エピソード31-3

ワタルの塔―― 1階ロビー


 電源室の修復を成功させ、電源を確保した一行は、二階に行く事にした。


「とりあえず、2階に行きましょう!」

「お! このエレベーター、動くぞ」 

「みんな乗って」


 エレベーターに乗る。しかし、8人で乗るには小さかったようだ ビィー


「重量が一杯みたい」

「おい、澪、降りろ、太り過ぎだ」

「な、何言ってるんですか? 私は太ってなんか……」

「肩が凝ると嘆いておったろう?二つのふくらみが重い、とな」

「くっ! 言い返せないのが悔しいわ」


 澪は実際、胸の重さに悩んでいた。


「僕は階段で行くから、乗っててイイよ、ミオ姉」

「俺も階段で行くぜ、静流」


 上官と部下のどうでもイイ争いをよそに、男二人はエレベーターを降り、階段を使う。


「全く、お二人共大人げないですよ? もう」

「面目無い」


 萌は呆れ顔で、上官と先輩をいさめた。


「私は重さ、関係無いんだけどね?」


 薫子Gは誇らしげにポーズを取った。





              ◆ ◆ ◆ ◆




ワタルの塔―― 2階


 エレベーターが二階に着いた。少し間をおいて男共二人が到着した。


「ここが二階だ。入口に認証のスロットみたいのがあったみたいなんだが、何者かに壊されてて、お陰で中に入れた」


 薫はそう言いながら、中に入って行く。


「じゃあ、その認証スロットが正常に動いてたら、ここにも入れなかったって事?」

「そう言う事だ」


 二階の様子は、どうも娯楽室と言ったたぐいの共有スぺースのようだ。中央に半円形のソファーがあり、モニターらしき物が置いてある。

 埃っぽさは無く、電源復帰前の下の階に比べれば綺麗な方であるが、小物類があちこちに散乱している。


「丁度イイから、ここで休憩しましょうか?」


 澪はソファーに腰を下ろし、モニターを操作するリモコンをいじっている。


「文字が読めないな。ブラムさん、お願い」

「ああ、それ? 見る? 驚くわよ?」


 ブラムはニヤつきながら、リモコンを操作する。プチ


 ザー、ザー、パッ


 モニターに電源が入り、画面が一面ブルーになった。次に白い字で何か文字が浮かんだ。


「ビデオ倫理? 成人向け?」

「忍さん、読めるの?」

「昔の記憶があるから、読める」

「何じゃい、『ビデオ倫理』とは?」


 全員がモニターに集中している。海辺でビキニを着けた耳の尖った美女が、胸を弾ませながら砂浜を走りまわっている。


「何ですかね? これ」

「環境映像では無い事は、確かね?」


 次に美女は四つん這いになり、胸を強調する「女豹のポーズ」を取った。


「あの耳、エルフ族だよね? 結構カワイイ……かも」

「「「え!?」」」


 静流の素朴な感想に、一同は静流を見た。


 場面が変わり、美女は部屋のベッドでうつ伏せに寝転んでいる。

 すると、画面の切れ目から二人の男が現れ、美女にすり寄った。

 一人の男が美女の唇を奪い、もう一人の男は美女の太ももに手を掛けた。


「お! おっぱじめやがった!」


 薫がニヤけ顔でそう言った。


〔う、う~ん、イイわ、そこ〕

〔じゅるるるる〕

〔あん、もっと優しくして? お願ぁい〕



 一同は映像にのめり込み、無言で凝視している。中でも隊長は、モニターを食い入るように身を乗り出して見ている。


「文字はわからないけど、言葉はわかるね」

「うわぁ、丸見えじゃないの」

「これって、エロ動画、だよね? 1500年前の?」

「は、だ、ダメ! ブラムさん、止めて下さい!」

「ええ? これからがイイ所なのにぃ」プチ


 澪は我に返り、ブラムに映像を止めさせた。


「なぜ止めた? 澪!」

