エピソード39-10

ワタルの塔―― 2階 応接室


 不評に終わった『スーパー転生ゲームDX』を中断し、応接室に戻ってティータイムをとる事にした。


「何かすいません、あまり楽しめなかったみたいで……」

「気にしないで。うんと暇を持て余しているユーザーなら、ウケるかもね?」

「私は、楽しかったですよ? 静流様に会えただけでも十分です」

「サラ。そう言ってくれると嬉しいな」

「勿論私だって。勾玉もバージョンアップしたものを頂けたし」


 シズムが紅茶とお菓子が乗ったお盆を、器用に両手で持って来た。


「お待たせしましたぁ、お茶でーす」

「ありがとう、シズム、お前も座って」

「はぁーい」


 みんなに紅茶が配られ、ティータイムとなった。


「このクッキー、美味しいわね」

「そうでしょ? これね、睦美先輩が焼いたんですよ」


 「「「「うん?!」」」」


 学園側一同が、異様な目で睦美を見た。 


「アナタが? 意外ね」

「良き相談相手、プラス菓子作りスキル……出来ますね」


 てっきりそっち方面は苦手だろうと、勝手に想像していたのであろう。

 カチュアは素直に感心し、ヨーコは味の分析をブツブツ言いながらやっている。


「気に入ってくれましたか? それなら作って来た甲斐がありましたよ」

「僕、大好きなんだ。先輩が焼いたクッキー」


 ヨーコは、静流がそう言ってサクサクとクッキーを食べる様を見て言った。


「睦美さん、あとでレシピをメールで頂けませんか?」

「それは構わないが、特に変わったものは使っていないよ?」

「イイんです。この味を忘れないうちに習得しなければ……」

「ヨーコさん、以前私も何回かトライしてみたんだけど、全く同じものにはならなかったわ」


 真琴は、気まずそうにヨーコに言った。


「真琴さん? 諦めたらゲームオーバー、ですよ?」

「たくましいわね、ヨーコさんは」


 睦美は、ダメ元で話題を振ってみた。


「先生方にお尋ねしたいのですが」

「なぁに? 恋バナ?」

「ちょっと荒唐無稽な話なのですが……」

「言ってみなさいよ、伊達に長く生きてないわよ?」

「『元老院』についてなのですが、何かご存じではありませんか?」

「ああ、純血の老いぼれ集団の事? もう絶滅したんじゃないの?」


 カチュアはそう言ったが、ニニは記憶を辿りながら、教えてくれた。


「ある卒業生の家が上級貴族で、そちらの父兄が確か元老院の幹部だったとか……」

「薫子お姉様が異空間に飛ばした生徒ですね?」

「詳細まではちょっと。多分記憶操作されていると思いますね。信じ難いですが」チャ

「すいませんね。変な事を聞いて」

「いえ。お力になれなくて」


 睦美は、顎に手をやり、考え込んでいる。

(先生方も記憶をいじられているのか。厄介だな)


「あの子たちにはアノ学園を糾弾する権利があるわ」

「もう少しなんです。ご協力、頂けませんか?」

「そうね。出来る限り協力するわ。私たちも負い目は感じているのよ」

「善処します」チャ


 唐突に、カチュアが手をポンと打って、立ち上がった。


「そうだ! 結局、『賭け』はどうなったの?」

「どうなったって、ゲームは先生がギブアップしたんじゃないですか」

「そうだけど、気になって眠れないわ。今夜」ムフゥ


 カチュアは自分の肩を抱きしめ、腰をくねらせた。


「しょうがない。静流キュン、皆さんにしてあげるんだ」

「するって、『抱擁』ですか?」

「学校間の友好の為だ。減るもんじゃないだろう?」

「先輩? 無茶ぶりも大概にして下さい!」

「真琴クン、ゲストに気持ちよく帰って頂く事こそ、主賓の務めなのだよ」


 睦美の余りにも身勝手な言い草に、真琴がキレかかったと思われた時、静流が言った。


「わかりました。やります」

「静流? マジなの!?」

「マジ。それでみんなが喜んでくれるんだったら、ね」

「それは違うな、静流キュン」

「何が、です?」

「キミも楽しまないとね。イヤイヤやるのでは『おもてなし』にはなりはせんよ」

「そうですよね。それじゃあゲストに失礼だ」




              ◆ ◆ ◆ ◆




ワタルの塔―― 2階 仮眠室


「おあつらえ向きの場所があるじゃないか。ココにしよう」


 睦美は全員を仮眠室に連れて行き、それぞれをカプセルに入るよう指示する。

 

