エピソード38-7

闘技場――


 静流VS忍の決闘が続く。今のところ、静流が忍に押され気味である。

 静流は今の窮地を脱するため、心を決めた。


「皆さん!『アレ』を使います! 避難して下さい!」 


 警戒しながら、ギャラリーたちに避難を促す静流。がしかし、


「ムっちゃん、何やのその『アレ』って?」

「静流キュンのとっておき、だろうな。楽しみだ。私も味わった事が無いのでな」ワクワク

「避難しろ言うとるで? 大丈夫なんか?」


 睦美は、ついにアノ技を体感できるとあって、ソワソワしている。

 カナメは他の連中を見たが、避難しようとしている者は一人もいなかった。


「何やらけったいな技でも繰り出すんかいな?」


「つ、ついに見れるんですね? アレが」

「避難なんて、してられないですよ、せんぱぁい♡」


 後輩ズは興奮度がMAXになろうとしている。


「実際に体感しなくては、危険かどうかはわからんだろう?」

「恐らく、大事には至らないと思いますよ?」


 睦美は、少し顔を赤らめ、真琴と話している。


「誰も避難しないんですか!? もう、どうなっても知りませんよ!?」


 静流は、『容姿端麗』のカードをスロットに挿した。


「チェンジ! ダッシュ6! ビシッ」


 パシュゥ!と言う音と共に、桃色を基調とした甲冑に身を包んだ静流が現れた。

 『愛』と大きな文字があしらわれている兜からのぞく長い桃色の髪は、縦ロールが掛かっている。

 和風ビキニアーマーの足元は太ももまでストッキングで覆い、ガーターベルトで吊っている。

 完全に『女性化』している静流がそこにいた。


「……イイ。実にイイ」

「うはぁ、か、可愛いらしなぁ」

「可憐だ」

「むはぁ……美しい」

「これからですよ、ヤバいのは」


 睦美たちがダッシュ6に見とれている横で、真琴は身構えた。


「女の子になってる!? 何を始める気なの? 静流?」

「さぁ? 何でしょうね!」

「声まで可愛くなってる」


 忍は、鎧モードが変わった事で、警戒している。


「静流! さぁ、見せてやりなさい! サムライアーマーの神髄を!!」


 薫子が静流に向かって叫んだ。



「反転! 裏モード ダッシュ7! ビシッ」



 『容姿端麗』のカードを一度抜いて、裏面の『眉目秀麗』に挿し替える。

 パシュゥ! という音と共に、容姿端麗モードの反転である、桃色から黒に変わった鎧を付けた静流が現れる。

 女性的な鎧から、スリムながら男性的なデザインの鎧に、両手剣を携える。

 兜の『愛』の文字は残され、兜からのぞく長い桃色の髪は、サラサラのストレートである。

 左目を眼帯が覆う、超絶美形の静流となった。


「これが、ダッシュ7、とやらなのか?」

「こ、これは破壊力抜群だ!」ハァハァ


 沖田は感嘆し、睦美の興奮状態はMAXを迎えようとしていた。


「ああっ、ゾクゾクしちゃうわぁ」

「楓花!? お前、いつの間に?」

「フヒヒ。オレが呼んだ。こんな面白イベント、参加しとかなアカンやろ?」

「私だけのけ者は、勘弁してよねぇ?」

 

 さっきまでいなかった会長が、やはり興奮度MAXに達しようとしていた。

 カナメがそれを見て、ニヤリと笑った。


「静流? その姿……ああ、素敵」


 忍が姿を消す事も忘れ、ダッシュ7に見とれている。


「忍ちゃん、覚悟! 『旭日昇天』!」


 静流は技カードをスロットに挿すと、両手に刀を持ち、クロスさせてフィギュアスケートのスピンの様に回り始めた。

 身体全体から桃色のオーラを放つ。

 忍は、受け身を取る事も間に合わず、技を近距離でモロに受ける。



 フワァァァァ!



 闘技場全体がやがて桃色のオーラに包まれる。そして、



「何と心地よいオーラだ……」

「あふぅん、スゴい」

「ダメ、おかしくなっちゃう」


 ギャラリーたちが悶え始めた。技の直撃を受けた忍は、


「はぅぅん、静流ぅ……くぅぅ」


 悶え、膝を突いた。そして、



「「「「あん、ああっ、イッくぅー♡」」」」



 忍は、ギャラリー共々エビぞりになって、昇天した。




          ◆ ◆ ◆ ◆




闘技場の隅っこに、忍は寝かされている。忍を始め、ほとんどの者の両目が♡マークになったまま、気を失っている。


「は! ここは?」ガバッ


 忍が目を覚まし、半身を起こす。


「さすが【毒耐性】持ち。気が付くのが一番早いですよ」

「静流。アナタなの?」

「ええ。アノ技を使うと、しばらくこの状態になっちゃうんです」


 鎧を解除した静流は、ダッシュ6の姿であった。

 ダッシュ6の裏モードである『ダッシュ7』の負荷は凄まじく、維持できるのは10分程度であり、その後ダッシュ6に戻るが、原因不明のエラーで、鎧を解除してもしばらくはダッシュ6のままになってしまう。


