エピソード24-1

魔導研究所 格納庫――朝


 今日、静流は1か月強続いた海外生活を一旦終わらせ、日本に帰ることとなる。

 静流は先ず、ジェロニモをアスモニア航空基地に返すと同時にムムちゃん先生を連れ、薄木基地

に立ち寄り佳乃を帰還させ、最後は学校に到着し、午後の授業に間に合わせる予定である。


「オシリス、三回分の【転移】に使う魔素、あるかい?」

「あるわよ。あれから毎日『アノ映像』見てるわよね? 飽きないの?」

「それがさ、スゴくリラックス出来るんだよ。DVDにして売れば、イイ線行くんじゃないかなぁ?」


 誰がゾウリムシのチョメチョメ動画でリラックス出来るのだろう。


「ウゲェ、勘弁して」


 そうこうしている間に、少佐たちが来た。


「一旦お別れね? すぐまた会えるけど」

「ちょっと寂しいかも」

「早いとこ『ゲート』作ってよね? 静流クン!」


 少佐、仁奈、リリィはそれぞれの意見を述べた。


「皆さん、大変お世話になりました。 つまらないものですが、これは僕の『気持ち』です」

 静流は、みんなにお礼として『例の物』を渡した。


 ・アマンダにはブルーグレーの勾玉

 ・仁奈にはターコイズブルーの勾玉

 ・リリィにはマゼンタの勾玉

 ・佳乃にはサファリオレンジの勾玉


「うわぁ、キレイ」

「髪の毛の色に合わせて作ってるんだ」

「魔石? かしら」

「自分にも頂けるとは……感激であります!」


 それぞれが感想を述べた。


「魔石に近いですけど、本格的なものじゃないんです。これは、昨日ヨーコに用意してもらったものに、僕がいくつかの『祈り』を付与してあります。代表的なものは『絶対障壁』で、一回だけですがあらゆる攻撃から身を守ってくれます。あとはオマケ程度ですね」


