エピソード23-3

魔導研究所 格納庫――


「さっき佳乃から電話で0930時に戻って来るって言ってたわよね?」

「そろそろね?」


 少佐たちは頃合いになったので格納庫に行き、計器の確認や撮影の準備を始めた。


「リリィ、今何時?」


「一分前です少佐殿」


「さぁて、そろそろかな?」


「いくわよ。10秒前! 9、8、7……」


 レヴィがカウントダウンを始めた。


「5秒前! 4、3、2、1、ゼロ!」


 ブーンッ

 

 まるで不可視モードを解除した時の様に、上から実体化していく。


 シュゥゥ


 バギーのマフラーから、水蒸気のような煙が少し出た。


 パシュウ


 キャノピーが跳ね上がり、ヘルメットを被った静流が現れた。


「仁奈さん、只今帰りました!」


 ヘルメットを脱いで髪を搔き上げる静流。


「お帰りなさい、静流クン」

「静流クーン、お帰りぃ」

「09:30時。誤差無しね」


 リリイと少佐がそれぞれ感想を述べた。


「あ、アマンダさん、ゲストを連れて来ましたよ」

「ああ、学園の生徒さんね」

「ロディ、車出して。丁重にね」

「畏まりました。静流様」


 ロディは、ポシェットからググイっとキャンピングカーを取り出した。 ズゥン


「只今帰りましたであります」パシュ


 ドアから佳乃が出て来た。次に、


「アンナ・ミラーズでぇす」

「ヨーコ・ミナトノです」

「ナギサ・キャタピラですわ」

「サラ・リーマン……です」


 学園の四人が挨拶しながら出てきた。そして、


「久しぶりね、アマンダ」

「ね、姉さん!?」

「何、ハトが豆鉄砲食らったような顔、してるのよ?」

「私、今そんな顔してる?」

「しかしスゴいわね? 【転移】もさることながら、『インベントリ』も」

「そうなの! 素晴らしい発見だったわ。彼のお陰よ」

「アナタの事だから、これだけで満足、してないわよね?」

「当然よ。構想は常に練っているわ」

「アナタ、静流クンをどうするつもり?」バチ

「どうするって、魔導の発展に貢献してもらうわよ? これからも」バチバチ

「軍に引き込むつもりなの? アマンダ」バチバチィ

「別に研究さえ出来ればどこだってイイのよ、私は」バチバチィ


 一触即発な二人。


「まあまあ、久しぶりに会ったのにこれじゃあ、寂し過ぎますぜ、お二方」


 リリイが何とか場を収めようとしている。


「女子高生がおるって? ココかぇ?」


 春山所長が興奮気味に駆け寄って来た。


「あ、所長。僕が学園にいた時の友達です」

「むほぉ。若い。ピチピチしとる! ん?そこにいるのは……シズムちゃんではないか!」


 所長の興奮度がMAXに近づいた時、


「はいお終い。帰って仕事しますよ」


 所員が二人がかりで連れていく。


「何をするんじゃ! 放せ!」ジタバタ

「所長は置いといてイイわ。それより静流クン、一服したら始めるわよ!」 

「はい。お願いします」



          ◆ ◆ ◆ ◆



 静流は、完成した設定資料集をサラから受け取り、内容を確認し始めた。


「よし、中を拝見。うわ、いきなり何だよ、これは?」


 『側室でも恋がしたい』

 『床上手の五十嵐さん』

 『この中にドスケベ妹がいます』


「チラシの裏って言っても『聖遺物』なんだからね? 落書き帳じゃないんだよ?」

「ふぇぇ、すいません。次の頁です」

「ん? これだよ、これこれ。うん、ドンピシャだよ!」


 次の頁には、注文通りの「サムライアーマー」についての詳細な設定資料があった」


「本当ですか? 嬉しい……です」


 サラは恍惚の表情を浮かべている。


「作画もさることながら、この設定資料もイイね。見直したよ、サラ」

「それだけじゃないんですよ。はいコレ」


 サラはカードゲームに使うトレーディングカードを、今回の為にサムライアーマーのバージョンを用意していた。


「す、すごいよサラ! ここまで仕上がっていたとは思ってなかったよ」

「これをモードチェンジと技発動に使って欲しいんです」

「なるほど。その手があったか! ますます気に入った!」

「はぁぁ、もっと褒めて……下さい」


 サラの事はそっちのけで、静流はワクワクしながら資料に目を通している。


「よし、スキャンするよ。ロディ、本に戻って」

「かしこまりました。静流殿」ポンッ


 濃灰豹がノートに戻った。