「みんなはまだノビてるわよ。私も余りの衝撃に、幽体離脱しちゃったもん」


 薫子は思念体の状態であった。


「今度こそ勝負、あり、ですよね?」


 静流は、忍にそう言った。


「フフ。負けたわ。完敗よ」


 負けを認めた忍は、腰が抜けたようで、立ち上がれない。


「忍ちゃん、大丈夫、ですか?」


 忍を引き起こそうと右手を出し、忍もその手を握り、立ち上がった。


「でも、スゴい波動ね? 確かにえげつないかも」

「これでも意識して絞ったつもりなんですよ?」

「フルパワーだったら、ゾッとするわね」


 そう言うと薫子は、みんなを起こしながら本体に戻って行った。


「ほら、みんな起きなさい! 勝負がついたわよ!」


「正に『桃源郷』だった……ぬふぅ」

「コレや、コレが『エアちょめちょめ』や!」

「あふぅ。イカされちゃった」ポォォ

「はひぃ。し、しあわせ、れす」

「これが、『賢者モード』なのか?」

「女の子もその表現、使うんですか?」

「替えのパンツ、持って来たっけな?」


 ノビていた連中を起こすと、勝負が終わっていた事に気付く面々。


「うわぁ、シズルンが、ししょーに勝ったぁ!」

「お師様を圧倒された……素晴らしい」


 勝負が終わり、見つめ合う二人。


「やっぱり忍ちゃんは強いな。僕は道具で勝ったようなもんですから、反則みたいなもんですよ。タハハ」



 ダッシュ6の静流は後頭部をかきながら、照れ照れでそう言った。


「ううん、静流は強い。道具を使いこなせるのはアナタの実力。私を負かせたんだから、自信を持って。これはご褒美」


 忍はすかさず静流の懐に入り、唇を奪った。むちゅう


「「「!!!!!!」」」


 忍のとっさの動きに静流は反応出来ずに、唇を奪われてしまう。周りのギャラリーが、一瞬で凍り付く。


「は、はれぇぇぇ!?」バタッ


 静流はキスをされた直後、顔が紫色に変わり、倒れた。

 影たちが静流に駆け寄った。


「静流様! お気を確かに!」

「ここはアタシに任せて! シズルン、今助けるから」むぅー

「篠崎! 何をしておるのだ! 担架だ!」


 イチカが静流の口に自分の口を近づけようとして、睦美に阻止された。


「でも、毒を吸い出さないと」

「ええい、そう言う茶番はイイ!とっとと保健室に運ぶのだ!」


 静流は、睦美が見守る中、影たちが担架で保健室に運んで行く。


「だけど、まだまだ修行が足りない」


 忍は、運ばれていく静流を見ながら、吐き捨てるようにそう言った。 


「どう言うつもりなの? 忍! 勝負はついてた! アナタ、キスに乗じて【麻痺毒】を仕込んだでしょう?」


 薫子は、忍が静流の唇を奪った事もさることながら、決着後に仕掛けた事を非難した。


「し、静流の『1st』がぁぁぁぁ!?」

「え? 今のがそう……なの?」

 

 真琴が頭を抱えて苦悶の表情を浮かべ、半ベソをかいているのを見た薫子は、事の重大さに固まった。


「『初めて』だったの? でも、油断してる静流が悪い」ポォォ


 先ほどのキスが静流にとっての「初めて」だと聞いて、忍は内心、とんでもない事をしてしまったと自責の念に駆られていた。


「忍!? アンタ、やってくれたわね? どう責任取るつもり?」バチバチッ

「責任? 取るわよ? 一生かけて」ポォォ


 薫子は負のオーラをまとい、プラズマ現象まで起きている。


「最後に何か言う事、ある?」バチバチッ


 一方忍は、頬に手をやり、遠い目で明後日の方向を見ている。


「薫子さん! 落ち着いて下さい!」

「なぜ止めるの、真琴ちゃん!?」

「そんな事をしても、静流は喜ばないでしょう?」


 真琴は、青い顔をしながら必死で薫子を止めた。


「くうっ……そうね。悪かったわ。どうかしてた」シュゥゥ


 真琴の説得で、薫子は平静を取り戻した。


「それより静流が心配だわ。行きましょう。忍、アナタもよ」


 薫子は、放心状態の忍の手をを引き、保健室に向かった。

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