「当然です隊長! ここには静流クンもいるんですよ? 教育上よくありません!」

「でもなぁ、保健体育の授業みたいなもんだろう? イイんじゃないのか?」


 薫はニヤけ顔で澪にそう言った。


「いけませんったらいけません!」

「なら、静流に教えてやんなよ、澪さんよ?」


 薫はそう澪を煽った。


「わ、私は、そんなつもりで……言ったんじゃ、無いんだから」カァァ


 澪は耳まで赤くなり、沸騰しそうな顔で、だんだん声が小さくなっていく。


「まあまあ薫殿、澪殿をからかうのもその位にしてあげて欲しいのであります」

「クク、悪りィ、口が滑った」


「他にも色々あるんだよ? そう言うのばっかじゃなくて」

「歴史の研究に使えるかもしれないでありますね? 澪殿」

「そ、そうね。当時の生活様式とかがわかるかも知れないわ」


 少し落ち着いた澪。すると薫がみんなに向けて発言した。


「みんな聞いてくれ。この階の仮眠室に、薫子の本体が眠っている」

「ここにいるんですね? お姉様の本体」

「ああ。そこでだ静流、薫子を正気に戻すの、手伝ってくれないか? 頼む!」

「薫さん。はなからそのつもりでしたよ? 僕は」

「恩に着るぜ、良かったな、薫子?」


 薫子の処置を手伝う事を、静流が快く引き受けてくれた事に感謝している薫をほっといて、薫子Gは静流に飛び付いた。 


「ぐわぁぁん、じずるぅ~」ヒシッ

「大丈夫だよお姉様、きっと上手くいくから」


 静流は抱き付いて来た薫子Gを、優しく撫でた。




              ◆ ◆ ◆ ◆




「どうする? 来ちまったもんは、後戻り出来ないぜ? 薫子?」

「私だって、いつまでも幽霊みたいのはごめんよ! 本体に戻って、静流とあんな事やこんな事をしたいから!」

「覚悟は、出来てるんだな?」

「ええ。もちろん」


 薫の問いに、薫子Gは即答した。


「母さんと念話する」


 薫はソファーに腰を下ろし、目を閉じた。


〔母さん、俺だ〕

〔薫? 塔には無事に着いたの?〕

〔ああ。これから、薫子を起こす〕

〔大丈夫なの? 薫〕

〔そこでだ。ここにいる思念体を本体に戻す時、一番確実な方法は無いのか?〕

〔そうね……シズルカに一肌脱いでもらおうかしら〕

〔シズルカに?〕

〔静流には私が話すわ。薫は起こした薫子を押さえ付ける事を考えて頂戴〕

〔わかった〕ブチ


 モモと念話で話した薫は、静流に念話の内容を伝えた。


「シズルカに? わかりました。詳しくは伯母さんに聞きます」


〔伯母さん、薫さんから聞きました〕

〔いい? 静流、よく聞くのよ?〕

〔はい。薫子お姉様の為、ですから〕


 暫く念話が続いた。


〔じゃあね、健闘を祈ってるわ〕

〔最善を、尽くします〕ブチ


 モモとの念話が終わり、静流はふぅっと息を吐いた。


「静流、行けそうか?」

「はい。段取りを確認しましょう。お姉様、ブラム、来てくれる?」

「わかったわ、静流」

「ほーい、只今」


 三人と一体で『薫子救出ミッション』の打合せを行う。


「すいません、このあとうるさくするかも知れませんが、他の方はなるべく仮眠室に近付かないで下さい」

「そう言う事だから、アレの続きでも見ててイイぞ。ククク」

 男二人はそう言うと、奥の方に行ってしまった。 

 

 萌が隊長に聞いた。


「どうします? 続き、見ますか?」

「当然、見るに決まっておる!」

「澪先輩は、見ないんですよね?」

「こ、今後の為に見ておこう、かな?」

「今更、保健体育の授業じゃあるまいに、なあ佳乃?」

「全く、素直じゃないでありますなぁ、澪殿?」

「うるさいなぁ、見ますよ。見ればイイんでしょ?」

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