「ちょっと試してみるか【スキャン】」ベー


 ノートからレーザー光線が出て、開いたところの部分を凄い速さでスキャンしている。


「よし、【ダウンロード】ポゥ」


 静流の目が緑色に変わり、物凄い速さで内容を吸い上げる。


「ページが少ない分、速く取り込めるな」

「それって、ダメ出しですか?」しゅん

「さて、【コンバート】するから、依り代はと……」


 静流は今回の『サムライアーマー計画』に使う依り代を、思いつくままにあらかじめかき集めていた。

 と、そこに佳乃が箱を持って現れた。


「静流様! 間に合って良かったであります!」

「どうしたんです? 佳乃さん?」

「これは、自分からのプレゼントであります!」


 そう言って佳乃は静流に箱を渡した。


「うひゃあ、コレって、『無免ライダー変身ベルト』じゃないですか? しかもレアな『アマゾン』ですよね?」


確か「アマゾン」は、ベルトではなく、「腕輪」で変身する設定、だったような。


「コンバートの際に依り代として使って欲しいのであります」

「佳乃さん、これって結構レア物ですよ? 貴重品じゃないですか?」

「大丈夫でありますよ。自分は、遊ぶ用と保存用の2セット持っているでありますから。コレは遊ぶ用でありますので」

「イイんですか? 嬉しいな。佳乃さんに『借り』が出来ましたね?」

「埋め合わせは、いつかお願いするでありますね」

「もちろん、期待してて下さい」ニパァ

「ムハァ。勿体なきお言葉」


 コンバート時の依り代として用意したものは、


  ・軍から支給された中古のボディアーマー

  ・アメフト部のプロテクター、ヘルメット

  ・佳乃から提供された「無免ライダー変身ベルト」

  ・サラの用意したトレーディングカードのデッキケース

  ・キーアイテムとなる、静流用のピンクの勾玉


 であった。


「ロディ、成功率は?」

「86%です。静流様」

「よし、行くよ! 【コンバート】ポゥ」


 すると、装備品一式が緑色のオーラに包まれ、やがて形が変わった。 

 みるみる小さくなり、最後に勾玉だけが残った。シュゥゥ


「成功したのでありますか? 静流様?」

「どうかな? とりあえず、戦闘訓練とか出来ないかな?」


 静流は、技術少佐に交渉してみた。


「アマンダさん、『サムライアーマー計画』、【コンバート】完了です!」

「そうなの? で、成功したの?」

「一応。変身したりとかはまだなんですけど、これから『戦闘訓練』のようなものが出来ないかな? と思いまして」

「わかったわ。『模擬戦闘用ゴーレム』を使って、実戦訓練、やるわよ?」

「お願いします!」



          ◆ ◆ ◆ ◆



魔導研究所 闘技場――

 

 静流のオーダーに応え、技術少佐は『模擬戦闘用ゴーレム』を200体用意した。


「とりあえずこの位用意すればイイかしら?」

「げ、十分過ぎる位です」


 闘技場に、学園四人衆と先生が、ゲストとして事を見守る。


「静流さまぁー、頑張ってぇ!」

「静流様は闘いを好む方ではないのに……」

「でも、『ヒ-ロー』には憧れていましたよ?」

「静流様は実質的にヒ-ローですもの」

「あの『聖遺物』で何かやろうっていうのね? 楽しみだわ」


 それぞれが想ったことを述べた。


「大丈夫であります。静流様はスゴいんでありますから」


 佳乃は自慢げにそう言った。


「皆さんが静流クンのお友達と、先生なのね?」


 仁奈は学園四人衆と先生に声を掛けた。


「お噂には聞いていましたが、これはなかなかの強者揃いですね」


 ヨーコは女性軍人たちを見て、そうつぶやいた。


「まあまあ、あたしらだって、静流クンの成長を見守るくらい、イイでしょ?」


 リリイは、重い空気になりそうだと察し、逃げを打った。


「勿論です。静流様は『博愛主義者』ですので」

「『朴念仁』とも言うわね」


 ヨーコの返しにカチュア先生が追い打ちをかけた。


「ま、『難攻不落』なのは確かだわ。ハハハ」

「お互い苦労するわね? まあ、大概のモブたちは彼を『動物園のパンダ』に近い目で見ているから」

「確かに。ただなぁ、こうして直接会っちゃうと、ねぇ?」



「「「「同感! 」」」」



 みんな想いはそれぞれ、であった。

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