エピソード35-2

五十嵐家 静流の部屋――


「忘れ物無いな? 美千留? 真琴も」

「うん。真琴ちゃん、日焼け止め、持った?」

「大丈夫! バッチリよ」

「じゃあ、行くか」

「「おー!」」


 静流は塔への【ゲート】を、自分のクローゼットを開けた奥にセットしていた。


「塔には初めてだったな、二人共」

「うん。大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。地球じゃない、砂の惑星だけどね」

「さらっと言うな!」

「ロディとブラムはもう先に行ってるから」

「軍の人って、いかつい人とかなの?」

「全然そんな事無いって。むしろ砕けてるって言うか、フランクと言うか」

「綺麗な人ばっかりなんだろうな」

「まあ、レベルは高いと思う」



ワタルの塔 二階 ――


 静流の部屋から【ゲート】を通り、一瞬で塔の1階ロビーに出る。


「ここが塔の1階なの?」

「そうだよ。さあ、このエレベーターに乗るんだ」


 静流は二人をエレベーターに案内した。


「今から二階に行くから」


 あっという間に2階に着いた。



 ウィーン



「もう誰か来てるね。お疲れ様でーす!」


 娯楽室に行くと、全員が集合していた。


「お疲れ様、静流クン」


 代表としてか、技術少佐が静流に寄って来た。


「どうもこの度はお招き頂き……」

「何よもう、そんな堅苦しい挨拶なんかイイのよ!」


 どっかのオバさんみたいな対応に、少し違和感があった。


「すいません。あ、紹介します。こっちが妹の美千留です」

「こんにちは。よろしく、です」ぺこり


 美千留はおとなしく頭を下げた。


「んまぁ、可愛らしい。お兄さんとは別のベクトルで興奮するわね」


 やはり、オバさんみたいな対応であった。


「そしてこっちが幼馴染の仁科真琴です」

「始めまして、静流が大変お世話になっているようですね?」ニコ


 真琴は少し引きつった顔で挨拶した。


「いえいえ、こちらこそ。で、幼馴染歴はいかほど?」ニコ

「生まれてからずぅーっと、一緒ですが、何か?」ニコ

「噂に聞く、『アルティメット幼馴染』って言うのかしら、そう言うの」ニコ

「そうみたいですね」ニコ


 先ほどとは打って変わり、ピリピリとした緊張感が漂っている。


「あ! 静流クンだ。お疲れ!」

「お疲れ様、静流クン」

「静流様、またお会い出来ましたね」


 アスガルド組のリリイと仁奈が先に、次にレヴィが挨拶して来た。


「どうもこんにちは。あ、レヴィさん。お疲れ様です」ニパァ



「「「「はふぅぅぅん」」」」



 アスガルド組一同は、久々のニパを食らい、大きくのけ反った。


「静流様、お疲れ様であります!」

「静流クン、来てくれてありがとう」

「静流様。お元気そうで何よりです」


 薄木組は先ず佳乃、澪、萌が挨拶した。


「「静流様ぁ、感激です」」


 次に双子の工藤美紀・真紀コンビが挨拶して来た。そして、


「おう静流、長旅ご苦労であった。一瞬だがな。ワハハハ」

 

