エピソード38-2

生徒会室―― 放課後


 終わりのHRが終わり、睦美に放課後ココに来るように言われていた静流は、真琴と共に生徒会室を訪れた。


 コンコン「失礼します」ガラッ


 静流が生徒会室の扉を開けると、睦美が『あのポーズ』をしていた。


「やあ静流キュン、ご機嫌如何、かな?」

「調子はイイと思いますよ? 『ドクポ』のお陰で魔力はフルゲージです!」

「結構。オカ研部長も鼻高々であろうな」


 二人の世間話に、真琴はしびれを切らし、睦美に問う。


「先輩? 今日は何の御用ですか?」

「1マネの真琴クン、仕事熱心なのはイイが、そう急かすものでは無いよ」


 睦美は、自分が第一マネージャーでない事を、面白く思ってはいない。


「で、何かあったんです? もしかして、お姉様たちの件、ですか?」

「まあそんな所だ。静流キュン、君に紹介したい者がいる。出て来たまえ」


 ……シーン


 誰も出て来なかった。


「おい! いい加減、腹をくくれ! 意気地なしが!」


 睦美は立ち上がり、準備室に入ると、なにやらもめている。


「やはり、私は裏方の方がイイのだが……」

「何を言っている! こっちに来い!」グイ


 睦美が強引に連れて来た女生徒は、ゆるくパーマが掛かった黒髪に、丸メガネの小柄な少女であった。


「何となく静流に似てるね。『黒静流』って感じ?」

「おいおい、年上だぞ? コイツは」

「し、失礼しました。あまり見かけないですよね?」

「…………」


 女生徒は、顔を赤くして、下を向いている。


「コイツは3-Bの 沖田エライザ だ。よろしく頼む」

「こ、こんにちは。五十嵐、静流殿」


 睦美に紹介された沖田は、顔を上げ、静流を見た。


「どうも。ほんとだ。ちょっと僕に似てるかも」

「そ、そんな、おこがましい」

「実は、コイツはな……」


 睦美がしゃべろうとすると、沖田は振り向き、手でバツをし、口をパクパクしながら阻止する。


「案ずるな。お前の尊厳は守る」グッ


 睦美は下手なウィンクをし、親指を立てる。沖田はおとなしくなった。


「誰あろう、コイツはかの有名な高校生小説家 ジミー・パイルダー 先生なのだ!」

「おい、話が……違うではないか」


 自分が『静流派』の総長だとばらされると思っていた沖田は、「そっちかよ」と言いたげな顔で、睦美を見て言った。


「ジミー・パイルダーって、あの『塵芥川賞ちりあくたがわしょう』の?」

「そうだ。高1の時、『ドクダミ畑でつかまえて』が塵芥川賞ちりあくたがわしょうを受賞している」

「え? 外人、じゃなかったんですか? しかも女性だったとは」

「英訳して輸出している。逆輸出という事になるのか?」


 静流は、目の前の華奢な女生徒を、まじまじと見つめた。


「はぅぅ、見られているぅ」

「あの小説、僕も読みましたよ。SFは大好物ですから」

「あ、ありがとう」

「難しくてすべてを理解するのは無理でしたけど、不器用なタックルベリーが何だか、まるで僕をモデルにしたんじゃないかと思いましたよ」ニパァ



「ふぁうぅぅぅん」



 静流のニパを食らい、沖田は失神しそうになった。

(確かに、アレのモデルは静流様だ……)

