エピソード34-2

レストラン『ジョニーズ』――


 『ジョニーズ』の入口付近で、二人の男が何やら話している。


「おい、手はず通りやんぞ、エエか?」

「おう、いつでもエエよ? ボス」


 そう言うと、二人は拳銃をホルスターから抜いた。

 タイミングをはかり、ドアを蹴破る。バァン!



「おとなしくさらせ! 金や! 金よこせ!」



 デストロイヤーのような目出し帽を被った二人組が、拳銃を構え、いきなり入って来た。


「何だ? 強盗か?」 

「物騒ね、さすがアメリカ?」

「どうするの? しず兄」

「どうするって、仕方ない、やるか?」

 

 静流が何かしようとした時、店の奥でテーブルから立ち上がる人影が見えた。


「国際警察の、ジェーン・本田よ! 武器を捨てなさい!」

「チッ、サツがおったか! ツイとらんのう」


 奥にいたアンナの知り合いは、国際警察の刑事であったようだ。銃を構え、犯人に少しずつ近づいていく。


「さあ、捨てなさい!」


 犯人は周囲を見渡し、ウェートレスをグイッと引き寄せた。


「近寄んなコラ! ちいとでも動いてみろ? コイツの命は無え!」

「ひゃぁぁぁ」


 人質に取られたのは、アンナの妹、クロエだった。


「クロエ! こんのぉ」バチィ


 奥から戻ったアンナはこの状況にブチ切れている。電撃系の魔法を使おうとしている。


「おっとぉ、動いたらアカンよ」


 もう一人の男がアンナの背後に回った。


「うほぉ、ええチチしとるやんけ」

「イヤ! 止めで」


 アンナの胸元を覗き込んでいる犯人。


「よし、コッチに連れてこいや」


 店の中央に犯人二人がウェートレス二人を人質に取った。


「ジェーン、助げでくんろ」

「クロエ、しっかりするだ」


 静流は机の下で勾玉を握り、いつでも変身出来るように構えた。


「落ち着きなさい、要求は何? お金?」

「せや、有り金全部、持って来るんや」


「ジョン、言う通りにして!」 


 ジェーンは厨房の店主に金を持ってくるように指示した。

 それと同時に、ジェーンはアンナにアイコンタクトを取った。


「そら、金だぁ、娘たちを放すだ!」


 店主がお金が入ったバッグを放り投げた。

 犯人がバッグを拾おうとして姿勢が崩れた隙にアンナが動いた。


「くっ! しまった!」

「このっ! 小娘がぁ!」バァン!

 

 アンナの咄嗟の行動に驚いた犯人は、アンナに発砲した。



「きゃぁぁぁ!」



 耳をふさぎ、目を固く閉ざしたクロエが数秒後に見た光景は、


「ふう。間に合った」シュゥゥゥ


 刀を横薙ぎに振り下ろしたダッシュ1の静流だった。


「な、何じゃあ、ワレ!?」

「し、静流、様?」


 静流はアンナの前に立ち、銃弾を真っ二つに斬ったのだ。


「あ! サムライレンジャーだ!」

「こら! ジム」


 先ほどの子供が立ち上がってそう叫んだ。あわてて母親が抑え込んでいる。


「今どきサムライか? 次は無えぞ?」

「クク。果たして、そうかな?」

「何がおかしい! このぉ、あり?」バララ

「くそぉ、あれ」バララ 

 

