エピソード35-19

ワタルの塔 二階 娯楽室――


 忍が保養施設帰還組を寝かしつけている間、娯楽室には静流の他、真琴、美千留とリナ、雪乃がいた。


「薫さんと薫子お姉様は? リナ姉」

「ああ、ドームにいる。呼ぶか?」

「い、イイです。次来た時で。あ、コレ、お土産です」

「おお! 気が利くじゃねえか、静坊」

「ククルス島にある、軍の保養所にゲストで呼ばれたんです」

「そうでしたの。気を使わせちゃったかしら」

「ほんの気持ち、ですから」


 仮眠室から忍が帰って来た。


「みんな、寝たよ」

「忍ちゃん、ありがとう」

「もっと褒めて、静流」

「よくやりました。イイ子、イイ子」

「くふぅ」


 すぐさま忍は静流の隣に座り、こてっと静流の膝に頭を置き、撫でてもらっている。

 リナは静流に聞いた。


「静坊たちは寝ないのか?」

「大丈夫。まだ休みだし」

「宿題、まだ残ってた」

「うひゃあ、読書感想文やらなきゃ」

「まだやってなかったの? ダメね」

「いろいろ、忙しかったんだよ」

「確かに。今までの冒険談、小説にしたらイイ線いくんじゃない?」

「僕に文才があればね」


 静流の膝枕に気持ちよさそうに頭を預けている忍を、ジト目で見ている美千留。


「あーあ、夏休みも、もう終わりかぁ」

「何しみじみ言ってんだ? 静坊」

「たまには行ってみたいわね。学校」

「アタイはウンザリだけどな」

「絶対行く。静流と同じクラスになる」

「忍さん、それはちょっと難しい、かな?」


 真琴が、申し訳なさそうに忍にそう言うと、


「睦美が何とかしてくれてる」

「睦美先輩が? どういう事? 静流?」

「何か企んでるみたいなんだ。校長と話してるって言ってた」

「まさか【事象改変】かしら?」

「雪乃さん、そんな高等魔法を使える先生、ウチにはいませんよ?」

「だとしたら、正攻法しかないわね。校長を使うとなると」

「学校の在り方自体をいじる、って事でしょうか?」

「そこまでは。校長権限がどこまで通用するか、かしら?」

「まあ、二学期からは難しいでしょうね」

「事が起こるとしたら、来年の新学期、とか?」

「それじゃあ、遅い」

「こら忍、おとなしく待つって睦美と約束したでしょう?」

「ぶぅ」


 忍は静流の膝枕で癒されながら、口をとんがらせた。

 真琴は、そんな光景を目の当たりにし、少しイラつきながら忍に聞いた。


「静流と随分仲イイですよね? 忍さん?」

「こちとら、『前世』からの付き合いなんで」

「今、何て?」

「私は、前世で静流の第三夫人だったの」


「「ぎょえー!?」」


 真琴と美千留は、目が飛び出るほど驚いた。


「さらっと重大発言出ました!」

「大変! このお姉さん、中二病を発症してる!?」


 二人は忍を、哀れみを含んだ眼差しで見つめている。すると、



「実はさ、どうも、本当みたいなんだ」



「「何ィ!?」」



 静流からの予想外のフォローに、真琴と美千留は、さらに目が飛び出るほど驚いた。


「オシリスは覚えてたんだ。前世の忍ちゃんを」


 静流がそう言うと、オシリスが不可視化を解いて、二人に告げた。


「その子が言ってる事は、事実よ。でも、それだけ」

「それだけ? どういう事?」

「だって、今の静流とは、関係ないでしょ?」

「前世がそうだったからって、今もそうかと言ったら、違う、という事?」

「そういう事。ねえ? 静流?」


 オシリスが静流に聞く。


「うん。正直そういうの、よくわからないし」 

「私だって、わかってるつもり。だよ?」


 静流の発言に、膝枕続行で少し寂しそうに言った忍。


「要するに、忍に主導権は無い、って事よ」


 オシリスはこの件をこう結論付けた。


「でも忍ちゃん、次は別の人って選択肢は無いの?」


 静流は素朴な疑問を忍に告げた。


「無い! 絶対無い! 静流は、私が嫌い?」


 忍はがばっと起き上がり、静流の両肩に手を置いた。


「そんな事、無いですよ」

「じゃあ 好き?」

「どちらかと言えば、好き?」

「ほら、問題無い」とさっ


 そう言うと忍はまた、静流の膝枕にうっとりしている。


「いろいろと、扱いにくい先輩だこと」

「しず兄、完全に飲まれてる」


 このあと少し雑談の後、忍が静流の膝枕で寝てしまったので、そぉっとソファーに寝かし、家路についた。


「お疲れ、真琴」

「ありがとう。イイ夏の思い出になったわ」

「そう言ってくれたのは、素直にうれしいな」

「本心よ。美千留ちゃんもお疲れ様」

「眠い。しず兄、膝枕して」

「もう勘弁して、あの姿勢、結構疲れるんだぞ」




              ◆ ◆ ◆ ◆




ワタルの塔 二階 仮眠室――


 静流たちが帰った数時間後、体内時計の調整が済んだ組があった。


「ピピピピピ」


 いきなり電子音が鳴った。


  ブゥゥーン


 睡眠カプセルの蓋が開き、角度がゆっくり鋭角になっていく。


