エピソード22-2

魔導研究所 格納庫――


 少佐は、静流たちを研究所の隣にある格納庫まで連れて来た。


「私が構築した転移魔法を可能とするモノがコレよ」


 少佐は、二人乗りの小型バギーを用意し、これに触媒となる静流を乗せる事で転移魔法を発動させる計画だ。


主な諸元は以下の通り。


・定員は、現在の静流の限界魔力量に多少余裕を考慮すると、2名が限界であると判断した。

・魔法発動には通常の魔力と、燃料となる「純度の高い魔素」が必要となる。

・魔法陣展開等の術式補助及び座標演算はオシリスにやらせる。

・不可視モードを装備し、偽装も可能。

・名称は只今募集中。


「二人乗りでありますか。では運転は自分が?」ワクワク


 佳乃は高揚しながら言った。


「アマンダさん、『純度の高い魔素』って何ですか?」

「リリイの件で少し触れたけど、魔力生成の元となるのが『魔素』よ。そのうち、より純度の高い魔素が必要なの」

「この場合、生物の『種の保存』に関わる要素……つまり」


「つまり、何ですか?」

「『リビドー』つまり『性的欲求』よ」


「え? つまり『スケベ心』ですか?」

「もっと尊いものだと思いたいけど、言ってしまえばそうね。あなたの魔素抽出法を考えたわ。苦労したわよ? アナタってばそう言う感情は皆無でしょう?」


「全然無いかは……わかりませんよ」

「あなたのリビドーは、深層心理の最奥にあるとウチのスパコンは回答した。これから魔素の抽出試験を始めるわ」

「いきなり、ですか?」

「大丈夫よ。イタくしないから。ウフ」


 少佐はウィンクをした。


「うわっ何か寒気がした」ゾワ


 静流はイヤな予感がして背筋が硬直した。


「まさか、静流クンにみだらな行為をするんじゃないでしょうね?」

「そんな事、しないわよ」


 仁奈にジト目で睨まれる少佐。


「第一、静流クンに『色仕掛け』は、逆効果よ」

「確かにそうね」

「仮眠室を使う。静流クン、来て」

「はい。わかりました」


 格納庫の隅にある仮眠室に静流を連れて行った。


「ここに寝てちょうだい」

「はい」

「リラックスして。警戒しなくても大丈夫よ。これから映像を見せます。10分程度で終わるわ」


 少佐はベッドに静流を寝かせると、ヘッドセットを被せた。


「アナタたちは向こうで待ってて。私も始まったら出るから」

「そんなこと言って、何かするつもりなんでしょ?」


 三人にジト目で睨まれる少佐。


「信用無いのね、私。トホホ」


 映像の準備が出来た。


「じゃあ始めるわよ。スタート」



          ◆ ◆ ◆ ◆



格納庫仮眠室―― 10分後


「さあて、魔素は溜まったかしら?」


 少佐はヘッドセットのオデコの部分にある魔素ゲージを確認した。


「満タンね。抽出成功よ、静流クン」

「ウヘヘヘ。フフフ」パァァァァ


 静流は満面の笑顔を振りまいた。まるで赤ん坊のように。


「むはぁ。静流様が昇天しているであります!」

「ふぬぅ。『賢者モード』に入ってるようね?」

「くはぁ。物凄い破壊力ね。母乳が出ちゃいそう」


 佳乃、仁奈、少佐は、静流のフラッシュに身悶えている。


「うはぁ。少佐、静流クンに一体何を見せたの?」


 リリイはよろめきながらも少佐に尋ねた。


「静流クンに見せたのは『ゾウリムシの増殖シーン』よ」


「「「は? 何ですって?」」」


三人は驚きを通り越して呆れている。


「単細胞生物のゾウリムシは、初期は無性生殖といって細胞分裂で増殖するの。でも分裂には回数があって、回数の限界が来ると個体に生殖機能が表れ、『チョメチョメ』を行う事で個体の若返りを行う有性生殖を行い、増殖するわけ」