 隊長の榊原イクは、ソファーに立ち腰に手をあて、偉そうに言った。


「イク姉、皆さん、お疲れ様です!」ニパァ


「「「「「「あふぅぅぅん」」」」」」


 薄木組一同も、ニパを食らい、大きくのけ反った。


「私服の皆さんって、何か新鮮だなぁ」

「そぉ? なかなかイイでしょう?」


 各組の軍人たちは、オフなので、当然私服であった。

 静流の感想にリリイが反応した。


「うわぁ。みんな綺麗なひとばっかり」

「スゴいメンバーね。破壊力が半端ないわ。しかもみんな静流にメロメロになってる」


 ゲスト二人は、年上美人軍人たちを見て、脅威を感じている。


「ところで皆さん? 今まで、モニターで何を見ていたんですか?」ジロ

「う、うん。推理サスペンス物をちょっとね?」


 最近の動向から、またいかがわしい動画でも見ていたのでは?と勘繰った静流。

 澪からの返事で意外にも真っ当なものを見ていたようで、ほっとしている。


「さぁて、この後は夕食を食べて、仮眠室で時差修正プログラムを起動させるわよ」

「へえ。そんな便利なものがあるんですか」

「コレを使えば、体内時計を自由に変えられるの。超優れものよ」

「シズル様、ウチは同行してもイイんだよね?」

「アマンダさん、イイですか?」

「勿論よ。ブラムさんは『功労者』ですもの」

「よかったわね、ブラムちゃん」


 さっきまで不可視化モードで休眠していたオシリスが不可視化を解いた。


「ありがとうございます。良かったな、ブラム」

 