 静流は勾玉を渡した経緯を照れながら説明した。


「皆さんにはお世話になりっぱなしで、何か形に残る物を差し上げようと思いまして」

「『絶対障壁』ですって? そんなのいつの間に習得したの?」

「学園にいるときに、付与魔法の先生に教わりました。僕では一度きりしか使えないんですけどね。あの子たちに渡したのが最初なんです」

「ありがとう。大事にするね」


 仁奈は勾玉をぎゅうっと握り締め、そう言った。


「これって、『シズルカ様のお守り』とかにしたら、売れるかもね?」 


 リリィは、この勾玉に商品価値を見出したようだ。


「リリィ、またそんなこと言って」

「ふむ。いっその事、『シズルカ神社』でも建立するってのはどうかしら?」

「少佐までそんな事言って、もう」


 三人の掛け合いを暖かい眼差しで見ていた静流は、こう言った。


「フフフ、面倒な事にならない範囲でお願いしますよ?」ニパァ



「「「ふぁあうぅぅん」」」



 静流のラストニパに、三人は悶えている。


「くはぁ。安心して、私のは絶対売らないから」

「くぅっ。当たり前でしょ? 私だって売らないわよ!」

「むぅ。この感じもしばらくお預けか……」


 暫しの沈黙のあと、静流は三人に声をかけた。


「それじゃあ、一旦日本に帰ります」

「ご安心下さい! 自分が責任を持って日本にお送りするであります!」

「頼んだよ! 佳乃」

「佳乃、アンタとはまた会えそうな気がするわ」

「先輩方、自分もそう思うのであります!」


 最初の【転移】は、アスモニア航空基地である。


「レヴィに軍事衛星電話しといたよ。0930時到着で」 

「ありがとうございます。じゃあ、行って来ます!」

「いってらっしゃい!」


 お別れも済んだところで、バギーに乗り込む。

 佳乃のたっての希望で、前の座席に佳乃、後ろに静流が乗った。

 ロディはノートに戻し、鞄に入れてある。

 行きに乗ってきた戦闘ヘリのジェロニモは、ロディのインベントリに収納済みである。


「【転移】を肌で味わえるなんて、感激であります!」

「まあ、実際に走行するワケじゃないんで、座ってるだけなんですけどね」

「それでイイのであります!」


 佳乃がキャノピーを閉めた。


「オシリス、魔法陣、展開!」

「オーライ」ブーンッ


 オシリスが魔法陣をバギーの下に展開した。


「少佐、カウントダウン、始めます」

「お願い」

「行きます、10秒前! 9、8、7……」


 仁奈がカウントダウンを始めた。


「5秒前! 4、3、2、1、ゼロ!」


「【転移】!」ブンッ


 静流と佳乃を乗せた小型バギーは、残像を残し、消えた。


「あーあ、行っちゃった」


 リリィは少し寂しそうだった。


「またすぐ会えるわよ」

「でも少佐殿は本気で静流クンを将来、軍に入れるつもりなんですか?」

「ええ。本気よ。現状では軍にいた方が一番安全だと私は思っているわ」



          ◆ ◆ ◆ ◆



アスモニア航空基地――


「さっきのリリィさんから電話だと、あと二分ですね」


 レヴィは時計を見た。そろそろ予定時刻のようだ。


「カウントダウン始めます! 10秒前! 9、8、7……」


 レヴィがカウントダウンを始めた。


「5秒前! 4、3、2、1、ゼロ!」


 ブーンッ

 