「何をするつもりなの?」

「これから皆さんの部屋に、静流キュンが訪ねて来ます」

「え? ココに?」

「制限時間は5分。じっくり堪能して下さい」


 睦美はカプセルを部屋に見立てて、静流にハグさせるつもりだ。

 

「本当に寝てしまわない様に、気を付けて下さいね。では始め!」


 最初の部屋は、ヨーコだった。


「失礼しまーす」

「し、静流様!? その恰好は?」


 カプセルに入って来た静流は、先ほどブラムが自己紹介の時着ていた、牛の着ぐるみ姿であった。


「肉布団でございます。では失礼して」ムギュウ


 静流は、カプセルに入るなり、ヨーコを抱きしめた。


「はぅぅぅぅぅん」


 ヨーコは、意識が飛びそうなのを必死でこらえた。


「どお? 気持ちいイイでしょう?」

「ふぁ、ふぁい」

「さっき、ブラムに抱かれた時、予想外に気持ち良かったから、ブラムにコレ出してもらったんだ」


 暫くそのままの状態を保ち、頃合いになった頃、静流は言った。


「ヨーコ、今日はありがとう。楽しかったよ」

「わらひも、たのしかっられす……」


 静流はそっとカプセルを出た。次に入ったのは、アンナのカプセルだった。


「し、静流様、その恰好!?」

「驚いた? 結構気持ちイイんだよ? ほら」


 そう言うとアンナを抱きしめた。


「ふぁふぅぅぅん」


 アンナは顔を真っ赤にして、静流と目を合わせている。


「あったかくて、イイ匂い」

「アンナ、今日は来てくれてありがとう」

「学園にも遊びに来てくんろ? 待っでるから」


 次に入ったのは、ナギサのカプセルだった。ナギサはオシリスと戯れていた。


「失礼するよ」

「あは。素敵。オシリスちゃんと牛さんの『ダブルモフモフ』ね♪」


 静流は後ろからナギサを包み込むように抱いた。


「きゃうぅぅぅん」


 ナギサはくるりと身体を回し、静流に向き直る。


「ああ。このモフ感、最高です」

「フフ。一番気に入ってくれると思った。ナギサ、来てくれてありがとう」


 次にサラのカプセルに入った。


「ふぁう、静流様?」

「力を抜いて、楽にするんだ」


 そう言うと静流は、そっとサラを抱いた。


「ぷしゅぅぅぅ」


 サラの目が♡マークになり、気を失っている。

 静流はサラの髪をそっと撫でながら言った。


「サラ、いつもありがとう」


 次のカプセルに入ると、何と二人の先生が入っていた。


「あれ? 一人ずつ順番ですよ? 先生?」

「もう我慢出来ないのよ、お願ぁい」

「生徒たちの『アノ声』を聞いていたら、興味が湧きました」


 静流は、二人の先生を交互に抱きしめた。


「「はひぃぃぃん」」


 次に先生同士が向き合い、その間に静流が割り込んだ格好になった。


「先生。少しは癒されました?」

「ええ。満たされたわ。満タンよ」

「このまったりとした感じ、悪くないですね」


 学園側全員に、静流の『おもてなし』が完了した。


「お疲れ様、静流キュン」

「お客さんに満足してもらうのって、難しいですね」

「しょうがないさ、接客業については、ド素人なのだからね」


 牛の恰好で真っ当な事を話している静流が、何とも滑稽だった。

 静流にまとわりつく影が二つ見えた。


「おい、美千留、いい加減離れろよ」

「ヤダ、気持ちイイんだもん」

「真琴? お前もか?」

「だって、モフモフのぬくぬくなんだもん」

「確かにたまらんな、この毛並み」


 暫しの間、三人は静流牛のモフモフを堪能した。


「先輩まで。好評で何よりでしたね、肉布団」

「ああ。定番メニューに加えよう」

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