 塔についてはもちろんの事、【ゲート】関係の知識や技術はブラム無しでは到底無理なものばかりである。


「明日はブラムさんに用意してもらった【ゲート】を使います」

「保養施設にまで設置したんですか?」

「この旅だけの簡易版だから、安心して?」

「確かに、飛行機に乗らなくてイイのは、助かりますね」



              ◆ ◆ ◆ ◆



ワタルの塔 二階 仮眠室――


 このあと、食堂でみんなで持ち寄った夕食を食べ、自由時間があり、就寝の時間となった。

 仮眠室には睡眠カプセルが30基あるので、十分足りている。


「ククルス島の朝06:00時に体内時計をセットするわね?」


 それぞれが睡眠カプセルに入り、少佐とブラムが設定をしていく。


「それじゃあ皆さん、おやすみなさい」 


「「「おやすみなさい」」」


 ブゥゥーン


 カプセルの蓋が閉まり、角度がゆっくり鈍角になっていく。

 物の数秒で眠りに落ちた。



              ◆ ◆ ◆ ◆



 静流は夢を見ているようだ。



「……クン、静流クン!」ユサユサ

「は、ミオ姉?」

「静流クン、多分ココは、夢の中だと思う」

「もしかして、あの機械が見せてる、とか?」

「多分ね。みんなも向こうにいるの。行きましょう」


 澪は静流の手を掴み、グイグイと引っ張る。


「わかったよ、行くから、そんなに急がなくても」

「もうすぐよ。ほら、着いたわ」


 着いた先は、断崖絶壁の端の端であった。

 二時間サスペンスのクライマックスで犯人を追い詰めるシーンに使われそうな光景である。


「うわぁぁ、高い……みんなはどこ?」

「さあ、静流クン、選んで?」

「何を選ぶのさ? ミオ姉?」

「私と世界、どっちを選ぶの?」

「は? 何言ってるの?」

「これは究極の選択よ。どちらかが残り、どちらかが滅ぶ」

「どっちも、選べないよ」

「そう。残念だわ。じゃあ、さようなら」トン


 澪は能面のような無表情になり、静流を突き飛ばした。


「うわぁぁぁ!」


 視界がブラックアウトした。



              ◆ ◆ ◆ ◆



「静流様、発進完了であります!」


 背面からそう言われ、振り向くと、パイロットスーツに身を包んだ佳乃がいた。


「佳乃さん、ココはどこ?」

「何を寝ぼけているでありますか? 機動歩兵『モビル・トルーパー』の中であります!」


 ふと自分を見ると、佳乃とお揃いのスーツを着ている事に気付いた。

 さらに、自分がある機体のコクピットに座っている事にも。


「さあ、GOサインをお願いするであります!」

「どうせ夢なんでしょ? ええい、出撃! GO!」

「了解であります。魔人、ゴー!」グイ


 佳乃は意味不明な掛け声の後、カタパルトからフルスロットルで飛び出した。


「へぶぅぅぅぅ!」


 静流は、顔が歪むほどの強烈なGを受け、悶絶寸前になっている。

 目標の速度に達したのか、呼吸が出来る程度の速度に落ち着いた。


「これより、亜空間移動、開始であります!」カチ

「うぇ? また加速するの?」


 佳乃がボタンを押すと、さらに加速し、周りの星が線状に糸を引いているように見えた。

 Gからは解放されたが、周囲が全く見えない。


「うぁぁぁ、どこに行くんです? 佳乃さん?」

「決まっているであります! 敵の本拠地でありますよ」

「敵? ですか?」

「『ロブスター帝国』でありますよ!」

「敵は甲殻類ですか?」


「目標接近、通常速度に切り替えるであります!」ヒュウゥゥゥン


 なんとか耐えられる速度まで落ちた機体。


「レーダーに反応あり、迎撃部隊接近!」


 工藤姉妹の3番機から通信が入る。

 外部モニターに3番機が映る。


「3番機、もう少し低く飛ぶであります!」

「了解、うわぁ、後ろに付かれたぁ!」


 3番機は後ろを敵の戦闘機にロックオンされているようだ。


「振り切れない! このぉ、2番機、何とか出来ませんか」

「今向かう、堪えるのであります!」


 静流たちが搭乗している2番機が、宙返りを試み、敵機の後ろを取る事に成功する。


「静流様、ガトリングレーザー、発射であります!」

「わかった、コレだな?」カチ


 静流は操縦桿にある機銃の安全装置を解除し、目標の戦闘機に機銃を掃射した。


 タタタタタ…… タタタタタ……


 静流は銃身を冷やす為に一定の間隔で銃撃を切りながら、戦闘機を追い詰めた。

 やがて戦闘機から爆炎が上がり、そして墜落して行った。

 

「撃墜確認! やりましたな静流様、これで星が17個目であります!」

「フォロー感謝します。あとでオゴらせて下さいね」


「軽口は後! 次が来るであります!」


 二機のMTは、他のMT部隊と共に、敵要塞に向かっている。すると、


「お前たち! 無事であったか」

「隊長!」

「1番機のエンジンが不調でな。やっと追いついたわい」

「4番機も来たであります!」

「お待たせ、さあ、ちゃちゃっと終わらせて帰りましょう!」


 隊長が搭乗している1番機と、澪と萌が搭乗している4番機が合流した。


「隊長、要塞から高エネルギー反応あり!」

「何だと? 彼奴らめ、まさか完成させていた、だと?」

「どうするの隊長!? とりあえず回避に移りましょう!」

「いや……もう遅い」


 静流たちを含むMT部隊の先にある要塞から、まばゆい光の渦が、回避不能の速さで向かって来る。

 光の渦は、やがてMT部隊を包み込んだ。



「もう間に合わない! うわぁぁぁぁ!」




 視界がブラックアウトした。



              ◆ ◆ ◆ ◆



「……クゥン、ねぇ、静流クゥンてばぁ」ユサユサ

「うみゅう? ココは?」 


 誰かに優しく起こされ、静流は目が覚めた。

 見慣れない部屋に戸惑っていると、


「やっと起きた。んもぅ、お寝坊さんなんだからぁ」むちゅ

 

 まだ誰だかわからない女性に、おはようのキスをされた。


「え? どなた?」

(緑色の髪に、ソバカス?)

「私よ? 気付かないの?」

「いえ、全然わかりません」

「んもぅ、しょうがないわねぇ」スチャ


 目の前の美人はおもむろにメガネを掛けた。 


「レ、レヴィ、さん?」

「やっと気付いてくれた。うれしい」むちゅ


 レヴィは事あるごとにキスをお見舞いする。


「ち、ちょっとこの状況、説明してもらっても?」

「ん? 何も覚えてないの?」

「は、はあ、どうもそうみたいで」

「んもぅ、そんな事、レディに言わせる気ィ? このぉ」カァァ


 何があったのか全然身に覚えがない静流に、レヴィは赤面し、静流の腕を軽くつねった。


「痛っ、ってあれ? 何も着てないじゃん!」

「スゴかったわぁ、夕べの静流クン。獣のようだった……」ポォォ



「へ!? うぇぇぇぇぇ!」



 視界がブラックアウトした。

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