 少佐は呆れかえっている三人に、単細胞生物の増殖について、いたって真面目に説明した。


「さすがは静流様。想像を遥かに超えているであります」

「静流クンは微生物のニャンニャンに興奮するのか」

「信じ難いけど、現実みたいね」


 三人はそれぞれ納得したようだ。


「静流クン、もうイイわよ」


 ヘッドセットを外してもらい、静流は軽く伸びをした。


「ふわぁぁ。スッキリしたぁ」

「ねえ、静流クン、どんな感じだったの?」

「そうですねぇ、何か環境映像みたいなのでしたよ? よくある柄、ペイズリー? みたいのがわんさか出てくるんです」


 先ほど少佐に説明を受けたものとほぼ同じものであった。


「この魔素量だと、3往復分は取れたわ」

「燃費としてはどうなんです?」

「ボチボチかしら。保存が効くから、毎日昼寝する時に取っておいてもイイわね?」

「そんなので転移が可能になるなら、やりますよ」

「よし、材料は全て揃ったわ。始めるわよ!」



          ◆ ◆ ◆ ◆



 少佐は、濃灰豹にノートに戻るよう命じ、を静流に渡す。


「もう術式はスキャンしてあるの。静流クン、お願い」

「はい、えと 【ダウンロード】ポゥ」


 静流の目が緑色に変わり、物凄い速さで内容を吸い上げる


「いよいよね? コンバート!」

「はい!【コンバート】ポゥ」


 すると、2人乗りの小型バギーが緑色のオーラに包まれ、やがて形が変わった。 


「ほとんど狙いどおりね。これが完成形よ! やったわ、ついに!」


 少佐は、ホームランを打った時のデストラーデの様に、右腕をグッと引いた。


「僕が昔持ってたラジコンにちょっと似てるなぁ」


 小型バギーは、黒いカウルが付き、かつてのラジコン「ホーネット」の様なフォルムであった。


「恐らくそのイメージでアレンジが掛かったのよ。悪くないわね」

「ちょっと座ってみなさいよ、静流クン」


 リリイは、子供におもちゃをあげた時の母親の様に穏やかに言った。


「はい。えっと、こうかな? ゴーカートの要領でイケそうですね」


 運転席に座った静流は、ハンドルとアクセルの位置を確認し、そう答えた。


「自分にも座らせて欲しいであります!」ハァハァ


 乗り物には目が無い佳乃は、やたら興奮している。


「まあ、走行機能は要らなくても問題ないのだけどね」

「確かに。瞬間移動するのにタイヤは要らないか」

「その内、ホバリングするタイプにバージョンアップしたいわね」

「よし、早速やってみますか? 【転移】」

「そうね。 とりあえず『アスモニア航空基地』にでも行って来ようかしら?」

「ここから1000km離れてるんでしたっけ?」

「ええ。 あそこの司令にも挨拶しておきたいしね」

「そう言えばムムちゃん先生、何してるのかな?」

「この歴史的な『処女航海』にお供出来るとは……感激でありま、」


 佳乃は小刻みに震えながら、喜びをかみしめていたが、


「『処女航海』は静流クンと……私が行きます!」フーッフーッ


 少佐は興奮度MAXでそう言った。


「くう、残念でありますが仕方ないであります。ではレヴィに連絡するであります」


 佳乃は軍事衛星電話でレヴィと連絡をとった。


〔お疲れ様であります!〕

〔佳乃さん? どうしたんです? いきなり〕

〔これから【転移】の実験を行うであります!〕

〔【転移】ですって? あの大賢者も出来たかわからない魔法ですよ?〕

〔今から静流様と技術少佐がそちらに行くであります。ちょっと代わるであります〕

〔私よ? レベッカ〕

〔これは如月技術少佐! お疲れ様であります〕

〔話は聞いた通りよ。今から30分後の1100時ジャストにそちらに行きます〕

〔は、承りました。指令にお伝えして、昼食の準備をさせておきます〕

〔楽しみにしてるわ。では〕


 レヴィにそう伝えると、少佐は向き直った。


「みんな、準備を始めます。手伝ってちょうだい」

「了解!」

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