 それぞれが構えた銃が、輪切りになって床に落ちた。


「行くぞ! 成敗!」シュ


 恐らく「疾風怒濤」のカードをあらかじめセットしておいたのだろう。


 ゴン「はひぃ」バタッ

 ゴン「ふへぇ」バタッ


 目にも止まらぬ速さで、犯人を峰打ちにし、無効化する。


「安心しろ、峰打ちだ」


 刀を鞘にしまい、変身を解く静流。


「ふう。正直ヒヤヒヤものだったよ」シュン

「静流様!」

「やあ! アンナ、大丈夫かい?」


 アンナは静流に駆け寄り、力いっぱい抱きしめた。


「静流様、ありがとう!」むぎゅ

「むぐぅ、苦しい」


 アンナは静流を剛腕でがっちり掴み、豊満なバストを静流の顔に押し付ける。


「姉ね、その方は、どなただすか?」


 クロエはアンナに抱かれ、顔が青くなっている静流を指さした。


「この人が静流様だぁ。アンタも読んだ事あるっぺよ」

「ホントだ、よく見るとアノ本に出て来る人にそっくりだべ」

「この方が本物なのさ。カッコイイべ?」




              ◆ ◆ ◆ ◆




 ノビている犯人たちは、ジェーンが呼んだパトカーに連行されている。


「いやぁ、お手柄でしたね、ジェーンさん」

「何言ってるの? アナタが救ったんでしょう?」ボソ

「すいません、そういう事にしておいて下さい。お願いします」ボソ

「どうやら、一つ借りが出来たようね?」

「さあ、何の事やら」

「私は署まで同行するから。じゃあね、アンナ」

「ありがとうね、ジェーン」


 静流はココであった事をジェーンの手柄にしたいらしい。


「ロスに来る事があったらここに来なさい。何か奢るわ」パチッ

 そう言うとジェーンは静流に名刺を渡し、ウィンクをして出て行った。




              ◆ ◆ ◆ ◆



「静流様ぁ。どうしてここにぃ?」

「いやね。この間学園の『ドラゴン寮』に軍の人と調査に行ったんだけど、アンナは国に帰ってるって聞いてね。昼ご飯食べに来ちゃった」

「昼?そっかぁ、時差があるもんな。そんただ事だけで、来たのけ?」

「今は、【転移】よりも便利な魔法が使えるんでね。一瞬だよ」

「うはぁ、エエなぁ」


 静流とアンナが話していると、奥から店主とおかみさんが出て来た。


「どうもぉ、お騒がせしましただ。店主のジョンですだ」

「娘を助げで頂ぎ、ありがとうごぜえますだ。」

「いえいえ、物が壊れなくて、本当によかったですね」

「ほれ、おめえもお礼、言うだ」


 店主の後ろに隠れているクロエを、グイと前に突き出す店主


「あ、あの、助げで頂いで、ありがとうごぜえますた」ぺこり


 クロエは耳まで真っ赤になって、深々と頭を下げた。


「妹さんだね? 僕にも妹がいてね。おい、美千留」

「何? しず兄」

「アナタが美千留ちゃん!? なんてカワイイんだべなぁ」


 クロエより先にアンナが飛び付いた。


「これも何かの縁だ。仲良くしてもらえ」

「今日のしず兄、何かえらそう」


 和気あいあいとやっているのを横目に、頬杖を突いてつまらなそうにしている真琴。

 隣には3つ目のパフェに取り掛かっているブラムがいる。


「よく食べるわね。太らない?

