エピソード35-3

ワタルの塔 二階 仮眠室――


「ピピピピピ」


 いきなり電子音が鳴った。


  ブゥゥーン


 睡眠カプセルの蓋が開き、角度がゆっくり鋭角になっていく。


「おはよう静流クン。気分はどぉ?」


 カプセルの脇に少佐が立っていた。


「いやぁ、変な夢ばっかり見て、精神的にはあまり休めていませんね」

「ちょっと待って、イケナイ! メニュー間違えてたわ」


 少佐があたふたしている。と周りでもなにやら騒いでいる。


「ちょっと少佐殿? 約束と違うじゃないすか?」

「ごめんリリイ、ちょっと手違いがあったみたい、なの」

「せっかく静流クンとイチャコラする夢をリクエストしたのになぁ」


 またある所では、


「うぇぇ。気持ち悪い」

「どうしたのでありますか? 澪殿?」

「ミカヅキモが私を襲ってくる夢」


 澪は青い顔をして、佳乃に介抱されている。


「ちょっと手違いがあったみたいね。ごめんなさい」ぺこり


 みんながウンザリしている中で、一人だけ満足げだった者がいた。


「ちょっと萌、顔赤いよ? 熱あるんじゃない?」

「無いよ美紀、だ、大丈夫だから」

「寝汗、スゴいよ? 萌」

「ちょっと、激しい夢、見ただけだよ真紀」ポォォ

 

 工藤姉妹に心配されている萌は、まだ夢を見ているかのようだ。


「ねえ、どんな夢だったの? 教えてよ」

「あのねえ、ごにょごにょ」


 姉妹が耳を傾けている。萌は小さい声で言った。


「ええ!? 『ダッシュ7』に抱かれた夢!?」



 「「「何ィィィ!?」」」



 この場にいる全員が萌を見た。


「しぃー、声、大きい……よ」ポォォ


 萌の顔がさらに赤くなった。


「あ、それ私が希望した夢ですよぉ?」


 レヴィが悔しがっている。


「静流クンは、どんな夢を見たの?」

 

 澪は静流の見た夢を聞きたがった。


「えーっと、先ず、ミオ姉に断崖絶壁に追い詰めれれて、落ちる夢」

「え? 私? それって、推理サスペンス物のドラマに似てるわね」 

 

「次に、佳乃さんとかとロボに乗って戦う夢」

「あ、それは恐らく自分の夢、であります!」


「最後は起きたら隣にレヴィさんがいて、キスされまくる夢、でしたね」

「はぅ? 私、ですか? 静流様?」


「あ、それあたしがリクしたやつかも」


 今度はリリィが悔しがっている。


「メガネ取るとわからないもんですね? 素敵……でしたよ?」ポォ

「詳細希望です! 録画とかしてないんですか? 少佐殿ぉ」


 先程のレヴィとの夢を思い出し、顔を赤くして照れる静流。

 レヴィは何とかして見てみたかったようで、少佐に泣き付いている。



「完全に古代文字を解読しないとダメね。はぁ、失敗だわ」




              ◆ ◆ ◆ ◆



ワタルの塔 二階 ――


 とりあえず時差ボケについては解消された一同。


「どうする? もうチェックインして向こうで朝食にしましょうか?」

「そうですね。08:00時にインしましょう」


 それぞれが支度を始める。


「下に水着、着てっちゃおっかな?」

「何それ、小学生みたいね」

 

 リリイと仁奈は、ビーチに行くようだ。


「私はとりあえず温泉かしら」

「それがイイであります」


 澪と佳乃は温泉に行くらしい。


「どうするのよ、静流は?」

「え? まだ決めてないよ。とりあえず部屋に着いて、朝ごはん食べてから決めるよ」

「部屋割ってどうなってるの? しず兄?」

「そう言えば、確認してなかったな」


 美千留に言われ、気になった静流は、アマンダに聞いた。


「すいません、アマンダさん、僕たちの部屋割なんですけど」

「まだよ。現地で厳正な方法で決めるわ。誰と一緒の部屋になるか、ワクワクするでしょ?」


「一応確認しますけど、今回の場合、真琴・美千留組と僕で一部屋ずつってパターンですよね?」

「静流クンは一人部屋を希望するの?」

「当り前でしょう? それ以外思い付きませんよ」

「三人部屋っていうパターンもアリだと思わない?」

「そりゃあ、真琴さえよければ? だけど」

「あたしは、構わない……よ」


 真琴は頬を少し赤くして、小さい声でそう言った。


「デフォルトはそれで、現地でシャッフルするわよ!」パチ


 少佐は意味深な事を言い、ウィンクをした。


「それはいろいろとマズいんじゃないでしょうか?」

「とぼけても無駄よ? 静流クン?」

「は? 何を、ですか?」


 少佐が得意げに静流を問い詰める。


「アナタ、『ダッシュ6』に変身すると、鎧を解除しても暫く戻れなくなるって、姉さんから聞いたわよ?」

「カチュア先生から? もしかして、バレてたのか?」


 以前、学園の浴場であった事件を思い出した。


「むむぅ? 本当ですか? 静流様ぁ?」

「はぁぁ、まさにドリーム・カム・トゥルーなのね?」ポォォ

 

 いち早くレヴィと萌が反応した。


「あの姿で添い寝してもらえるでありますか? イイでありますね」

「私は、そのままの静流クンがイイわ」

 

 澪と佳乃が続いた。


「ダッシュ6と温泉に入るのもアリよね?」ムフゥ

「女同士なら問題ないもんね?」


 リリイと仁奈がそう言った。


「ここは双子のシンクロ率を最大に活かすチャンスよ、真紀!」

「これを期にもっとお近づきになるんだからね、美紀!」


 工藤姉妹はやる気満々のようだ。


「おい、ちょっと待て、って事はだな……うぇ? 残った私は、少佐と組むのか?」


 隊長は不安の表情を浮かべた。


「現地のイベントに勝ち残った組は、3人部屋で『ダッシュ7 眉目秀麗モード』の静流クンと一夜を共にする権利を得るのよ!」



 「「「「おおーっ!!」」」」



「でも、やっぱりマズいんじゃないでしょうか?」

「静流クン、私たち軍人は民間人を護る為に、日夜頑張ってるのよ? その私たちに、『労い』や『癒し』という、ご褒美があってもイイ、と思うの」

 

 否定的な静流を何とか説得しようとネゴ担当の澪が立ち上がった。


「兵士たちの士気を上げる為にも、頼む! 静流」


 珍しく前向きな事を言っている隊長。


「ミオ姉、イク姉まで。その行為が皆さんの明日の活力になる、と言うのなら……わかりました、やりましょう」


 澪たちの説得に、結局折れた静流。真琴は溜息をついている。 


「うほぉ。でかした澪! ゴネ得ってやつ?」

「言ってみるもんでありますな、隊長」


 みんながそれぞれ顔を合わせ、喜びに浸っている。


「でも約束して下さい。あくまでも添い寝ですから、手出し無用ですよ?」

「大丈夫、そこはわきまえてるわ。でも、アナタが耐えられるかしらね? 私たちの誘惑に」ムフゥ

「うげぇ、もう帰ろうかな……」


 現地に行く前からげんなりしている静流。


「さあ、行くわよ!」


「「「「うぉぉー!!」」」」


 確かに女性軍人たちの士気は、だだ上がりのようだ。

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