エピソード24-2

統合軍 極東支部 薄木航空基地 第7格納庫――


 神奈川県薄木市に位置する、薄木航空基地。

 巨大な滑走路を持ち、関東から中部辺りまでの防衛を担う。

 広大な面積には住居は勿論、各学校やデパート、はたまたゴルフ場まで完備されている。

 その滑走路の片隅にある第7格納庫、そこには今、一人の兵士がいた。


「うー、何でアタシがこんな事を……。澪先輩はいないし、ミキマキも出張だし」


 朝霧萌兵長は、桃色のツインテールにした髪をうっとおしそうに跳ね上げ、

 段ボール箱を片付けている。格納庫の中心に、半径10mの円をパイロンで囲んである。


「隊長めぇ、何が『極秘任務だ!』よ。全くもう」

 言葉使いは少々荒いが、仕事は出来るようだ。


「ふう。こんなもんかな。ったくぅ、佳乃先輩は一体いつになったら帰ってくるのかしら?」


 萌はため息をつき、壁際のデスクに座った。


「隊長はたしか1030時に何か来るって言ってたわね? あと1分じゃない」


 萌は時計を見た。


「ま、どうせつまんないもんが届くってオチよね」


 ひと仕事終えた萌は、給湯室に行こうと席を立った。その時、



 ブーンッ!

 

 まるで不可視モードを解除した時の様に、上から何かが実体化していく。


「な、何なの!? これ」


 シュゥゥ


 小型バギーのマフラーから、水蒸気のような煙が少し出ている。


 バシュゥ!


 キャノピーが跳ね上がった。運転席には佳乃が座っていた。


「あ、萌殿! 只今帰ったであります!」


 佳乃は萌に手を振り、座席から降りる。


「佳乃……先輩!?」


「ひと月ぶりでありましたか。実に内容の濃いひと月でありました」


「何事ですか? って後ろに誰か……はっ!」


 萌は佳乃の後ろに誰かいるのを確認し、驚愕した。


「ど、どうもこんにちは。五十嵐静流……です」


 ヘルメットを脱いで髪を搔き上げ、緊張しながら名乗る静流。


「静流って、ほ、本物……なの?」

「萌殿? 驚いたでありますか? 正真正銘、本物の静流様であります!」

「あ、あなたのその髪の色、まさか」


 静流はつかつかと萌に近づいていく。


「な、何よ」


「同族じゃぁ~!!」


 静流は興奮して萌の両手を握り、ブンブンと振り回す。


「わ、わ、何なの、この子」


 萌は目を回しながら言った。


「静流様、残念ですが、萌殿は同族ではないのであります」

「え? そうなんですか? だって髪の色が……」

「これは……ファッションよ」

(触られちゃった……男の子にさわられちゃった)


 萌は、プラチナブロンドの髪を桃色に染めていた。


「す、すいません! てっきり『同族』だって思ったもので」シュン


 静流は萌にぺこぺこと頭を下げ、謝った。


「萌殿は、静流様のファンなのでありますよ」

「ち、ちょっと! 佳乃先輩!」


 佳乃はニヤニヤしながら萌をいじった。


「ああ、そっちのですか。だとしたらハズレですよ?」

「ハズレって静流様、本物は間違いなく……」

「僕にファンなんかいませんよ。大体アレは二次創作ですから」

「先輩、この子、大丈夫?」

「静流様は『薄っぺらい本』が苦手なのであります」

「え? そうなの?」

「アレは本人の許可なく勝手に作っているのであります。自分もお会いしてわかりました」

「何か複雑な事情がありそうね。そういう事だったら、許してあげてもイイわよ?」

「すいませんでした。嬉しかったんで、つい」ニパ



「ひゃいぃぃん」


 萌は、初ニパを食らい、のけ反った。


「よ、佳乃先輩、この子って、やっぱり……」

「そうであります。この方こそ、静流様なのであります!」

「くぅっ、想像とは違うベクトルのスゴさね」


 萌は顎に手をやり、ブツブツとつぶやいている。


(ちょっと面倒なひとみたいだな。タカビー? ツンデレかな?)

 静流は萌をそう分析した。そうこうしているうちに、


 キー、カシャン


 格納庫の入り口付近で、自転車のブレーキ音とスタンドを立てた音がした。

 静流が振り向くと、そこには紫の長い髪をした、グラマーな女性軍人がいた。


「あ! ミオ姉だ! おーい!」 


 静流の呼びかけに気付いた女性軍人は、手に持っていた荷物を落としてしまった。バサッ

 しばらくフリーズしたのち、再起動したのか猛スピードで駆け寄ってくる。ドドドド


「あのちょっとドンクサい感じ……やっぱりミオ姉だ!」


 静流の前で急ブレーキを掛けた澪。キキィッ


「本当に、静流クン……なの?」ハアハア


 息を切らしながら、澪はそう聞いた。


「僕がミオ姉の事わかるんだから、本物って事でしょ?」ニパァァ


 久しぶりの再会に、渾身のニパを浮かべる静流。



「ふぁうぅぅぅん」



 澪は大きくのけ反った。


「この波動……間違いない。静流クンだ」


 澪は久しぶりのハニカミフラッシュを浴び、本物であると確信した。


「ホントに久しぶりだよね? 軍に入ってたなんて、ちょっと驚いた」


「色々あったのよ。それよりも……佳乃?」ゴゴゴゴ


 きゅっと佳乃の方に向いた澪。周りの温度が急に下がったような錯覚を覚えた。


「や、やあ澪殿、ただいまであります」

「帰って来るって、何で報告しなかったの!? 第一種戦闘配備並みの重要事項よ!」

「サプライズでありますよ。その方が喜びも倍増かな……と」

「だまらっしゃい!」フーフー


 澪は癇癪を起した。


「ま、まあ元気そうで何よりだよ」


 佳乃に食って掛かっている澪を見て、静流が引きながらそう答えた。


「ち、違うの! 佳乃ったらいつもいつも私の事を……もうバカ」


 コツコツと軍靴を鳴らして、女性将校が近づいて来る。


「何やら、騒がしいな! 諸君」


「「「隊長!」」」


 隊長と呼ばれた背の低い女性将校は、ニッと白い歯を覗かせ、腰に手をやっている。


「色々と報告してもらうぞ? 佳乃?」

「は! 了解しましたであります!」

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