エピソード23-2

魔導研究所 格納庫――朝


 次の日、静流はヨーコたちを迎えに行く準備を始めていた。


「えーと、あとは魔素の量は足りる? オシリス」

「充分あるわよ。往復5回分」

「じゃあ、佳乃さん、手はず通りお願いしますね」

「了解であります!」


 今回は、ロディのインベントリ内で例のキャンピングカーに佳乃を待機させ、学園に到着後、みんなをキャンピングカーに乗せ、基地に転移する計画である。


「では、転移実験を10分後の09:00時に行います」


 少佐が指揮をとってくれている。


「ロディ、夕べ【トレース】してもらった、あの姿になってくれない?」

「畏まりました。静流様」シュウゥ


 ロディは見慣れた少女の姿に変わった。


「良し、行こう」


 パシュウ 少佐が座席のキャノピーを跳ね上げる。

 静流はヘルメットを着け、シートベルトを締める。


「魔素確認。オシリス、座標は確認出来た?」

「オッケー。いつでもイケるわよ」

「リリィ、時間は?」

「二分前です!」


 静流がキャノピーを閉めた。


「オシリス、魔法陣、展開!」

「オーライ」ブーンッ


 オシリスが魔法陣をバギーの下に展開した。


「カウントダウン始めます! 10秒前! 9、8、7……」


 リリィがカウントダウンを始めた。


「5秒前! 4、3、2、1、ゼロ!」


 「【転移】!」ブンッ

 

 静流とロディを乗せた小型バギーは、残像を残し、消えた。



          ◆ ◆ ◆ ◆



聖アスモニア修道魔導学園―― 正門


「静流様ったら、ホントに9時ジャストに来るのかなぁ?」 

「アンナ、静流様が信じられないの?」

「そう言うわけじゃないけど、この目で見てみないと、ねぇ?」


 正門でヨーコとアンナが話している。


「もうすぐ9時になるわよ?二人共」


 ナギサが時計を見て言った。


「えと、忘れ物、ないよね」


 サラは持ち物を確認している。


「そろそろ時間よ!10秒前! 9、8、7……」


 ナギサがカウントダウンを始めた。


「5秒前! 4、3、2、1、ゼロ!」


 ブーンッ

 

 まるで不可視モードを解除した時の様に、上から実体化していく。


 シュゥゥ


 バギーのマフラーから、水蒸気のような煙が少し出た。


「静流……様?」


 ヨーコはバギーを覗き込む。すると、パシュウ

 キャノピーが上に跳ね上がり、ヘルメットを被った静流が現れた。


「あ、ヨーコ! おはよう!」


 ヘルメットを脱いで髪を搔き上げる静流。


「静流様! お会いしたかった……です」


 ヨーコは、他の連中とほぼ同じリアクションをとった。


「おはようナギサ、時間は?」


「静流様! 09:00時、ジャストよ!」


「誤差無し! よし。成功だ!」


 バギーから降りると、後ろからもう一人降りてきた。


「シズム!? 何でアナタが?」


 三人は静流とシズムを交互に見て、驚愕している。


「キャッホウ、みんな。元気だった?」


 ロディはシズムの声で返事をした。


「声もシズムだわ。一体誰が変装してるのかしら? 【鑑定】」

 

