エピソード35-11

保養施設内 三人部屋 ―― 22:30時


 澪たちにオイルマッサージをした静流は、ロディを連れ、とりあえず三人部屋に帰って来た。


「ふう、ただいま」

「あ、静流、お帰り」

「しず兄、あのマッサージやったの?」

「うん。二人共喜んでくれたよ」

「イカせたの?」

「途中、気を失ってたけど、イッたかどうかはわかんないよ」

「バカ、スケベ大王!」フン


 美千留は顔を赤くしてそっぽを向いた。


「何だよ、もう。タダで泊めてもらってるんだ。ご奉仕するのは当たり前だろう?」

「静流、この後は何があるの?」

「あとは23:00時にイク姉と萌さんがココに来るから、二人を寝かしつければミッションコンプリート、だな」

「あと30分じゃない。部屋移動しなきゃ」

「真琴、何か悪いな、バタバタしちゃって」

「静流が謝る事じゃないわよ」


 静流が「スマン」のポーズをしたら、真琴は溜息混じりにそう言った。すると、チャイムが鳴った。



   ピンポーン!



「はぁい。もう来たの? イク姉?」ガチャ

「じずるさまぁ、私も構って下さいでありますぅ」

「佳乃さん!?」

「ココに来てから、じぇんじぇんお話も出来なかったでありまずよぉ」


 佳乃が静流に向かってズンズンと迫って来るので、静流は後ずさりする。


「佳乃さん、酔っ払ってますね?」

「ええ酔ってますよ。イイでありましょう? オフなのでありまずから」


 佳乃は口をとんがらせ、不貞腐れている。


「はいはい。で? 何をして遊びましょうか?」

「添い寝、じでぐだざいでありまず」

「え? でも佳乃さんは違う景品でしたよね?」

「そうですげど、足りないのでありまず」

「何が、足りないんですか?」

「『静流様エキス』が足りないのでありまず!」

「何ですって?」

「しず兄のエキスって? 体液?」

「美千留殿、違うとも言えませんが、そう言うのでは無いでありまず」

「二人共、ちょっとイイ?」


 静流は真琴と美千留を呼んだ。


「どうしようか? ココで寝かしつけるか?」

「後の二人はどうするの?」

「事情を説明して一緒に寝てもらおう」


 そうこうしていると、またチャイムが鳴った。



   ピンポーン!



「はいはい、どなた?」ガチャ

「よう静流、少し早いが来てやったぞ!」

「こんばんは、静流様。エへへ」


 枕を小脇に抱えたパジャマ姿のイク姉と、浴衣姿の萌であった。

 萌は首から上が真っ赤になっており、ヘラヘラ薄笑いを浮かべ、既にトリップしているような様子であった。


「二人共、もう来たの?」

「何じゃ、悪いか!」


 そう言うとイク姉はズカズカと中に入って来た。その後に萌が付いてきている。


「とにかく飲むぞ! ん?何だ、佳乃か」

「たいちょぉ、代わって欲しいでありまず、添い寝」

「何だと? 正々堂々やって勝ち取ったご褒美だぞ? 無理だ」

「そうれすよ、諦めてくらさいよ、佳乃先輩」

「う、うわぁぁん、じずるさまが、NTRされてしまうでありまずぅ」


 佳乃は「泣き上戸」なのだろうか?


「おいおい、聞き捨てならんな。大体、静流はまだ、誰のものでもなかろう?」

「そうれすよ。よっぽろ独占欲が強いの、先輩じゃないれすか?」

「わだしは、じずるさまの身を案じているだけでありまず」


 思わぬ展開になってしまったと、静流はこの場を取り繕うと考えているが、イイ案が思いつかない。


「まあまあ、佳乃さんも疲れてるんですよ。少し横になったらどうですか?」

「じずるさまが、隣にいてくれるのでありまずか?」

「落ち着くまで、ならイイですよ。ねえ、イク姉?」

「ふぅむ、不本意だが、仕方あるまい」

「うわぁい、じずるさまぁ」がばっ


 イク姉からのOKを聞くや、佳乃は静流をベッドに押し倒し、むりやり腕枕をさせた。


「む!? 何という早業だ?」

「え? どう言う状況なんです? これ」


 佳乃の無駄のない動作に、一同は呆気に取られている。萌はショックで正気に戻っている。


「むふぅ、じずるさまぁ」

「ちょっと佳乃さん、近くないですか?」

「近いでありまずよ、添い寝でありまずから」


 佳乃は静流の胸に顔をうずめ、顔をこすりつけている。


「ああ。この匂い。たまらないのでありまず」

「ハハハ、ちょっと、くすぐったいですよ」


 周りの一同は、二人の絡みを怒りに打ち震えながら見ていた。


「一体、何をやっておるのだ? 佳乃」

「佳乃先輩、どさくさに紛れて何やってくれてるんですか?」

「静流が……襲われている」

「しず兄、早く寝かせて。私がやってもイイ?」


「わ、わかった。【スリープ】」ポゥ


 静流は水色の霧を手にまとわせ、佳乃のオデコにそっとかざした。


「ふぁうぅぅぅ」シュゥゥ


「むふぅ、じずるさまぁ」 くー、くー


 佳乃は【スリープ】を受け、爆睡している。 


「ふう。これでイイんでしょ? 何怒ってるの?」


 静流は、周りからのジト目を浴びている理由が今一つわからなかった。


「静流、約束の時間だ。とっとと変身せい!」

「お二人はすいませんが、402号室で寝て下さいね?」

「う。わかりました。行こ、美千留ちゃん」

「お姉さんたち、くれぐれもしず兄には手出し無用、だからね? あの人は反則だよ!」


 約束の時間となり、イク姉と萌に部屋を追い出されそうになっている真琴と美千留。


「真琴、ちょっと」

「何よ? 静流」

「とっとと二人を寝かしつけて、露天風呂で星でも見るか?」コソ

「そう上手くいくかしら?」コソ

「とにかく寝かせたらそっちの部屋に行くから」コソ

「わかった。待ってる」コソ


 真琴と小声で会話していると、


「何をごちゃごちゃやっとる! 早くせんか!」

「私は……いつでもOKですよ」ポォ





              ◆ ◆ ◆ ◆





「よし、ベッドはこの配置でいくぞ!」

「佳乃さん、風邪引いちゃいますよ」


 三人部屋のベッドは、セミダブルくらいのものが三つあるのだが、それをを三つ連結させ、三人以上で寝ても余裕の配置とした。

 佳乃は、当然とばかりに床に転がされている。

 静流が佳乃に布団を掛けてあげている。


「こんなに広くしたんだったら、佳乃さんも寝かせてあげましょうよ」

「あいつはさっき散々静流を堪能したんだ、これ以上の施しは無用だ」

「そうです。私だって、このあとは……ムフ」


 三つ並べたベッドに、向かって右にイク姉、左に萌が座っていて、中央は静流が寝る為か空いている。

 二人はそれぞれ顔を少し赤らめ、静流が来るのを今か今かと待ち焦がれている。


「おい! 勿体ぶりおって、早くせんか!」

「ちょっと隊長ったら、ムードも何もないんですね……」


 すると部屋のチャイムが鳴った。




   ピンポーン!



「誰だ? これからって言う時に」

「はぁーい、今開けます」カチャ


 静流がドアを開けるとそこには、


「ちわーっす! ルームサービスどぇす!」

「追加のお布団お持ちしましたぁ!」


「はい?頼んでませんけど、ってリリィさんたち?」


 ズカズカと上がり込んで来たのは、リリィ、仁奈に何とアマンダであった。

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