんよ!」チャ

「ニニ先生。他愛ない単なる『ハグ』ですよ? 可愛いもんじゃないですか?」

「今聞いた限り、そのような印象は受けませんでした。むしろ不純な方に感じましたよ」


 かたくななニニを、睦美は言葉巧みに誘導する。


「お堅いなぁ、ムムちゃんに抜かされますよ? 結婚」

「な、なんですって!? ムムが?……そのような事、認めませんよ」

「ああ見えて、結構モテるんですよ。ちょっとくらい頭のネジが緩んでいる位が、丁度イイんです」

「……わかりました。コミュニケーションの一環として、今回は多めに見る事にしましょう」

「わかって頂けましたか。今のトレンドは『やわらか頭』ですよ、ニニちゃん先生?」

「フン、悪乗りはしません!」チャ


 あのニニを陥落させるとは、睦美のネゴスキルには常に驚かされる。


「じゃあ、始めましょう」ポチ

「時間があまり無いから、コースは『最速モード』にしよう」ポチ


 『スーパー転生ゲームDX』が始まった。

 オープニングが終わると、路線バスに10人が乗っている。

 暫く路線バスが走ると、何故か前方が断崖絶壁になり、そして、


   ドォォ――――ン


 路線バスは海に落ちた。


「随分唐突な展開ね?」

「お約束ってヤツですよ。これでオーラロードが開かれるって寸法ですね」

「よぉし、キャラ設定だ」


 呆れているカチュアに、睦美がフォローを入れる。

 そこでキャラ設定の画面となり、各プレーヤーの設定を行う。

 各プレイヤーの名前、性別、容姿を決める。


「あれ? シズルってキャラの設定がデフォルトであるよ?」 

「イイじゃないか。手間が省けたね」

「でもなぁ、ゼロから作りたいよね? だれかこの設定、使う?」


 みんながどうしようか迷っている。するとサラが睦美に聞いた。


「睦美さん、このゲームって、結婚のイベントあり、ですか?」

「勿論。NPCとも出来るし、プレイヤー同士でも出来るよ」

「やけに詳しいですね? コレも『黒魔』が?」

「ま、まあね。アイツら、ものづくりに関しては、私も脱帽ものだからね」


 黒魔たちの『クリエーター魂』は、凄まじい物であった。


「う~ん」


 サラが珍しく慎重に考え込んでいる。


「サラ、そう難しく考える事、無いんじゃない?」

「たかがゲームだべ? そんなに真剣に悩まなくても」

「ゲームだからですよ! 結婚出来るかも……知れないんですよ?」ポォ


 サラはそう言った途端、顔を真っ赤にした。


「そ、そうね。シュミレーションしておくに越した事は無いわよね」

「バーチャルで味わえるのか。コレも経験ね」


 みんなはそう言うと、口をそろえた。


「そのキャラ、静流様が使って下さい! お願いします」

「そう? じゃあそうするよ」


 それぞれのキャラ設定が終わった。


「何だ、みんな女性キャラにしたの? 男性キャラの方が、多分やりやすいと思うよ?」 

「ダメなんです。それじゃあ」


 サラがやけに主張する。すると睦美がニヤけた顔で言った。


「静流キュン、女性キャラでやってみたらどうだい? みんなは男性キャラを使うんだ」

「そっか。面白そうですね」


 静流はデフォルトのシズルを、女性に切り替える。するとシズエに名前が変更された。


「そう言えば、静江さんって、前に学園のお風呂に入ってたひと、いたわよね?」

「ミスター・イガラシの、親戚の方でしたか?」

「え? ああ、そうですよ」


 以前、学園の風呂騒ぎの時に、ダッシュ6の静流が苦し紛れに思いついた設定だった。




              ◆ ◆ ◆ ◆




 ゲームの進行は、いわゆるテンプレ的な転生ものを彷彿としたもので、


 ・スキルの選択をルーレットで決める。

 ・いきなり原っぱに落とされる。