 沖田は、倒れそうになった寸前で踏みとどまり、振り返って睦美に迫った。


「くうっ、コレが『ハニカミフラッシュ』、通称『ニパ』なのだな? 書記長?」

「そうだ。おめでとう! コレが『洗礼』だ!」

「生ニパだ、生ニパだぁー」


 沖田は睦美に何度も確認し、睦美は何度もうなづいた。


「やっぱりソッチの人か……」


 真琴は落胆した。


「本当に高校生だったんですね? 都市伝説かと思ってましたよ」

「くうぅ、何とかしろ、この空気」

「うむ。『歩く都市伝説』と呼ばれる者同士、仲良くやってくれたまえよ?」


 睦美は顔を赤くして下を向いている沖田を、からかいつつそう言った。


「ぜひ。『先生』とお呼びしても?」

「キミなら、か、構わん……よ」


 沖田は、顔を赤くしながら、『先生呼び』を許可した。


「そう言えば、先生も話す時、『大佐モード』なんですね?」ニパァ



「きゃるるぅぅぅん」



 沖田は、大きくのけ反った。 


「実はね静流キュン、彼女は自分がジミーだと公表していない。ジミー・パイルダーは『謎の小説家』なのだよ」

「そりゃそうですよね。塵芥川賞作家がこの高校に通ってるなんて、好奇の目にされされるの間違い無しだし。ん?何か僕の境遇にも通じる所がありますね」

「なるほど。それで、マスコミ対策に【結界】を?」


 真琴は核心を突いて来た。


「真琴クン、鋭いね。さすが同じ【結界】使い。そう。彼女は【結界】が使える」

「それも、かなり強力なものですよね? 私、ココに入学してから常に感じていました」

「【大結界】は一応この学校位はカバーしている。あとは必要に応じて、個人的な【結界】を重ねて張るのだ」

「そのくらい強力な【結界】でないと、意味が無いからね」

「沖田先輩、その結界は、ご自分を守るばかりか、静流まで守ってくれていた、と?」

「ちょっとした気まぐれだ。気にするでない」

「そう言えばバレンタインの時も、それほど大騒ぎにならなかったわね」

「確かにそうだな。その頃は私も、まだ静流キュンの事をほとんど意識していなかったしな」

「買いかぶるでない。不可抗力だ」


 沖田は謙遜しているが、自分の行いが認められた事に喜びを感じていた。


「ありがとう先生! 僕にとっては、『嬉しい不可抗力』ですよ?」ニパァ


 静流は、満面の笑みでそう言った。沖田はさらに『ニパ』を食らい、姿勢を維持するのがやっとであった。


「うぐっ、まぶし過ぎる」

「沖田、気をしっかり持て」


 真琴は、さらに発言する。


「なぜ今、正体を明かすんです? 静流と何か関係があるのですか?」

「私の師匠は、黒田忍お姉様なのだ」

「忍ちゃんが先生の師匠!?」

「お師さんをちゃん付け!? さすがは静流殿だな」

「先日の件で、忍お姉様がこの学校にちょっかいを出しかねないという事態を考慮し、沖田をこちら側に引き込む事にしたんだ」

「忍ちゃんを弾くくらいの【結界】を張るんですか?」

「先ず無理だな。あの方はそういった『まやかし』は通用しない」

「事が大きくなってきましたね。直に僕が向こうに行って、忍ちゃんにクギを刺すか」

「あの方がそう簡単に意思を曲げるとは思えないな」


 ふぅむ、と腕を組んで考え込む一同。それを見て真琴が言った。


「簡単ですよ先輩。静流に『約束を破ったら絶交する』って言わせればイイんですから」

「ま、真琴クン、それは忍お姉様に『死ね』と言っている事と同義だぞ?」

「武士の情けだ! それだけはやめてくれ」


 先輩たちは、真琴に懇願した。真琴は溜息をつき、呆れながら言った。


「じゃあ、どうすればイイんです?」

「あの方を完膚無きまでに叩きのめすか、アメをくれてやる、か」

「アメ、ですか?」

「ふむ。例えば、使用済みの体育着をエサに、落とし穴に落とす、とか?」

「その手は、薫子お姉様に使いました」

「そ、そうか? 効果てき面であったろう?」

「はい、嘘のようにかかりました」

「あの方もか。お師さんは、静流殿の体育着が大の好物であったのだ」

「そう言えば、中学の頃よく体育着が無くなったんですけど、いつの間にか洗濯されて戻って来たんですよね……」

「わたしは、どっかの変態がやってるんだと思ってましたよ」


 みんなで知恵を絞っていると、影たちが見回りから戻って来た。


「殿下、ただいま戻りました」シュタッ

「おう、ご苦労」

「今のところ、異常無しでございます」


 三人の影たちは、睦美たちを見るなり、顔をこわばらせた。


「クッ、ご無沙汰しております。沖田様」


 影の一人が、沖田を見るなり、そう言って最敬礼した。


「やっほうシズルン! あ、総長、チーッス」ぺこり


 イチカは沖田に一礼した。


「しののん? 知り合いなの? 総長って?」

「え?……だって、むぐぅ?」


 事態を察知した影たちは、、イチカの口をふさいだ。

 影の一人がイチカに耳打ちをしている。


「静流様、沖田様は、我々の姉弟子にあたる方ですので」

「お前たち……出来る様になったな」


 状況を察知してくれた影たちに、沖田は感謝した。


「って事は、キミたちも忍ちゃんの弟子だったの?」

「師匠をちゃん付け!? さすがは静流様」

「そうか、お前たちの師匠でもあるのだな、忍お姉様は」

「ええ。あの方には、隠密行動の厳しさを学びました」 

「そういやぁ師匠、三中ん時からシズルンの事ばっか見てたなぁ」

「これ篠崎! 口が過ぎるぞ!」

「てへ。失敬」


 影たちにも状況を簡単に説明した。


「ご無事で何よりです。師匠」

「殿下、師匠がこの学校に戻られるのですか?」

「ああ、でもすぐに、とはいかない」

「実害が無ければ、お越し頂いてもよろしいのでは?」

「それで済めばイイのだが、忍お姉様の事だ。静流キュンにちょっかい出そうものなら、血の雨が降りかねん」

「アノ人って、ダダの中二病じゃなくて、そんなに危険な人なの? 静流?」

「そうかなぁ? 何考えてるかわからない人だけどね」

「どっちにしても、キーパーソンは静流、アンタよ」

「わかってる。何とかしなきゃ、ね」

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