 ナギサは鑑定を使った。


「ん? アナタ、人間じゃないわね? 魔物?」

「惜しいけど、これは『聖遺物』なんだよ」


「「「『聖遺物』? 」」」


 三人の頭上に???マークが浮かんでいた。


「いいかい? とりあえず簡単に説明するけど……」

「ちょっと待って下さい! 離れなさい、アンナ」

「イイじゃないヨーコ、アンタこそ離れなさいよ!」


 静流の右腕を抱きしめているアンナを、左腕を抱きしめているヨーコが引きはがそうとしている。


「オシリスちゃぁん! 会いたかったわぁ」ギュウ


 ナギサはオシリスに頬をスリスリしている。


「こぉら、ナギサ、やめなさいって、もう」


 静流はポンと手を打ち、仕切り直す。


「さて、じゃあ説明するよ」


 静流は先日アスガルドでレッドドラゴンを討伐した事、その際にドロップしたアイテムがある事を説明した。


「静流様、ここを出て数日でドラゴン討伐って、凄まじいですね。」

「いろいろあってね。おまけに転移魔法まで覚えちゃった」

「さらっとスゴい事言うのね? じゃあ、いつでも会えるって事?」

「まあそんなトコ。結構便利でしょ?」

「静流様。こうしてまた会えた。嬉しいです」

「数日ぶりじゃないか、大袈裟だなぁ、ヨーコは」

「軍の施設で何をなさっていたんですの?」


 ナギサはオシリスをスリスリしながら訪ねた。


「色々検査とか実験だよ。基地には佳乃さんや仁奈さん、あとリリィさんとかにお世話になってるよ」

「むぅ、知らない女子ばかりが増えてます、静流様?」

「そんなんじゃないって、歳だって4、5歳年上だし」

「ほんと、鈍チンなんだもんなぁ、静流様は」

「あ、軍にカチュア先生の妹さんがいてね、色々お世話になってるんだ」

「あの先生の妹さん? 危険だわ」

「いやいや、そんなんじゃないから。なんたって100歳以上離れてるからね。ひ孫とかのレベルだし」

「あら、気を付けた方が良くってよ? 静流クン?」


 いつの間にか正門にカチュア先生が立っていた。


「これが真の姿なのね? 素敵」

「先生、からかわないでくださいよ、アマンダさんみたいなこと言ってるし」

「そうよ! アナタ、アマンダに何かされなかった?」

「いえ、アマンダさんは僕の相談役ですから」

「まあ、何て事? 妹に先を越されるとは……」ブツブツ


 カチュア先生はブツブツ言っている。


「コホン、本題に入るね? この『聖遺物』は、『チラウラノート』っていうらしいんだ」

「『チラウラ』って何?」

「『そんなどうでもイイ事は、チラシの裏に書け』って時に使ってたみたい」

「古代人もそう言う事言うんだ」


 アンナは最もな感想をつぶやいた。


「それで、サラ、例の物、仕上がってる?」


「は、はい! もうバッチリです!」

「それを聞いて安心したよ。じゃあ、先ずは基地に行こう!」

「どうやって行くんです? 静流様?」

「こうやって、だよ。ロディ、車出して」 

「畏まりました。静流様」


 ロディと呼ばれたシズム似の女の子は、ポシェットからググイっと大きなものを取り出した。 ズズゥン


「こりゃあたまげた」

 

 アンナはどこの出身なのだろう?


「うっかりしてたけど、私たちっていつ日本語マスターしたのかしら?」


 学園内は各国から来ている生徒の為、翻訳システムがあったが、学園の外では無効となる筈である。


「あ、言い忘れてた。キミたちにあげた勾玉、あれに【翻訳】の機能を付与しといたんだった」

「そうだったんですか。全然違和感なかったですよ?」

「へへ。成功だったんだ。アレ作るの大変だったんだから」

「他の機能は例によって、内緒なんですか?」

「フフ。その方が面白いでしょ?」


 取り出したキャンピングカーから、佳乃が出て来た。


「皆さんお揃いでありますか? 静流様」

「うん。あ、そうだ。カチュア先生?」

「何かしら?」

「これからアスガルド駐屯地に転移魔法で行くんですけど、ご一緒にいかがですか?」

「【転移】ですって!? 行くわ。行かせて頂戴!」

「決まりですね? じゃあ、乗って下さい」

「まあ、紹介は中で出来ますので、どうぞズズズイっと」


 佳乃は先生を含め四人をキャンピングカーに載せた。


「静流様、準備オーケイであります! 軍事衛星電話にて少佐殿に連絡済であります!」

「よし、ロディ、収納」

「畏まりました。静流様」


 ロディと呼ばれたシズム似の女の子は、キャンピングカーをポシェットに収納した。 シュウゥ


 静流がキャノピーを閉めた。


「オシリス、魔法陣、展開!」

「オーライ」ブーンッ


 オシリスが魔法陣をバギーの下に展開した。


「カウントダウン始めます。 10秒前! 9、8、7……」


 ロディがカウントダウンを始めた。


「5秒前! 4、3、2、1、ゼロ!」


 「【転移】!」ブンッ

 

 静流とロディを乗せた小型バギーは、残像を残し、消えた。



インベントリ内―― キャンピングカー


 佳乃と学園の四人は、キャンピングカーの中にいた。


「うわ。どーなってんの? これ? 息は出来るみたいだけど」

「何にも無いじゃない? どう言う仕組み?」

「はぅぅ。少し怖いです」

「つまり、異次元空間よね? ココは」

「さすがは技術少佐殿の姉上。正解であります!」


 それぞれがインベントリ内の感想を述べた。


「申し遅れました! 統合軍極東支部特殊部隊ブラッディシスターズ所属、村雨佳乃伍長であります!」

「あの時の軍人さんよね? アンナ・ミラーズでぇす」

「アナタ、静流様とのお別れの時に迎えに来た方ですよね? ヨーコ・ミナトノですけど」

「どうも。そうでありますね。それから自分はずっと静流様とご一緒させてもらっているのであります」

「ずうっとって、部屋は別ですわよね? ナギサ・キャタピラです」

「勿論であります。そちらがサラ様でありますね?」

「ふぇ? そうです……けど?」

「アナタの作品は素晴らしいであります!」

「あ、ありがとうございます」

「カチュア・キサラギよ。あの『聖遺物』がこのアイテムを持っていると?」

「そうであります。ロディは静流様の三番目の『しもべ』であります」

「何ですの?その『しもべ』って、従者の事ですわよね?」


 ナギサは『しもべ』というワードに引っ掛かりを覚えた。


「静流様には只今、オシリス殿、ロディ、そして、自分の『三つのしもべ』がいるのであります。ちなみに枠はあと一つ空いているであります」


「ちょっと待って下さい、オシリスやロディ?はわかりますが、何でアナタが静流様の従者なのですか?」


 ヨーコはピクピクと顔を引きつらせながら、佳乃に質問した。


「今現在、静流様は軍のVIPとしてお迎えしておりますゆえ、世話係として自分がお仕えしているのであります!」

「ふーん。つまり、期間限定って事でイイのね?」


 アンナはどストライクの所を突いた。


「これは手厳しいでありますね。まあ、自分は一生仕えてもイイのでありますが」

「良くありません! そのポストには私が……」


 ヨーコは何か言おうとしてためらった。


「皆さん! もう着いたみたいでありますよ!」

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