「う、うぅ~ん」


 先に目覚めたのは、薄木組であった。


「ふぁーあ、良く寝た」

「「なぁんだ夢か、覚めなければ良かったのにぃ」」

「うふぅん、静流クゥン」


 イク姉、工藤姉妹、澪の順に起きた。


「はっ! ここは? 何だ、夢……か」


 萌は飛び起きると左右を見渡し、うなだれている。

 残るは佳乃だが、カプセルは起きているのに反応が無い。


「佳乃先輩? まだ酔っぱらってるんですか?」

「そんなわけないわよ。ほら佳乃、起きなさいって、うわ」


 澪が佳乃の睡眠ポッドを覗き込んだ途端、目を背けた。


「どうしたんじゃ澪、佳乃が何かしたのか? ふむ」


 むんとほんのり体臭をまとわせ、目が♡マークになっている佳乃は、呆けたようにフリーズしている。


「イッてますよね? 隊長?」

「このメスの匂い、確かにイッてるな」


 イク姉は、試しに佳乃の乳首をツンとつついた。


「ほぇぇぇぇ」びくぅん


 佳乃はよだれを垂らし、恍惚の表情を浮かべている。


「佳乃ったら、どんな夢をリクエストしたのかしら?」

「しょうがない奴め、風呂に入れるぞ」 


 佳乃を数人で担ぎ、風呂に入れた。 




              ◆ ◆ ◆ ◆




「ふう。生き返ったでありますぅ」

「ちょっと佳乃? 何悠長な事言ってんの? アンタ」

「何があったのか、話してもらうぞ? 佳乃?」


 みんなに風呂に入れてもらい、頭にタオルを巻き、ケロッとしている佳乃を中心に、薄木組の他のメンバーが取り囲む。


「何って、夢を見たのであります」

「だから、どんな夢?」

「そりゃあもう、口に出す事も出来ないような事を、ウヘヘ」

「静流クンと、ナニをしたのかな? 佳乃さん?」

「男と女がいて、する事と言ったら、『アレ』しかないでありましょう?」

「したのね? 静流クンと」

「ええ。しましたとも。がっつりと、であります」


 一同は溜息をつき、同時に言った。



「「「「なぁんだ、そんな事かぁー!」」」」



「え? 何だと思ったでありますか?」

「アンタのあのイキッぷりを見たら、もっとえげつない事を静流クンとヤッたのかと思ったわよ」

「具体的に、どんな事でありますか?」


「そうねぇ、『アオカン』とか?」

「うひゃあ澪殿、どストレートであります」


「私は、店舗型風俗で静流のご奉仕を受けていた、とか思ったぞ?」

「むむむ、行ってみたいであります」


「佳乃さんと言えば乗り物ですよね? お車でしちゃった、とか?」

「萌殿、露骨すぎるのであります」


「静流様に色々なコスプレをしてもらって、色々なシチュエーションでじっくりと、むふぅ」

「静流様に散々罵られ、足でグリグリされる、とか? んふぅ」

「そこまでマニアックな……イイかもしれないであります!」


 それぞれの願望を聞き、佳乃は溜息をつき、こう言った。


「ふう。皆さん、何でそんなに想像力豊かなんでありますぅ? よっぽど皆さんの方がえげつないのであります!」


「こんなのは序の口だぞ? 少佐殿の夢なんぞは、私らには到底理解できんぞ」




              ◆ ◆ ◆ ◆




 薄木組が基地に帰って行った数時間後、アスガルド組の体内時計の調整が終わったようだ。


「ピピピピピ」


 電子音が鳴った。


  ブゥゥーン


 睡眠カプセルの蓋が開き、角度がゆっくり鋭角になっていく。


「ふう。みんな、起きたかしら?」

「いやぁ、最高でした。むふぅ」

「はぁ。もう少し、余韻をたのしみたかったわ。んふぅ」

「レヴィは? 起きてるの?」

「ふぁ、ふぁい。起きてますよ」

「レヴィ、アナタ大丈夫?」


 レヴィの異変に気付いたアマンダは、彼女のいるカプセルに急いだ。


「はぁ、幸せ……れす」


 レヴィは予想通り、鼻血を吹いて酩酊状態になっていた。


「全くもう。アナタって子は」

「面目ありましぇん」

「で、どんな夢だったの? 静流クンが見た夢って?」


「私のリードで静流様が……おイキなされました」


「そう。じゃあ、私の見たものと、ほぼ同じかしら?」

「少佐殿も、ですか?」


「ええ。私が筆おろしのお相手を務めたわ。ざっと48通り、かしら?」


「ぶぶーっ! 思い出したら、鼻血がぁ!」

「レヴィ、もし正夢だったら、失血死するわよ? アナタ」


 レヴィの鼻に詰め物をしながら、アナンダは溜息をつき、こう言った。


「静流クンも、罪よねぇ?」

「一種の中毒症状だね、こりゃ」

「ここまで愛されてるなんて、静流クンて、なんて幸せ者なんだろう?」



「はい、幸せ……れす」ガクッ



 目が♡マークになってフリーズしているレヴィを、三人はあたたかく見守った。

 かくして、乙女モードの隊員たちによる、ささやかな休暇はこれにて終了した。

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