「全然。足りないくらいだもん」


 先ほどの少年がタタタとこちらに掛けて来た。 


「お兄さんて、サムライレンジャーなのけ?」

「そうだよ。でも、秘密なんだ。キミも守れるかな? 秘密」

「うん。絶対言わねえだ。でも条件があるだ」

「条件? 何かな?」

「一緒に写真、撮ってけろ?」

「わかった。ちょっとだけ、だよ?」



「よし!行くよ!『念力招来』!!」ゴゥ



 静流は首に提げた勾玉を握り、変身のキーワードを唱える。

 静流の身体を桃色のオーラが覆い、バチバチとプラズマ現象が起こる。

 ダッシュ1に変身が完了した。


「わぁぁ! やっぱりサムライレンジャーだべ!」

「じゃあ、写真、撮ろうか?」


 少年の父親が写真を撮る。


「ありがとうごぜえますだ」

「キミ、約束、守ってよ?」

「でえじょうぶだ、オラ、口はかてぇから」


 満足した少年と両親は帰って行った。静流が変身を解こうとした時、


「あのぉ、わだすもイイ、だすかぁ?」


 クロエはモジモジしながら静流に写真をおねだりした。


「イイよ。どのポーズで撮る?」

「あのぉ、『お姫様抱っこ』して欲しい、だす」カァァ


 クロエは勇気を振り絞ってそう言った。


「よし、ちょっと失礼」ふぁさっ

「きゃん」


 静流に『お姫様抱っこ』されたクロエは、肌が紅潮し、メロメロになっている。


「やんだ、わだすったら、こんただ事、初めてだぁ……」

「あ、クロエ! わだすもまだやってもらってないのに! ズルかぁ」


 アンナが羨ましがって静流の周りをクルクル回っている。


「ちょっと、早く撮ってくれないかな? ちょっと恥ずかしいから」


 なぜか美千留がカメラ役を自ら志願した。


「はい、こっち見て、クロエ、表情硬いよ? はいチーズ!」パシャ


 やっと撮り終わってほっとする静流。すると、


「次、わだすね?」


 アンナは当然のように抱っこをせがんで来る。


「アンナは、前に撮ったよね? 軍の施設で」

「イイの。はい抱っこ」パッ

「しょうがないなぁ、ほれ」ふぁさっ


 静流は仕方なくアンナを抱っこした。


「美千留ちゃん、お願ぁい」

「はい、チーズ!」パシャ


 アンナはチャンスとばかりに静流の頬にキスをした。


「あ、こら、アンナ!」

「へへ。このぐらい差を着けとかないとね」

「姉ね、ズルかぁ!」


 じゃれ合っているウェートレス姿の二人をあたたかく見守りながら、静流は変身を解こうとするが、


「次、あたし。ほったらかした罰」

「その次、私」

「ウチは?その次でイイや」


 暫く撮影ショーが続いた。

 アンナに真琴やブラムを紹介し、主人の計らいで飲み物をご馳走になった静流たち。


「ふう。ご馳走様」

「ねえ、泊っていぐ? 今なら親公認だがらぁ」

「そう言う事言わないの。大体キミは男子には興味無かったでしょ?」

「静流様は、別腹だもんでなぁ。フフフ」


 アンナとくだらない話をしていると、クロエがモジモジしながら言った。


「まだ来てくんろ。静流様ぁ」ポォォ

「うん。また来るよ。今度はヨーコたちも連れて来るか。お店も繁盛するしね?」



              ◆ ◆ ◆ ◆



 静流は満足げに自宅に帰って来た。


「いやぁ、ちょっとした冒険、だったね?」

「何さ、自分ばっかり楽しんで。鼻の下、伸ばしっぱなしだったよ?」


 真琴は終始つまらなそうだった。


「うぇ? そうだった?」

「しず兄のスケベ大王」

「何だよ大王って」


「あー美味しかった」


 全てを平らげたブラムは、お腹をさすりながらそう言った。


「ブラム、僕のハンバーグ、食べたでしょ?」

「残すのは、良くないよ、シズル様」

「違う! 後にとっておいたの!」




              ◆ ◆ ◆ ◆



 それから数か月後――


「ねえねえ静流? これ見てよ!」

「何だよ真琴、ん?何じゃこりゃ」

 真琴が見つけて来た記事は、こんなものだった。



 <ムタ州が生んだ超人気ファミレス>

 <サムライガールズレストラン 『ジョニーズ』>

 <サムライ旋風到来! チェーン店増加中!!>



 店の前で甲冑を身に着けたギャルたちがズラッと並び、中央にあの店主が満面の笑顔でポーズをとっている。


「あれ? この紺色のサムライガール、クロエじゃない?」

「ホントだ! カワイイじゃん」

「やってくれたな? アンナの奴」

 

 いつの間にか美千留が来ていた。写真のクロエは紺色の甲冑に眼帯をしている。恐らくダッシュ1を参考にしているのであろう。


「そのうち、日本にも来たりしてね」

「まさか。でもネタがネタだけに、日本でも受けそうだね」

「日本に来たら、私もバイトしようかな?」

「本気か? 美千留?」

「こういうのが好きなんでしょ? しず兄」

「確かに、嫌いじゃない、かも」

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