 ・低級モンスターを狩りつつ、街を目指す。


 といった具合である。


 プレーヤーがルーレットを回し、出た目の数だけ進む。


「うわ、山賊だ! 逃げるか?」


 シズエは「逃げる」を選択し、ルーレットを回す。

 1~3は成功、4~6は失敗であった。


「4か、まずい、逃げられないぞ?」


 逃げきれなかったらしく、山賊に捕まってしまったシズエ。すると、



 『どや? エエか? エエか?』

 『いやぁぁぁぁん』 



 画面一杯に映し出された、シズエが山賊に弄ばれている姿が映った。

 肝心な部分は、例によって「検閲」マークが入っている。


「うげぇ、僕、襲われてる……」

「何てハレンチな!」

「まあまあ、一応、『自主規制済み』なので」


 そのあと散々弄ばれたシズエは、奴隷商人に売られてしまった。


「妙に生々しいわよね? このゲーム」

「『黒魔』がやりそうな事だわ」

「一応、私たちも、『黒魔』のメンバーなのよね」


 カチュアと真琴がそう言うと、ヨーコは自分も黒魔である事を告げた。


「みなさんは海外支部ですか。 サラさんの作品、 人気ありますよ」

「うぇ? そうですか? 嬉しい、です」

「あの二人、荒木・姫野コンビが、いつも悔しがってますもん」


 街に一番に辿り着いたのは、アンナだった。


「よぉし、一番乗りだぁ、早く奴隷娼館に行くべ♪」

「マズいわね、アンナにシズエさん、買われちゃうわよ」


 みんなも早く街に入りたいのだが、


「あら? 通りすがりの馬車を、うっかり盗賊から助けちゃった」

「ナギサ、王都直行コースよ。おめでとう」


「え? 獣人の女の子に付きまとわれてるんだけど?」

「美千留クン、発情期の獣人はしつこいぞ?」


「僕だって、自力で娼館を出てやるんだ……5、ダメか」

「私が買ってあげるから、待っててくれたまえ」


 とこんな調子である。するとイベント発生の文字が流れた。


「来るぞ! 厄災モードか戦乱モードか?」

「何です? そのモード」


 厄災は文字通り、災害に遭遇して何もかもシャッフルされる。

 戦乱は他の勢力から攻撃を受け、国家間の争いに巻き込まれる。


「何?『世紀末モード』? 知らんぞ? 私も」


 検閲を担当した睦美も知らない『裏モード』らしい。

 世紀末モードに突入し、一同は分岐点まで駒を戻された。


「なんとか奴隷からは解放されたな。よし」


 シズエはルーレットを回す。


「何だって? レイダーに襲われる?」

「イヤな予感しかしないわね」


 予想通りの結果となった。

  


 『ココか? ここがエエんか?』

 『いやぁぁぁぁん』 



 画面一杯に映し出された、シズエがレイダーと呼ばれる、レザーアーマーを着けたモヒカンの男に弄ばれている姿が映った。

 肝心な部分は、例によって「検閲」マークが入っている。


「ちょっと待って、このゲーム、本当にゴール出来るの?」

「出来ますよ? 途中で死ぬか、天命が尽きるか、ですけどね」

「確か今、『最速モード』でやってるわよね?」

「最速でおよそ3日かかります。『じっくりやりこみモード』だと、数か月はかかりますよ?」

「う、ダメだ、こりゃぁ……」


 期待をはるかに裏切ってくれた出来に、憔悴しきった一同。


「商品化に漕ぎつけただけでも、評価するわ」


 カチュアからギブアップ宣言があり、ゲームを中断した。


「全く、とんだ茶番だったわね」  

「所詮、学生が考えたものです。多めに見てやって下さいよ」

「とりあえず、セーブしますね?」

「続き、やる事あるのかしら?」

「お茶にしましょうか? 先生?」

 

 応接室に戻り、ティータイムをとる事にした。

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