 まるで不可視モードを解除した時の様に、上から実体化していく。


 シュゥゥ


 バギーのマフラーから、水蒸気のような煙が少し出た。


「静流様、お疲れ様です!」


 レヴィはバギーに近づいた。すると、パシュウ

 キャノピーが跳ね上がり、運転席には佳乃が座っていた。


「正に一瞬でありました。素晴らしいであります!」


 佳乃はウルウルと目を潤ませ、感動している。


「ホントに時間ピッタリなんですね? 静流様」

「あ、どうもレヴィさん、お疲れ様です」ニパァ


 ヘルメットを脱いで髪を搔き上げ、ニパる静流。


「ムハァ……いつ見ても素敵です」

「ムムちゃん先生は準備出来てますかね?」

「オーイ、五十嵐クーン!」


 少し離れている所から、なにやら荷物を両手に抱え、駆け寄ってくる人影が見えた。


「先生! そんなに急がなくても大丈夫ですよ?」

「ふう、ふう。こんなに荷物が一杯になっちゃったんだけど、大丈夫ぅ?」

「全然問題ないですよ。あ、今から面白いものが見れますよ」


 静流が本をシズムに変身させる。シュッ


「キャッホウ、先生、元気だった?」

「え? あれ? シズムさん? どう言う事?」

「じつはこのシズムは『聖遺物』なんです」

「せ、『聖遺物』って?」

「私は、静流様の『しもべ』です」シュッ 


 ロディはデフォの豹になった。


「うわぁ、スゴい! それに、イイ声」


 先生はうっとりしている。


「先生、驚くのはまだ早いですよ。すいません、あの辺でイイですか?」


 静流はそう言うと、ヘリクルーに声をかけた。


「よし、ロディ、ジェロニモをここに。慎重にね」


「畏まりました。静流様」ベー


 ロディの口からジェロニモが出て来た。シュゥゥッ


「ゲェ!? 一体どうなってんの? 私、まだお酒が抜けてないのかしら?」

「現実ですよ先生。このロディには、『インベントリ』という異空間の収納スペースが装備されてるんです」

「驚かされる事ばかりだわ。レベル3になったらしいけど、それどころじゃない成長ね?」

「へへ。まあそんな感じです」


 静流は照れながら答えた。



          ◆ ◆ ◆ ◆



「レヴィさん、僕の『気持ち』です」

「うぇ? 私に……ですか?」

「お世話になった人にはお渡ししてるんです。」

「お世話だなんて、むしろこちらこそいろいろとお世話になってますのに」


 静流は、レヴィにお礼としてモスグリーンの勾玉を渡した。


「うわぁ、キレイ。この色って、私の髪の毛の色に合わせてくださったんですね?」

「自分も持ってるでありますよ! ほら」


 佳乃は自慢げに自分の勾玉を見せた。


「この勾玉には、僕の『祈り』が込められています。きっと役に立つ時が来ると思いますよ」

「ありがとうございます! 一生大事にします!」

「そんな大袈裟な。フフ」

「レヴィ、自分からはコレを」


 佳乃はA4サイズの箱をレヴィに渡した。


「何ですコレ……ブッ!!」


 中を見たレヴィは、鼻血を出し、大きくのけ反った。


「何をあげたんです? 佳乃さん?」

「『眉目秀麗』と『容姿端麗』の生写真とか諸々であります」

「あれか。黒歴史にならなきゃイイんだけど」

「さ、最高……です!」


 レヴィは親指を立ててグッジョブのポーズをとった。


「静流様!」


 と次はフジ子さんが駆け寄って来た。


「あ、フジ子さん、丁度良かった。差し上げたいものがあるんですよ」

「まぁ、私に? 何でしょう?」

「さっきレヴィさんにも渡したんですけど、これです」


 フジ子には、髪の色と同じ、マホガニーと呼ぶ赤褐色の勾玉だった。


「素敵。大事にします」

「あと、これを司令に渡しておいてください」


 静流は司令にも用意していた。色はちなみに群青色であり、司令用に【スタミナ上昇】を付与しておいた。


「わかりました。必ずお渡しします!」



          ◆ ◆ ◆ ◆



「この後の予定が一杯なので、今日はこれで失礼します」

「うぇ? もう行っちゃうんですか? 静流様ぁ」

「近いうちにまた来ますよ。もうすぐ夏休みですし」

「約束ですからね?」

「わかりました。約束します」


 レヴィは口をとんがらせて拗ねているが、しぶしぶ納得したようだ。


「佳乃さん、薄木の座標ってどの辺りにセットすればイイんですか?」

「そうでありますね。ウチの格納庫は第7でありますので、そこでイイと思うであります」


 佳乃は軍事衛星電話を掛けた。


〔あーお疲れ様であります、隊長〕

〔佳乃か? 貴様ぁ、どこにいるのだ!? 一体いつ戻って来るのだ!?〕

〔今、アスモニア航空基地で、あと30分位でそちらに戻るであります〕

〔は? 何寝ぼけた事言ってるのだ? アスモニア航空基地からじゃどうやっても6、7時間はかかるだろうに〕

〔まあ、イイですから、1030時に着く予定でありますゆえ、今から送る座標の半径10mは何も置かないで欲しいであります〕

〔座標? ってコレ第7格納庫だろうが! まあ、何も無いから構わんが〕 

〔時に隊長、澪殿は今、どこにいるのでありますか?〕

〔澪の奴なら注文した部品を取りに行くとか言ってたな〕

〔ナイスタイミングであります! 隊長、この事は口外禁止でお願いするであります〕

〔ん? よくわからんが、わかった〕

〔では、失礼するであります!〕ブチ


 佳乃は顔を緩ませ、何か企んでいるようだ。

(ククク、『澪殿ドッキリ計画』、開始であります!)


「ムムちゃん先生は、このキャンピングカーに乗っててもらいます」

「これに乗ればイイのね?」

「ロディ、収納後、本に戻ってくれ」

「畏まりました、静流様」


 ロディはキャンピングカーを飲み込むと、本に戻った。


「オシリス殿、薄木基地の第7倉庫でお願いするであります。座標を送るであります」

「来た。オッケーよ? 静流」


 先ほど同様、佳乃が前に乗った。

 佳乃がキャノピーを閉めた。


「オシリス、魔法陣、展開!」


「オーライ」ブーンッ


 オシリスが魔法陣をバギーの下に展開した。


「静流様、カウントダウン、始めるであります」


「お願いします」


「行きます、10秒前! 9、8、7……」


 佳乃がカウントダウンを始めた。


「5秒前! 4、3、2、1、ゼロ!」



「【転移】!」ブンッ



 静流と佳乃を乗せた小型バギーは、残像を残し、消えた。


「ゲ! しまったぁ、『おまじない』するの忘れたぁ」


 レヴィは前回フジ子がやったおまじないのキスをするつもりだったらしい。

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