エピソード21-4

魔導研究所内 厚生施設内 洋食屋ポセイドン―― 昼


 静流は、佳乃の他、仁奈とリリィを呼び、昼食がてら意見を聞く事にした。


「『聖遺物』ですって?」


「書いた物を具現化出来る魔法のノート……か」

 突拍子過ぎて思考が追い付かない二人。


「静流様はスゴいんでありますよ! 転移魔法を成功させたであります!」

「転移って、瞬間移動のこと?」

「肯定であります! 実際にブリーフィングルームから外の木に一瞬で移動したであります!」

「着地点が誤差でズレちゃったんだよね。今、術式の構築をアマンダさんがやってくれてるんです」


「あのめんどくさがりの少佐が? 意外」

「自分の研究テーマだから、熱心になるのも無理はないわね」

「で、他には何かアテはあるの?」


 リリィは転移以外の使い道は無いのかと聞いて来る。


「そうなんです。それで、皆さんに相談があるんですが」

「要するに、何を書けばイイか? って事よね?」

「ええ。そうなんです」

「何かなりたいもの、って無いの?」

「なりたいもの、ですか?」

「キミはシズルカに変身できるよね? 他にも変身する何かを作ればイイんじゃない?」

「変身……ヒーローって事ですか?」

「何だってイイのよ。想像は自由なんだから」


 静流が物思いにふけっていると佳乃がつぶやいた。


「静流様の趣味でありますと、白金聖闘士でしょうか?」

「確かに魅力的だけど、やっぱ既出はイカンでしょう?」


 やはり二次創作寄りになってしまうのか?


「もっとこう、フリー素材的なモノって、無いかしら?」


 仁奈の提案に静流はピンと来た。


「そうか、鎧、甲冑、サムライとか」


 静流はポンと手を叩き、戦国時代の甲冑をベースに何か出来るのでは?と提案した。


「うん。確かに甲冑を付けたヒーローなんて、過去に腐るほどいるし、今更騒ぐ事無いと思う」

「そうか。その方向で考えてみるか」


 みんなの意見を聞き、静流は構想を練る事にした。


「基本ベースは伊達マサムネ系がイイな」

「弓使いは欲しいわね」

「斥候とか偵察任務に忍者も入れて欲しいであります! アサシンモードとか」

「あと、パワー重視の槍の使い手とか」

「『天下無双』モードとか『一騎当千』モードて言うの、どうかな?」


 リリィがそんな事をつぶやくと、静流の脳裏にある事が浮かんだ。


「リリィさん、それだ! 『四字熟語』ですよ!」

「確かに短い文の中に説得力が半端じゃなく入ってるわね」

「イメージもし易いし、これでイケそうだ!」

「後は、そうね。画力?みたいのも必要よね?」

「確かに、確固たるイメージを得るには、それなりの絵心が無いとダメだわね」

「そうだ! みなさん、うってつけの子がいますよ」

「もしかして、あの学園にでありますか?」

「うん。あの子に書いてもらおう」

「そうか、転移の実験を兼ねて、学園に行くのね?」

「そうです。よぉし、面白くなってきたぞぉ!」


 いつになく興奮ぎみの静流に、三人のお姉さんたちは好意に満ちたあたたかい眼差しを向けた。


「じゃあ後は少佐待ちって事ね」



         ◆ ◆ ◆ ◆



駐屯地 客員用詰所―― 夕方


 静流は詰所のベッドで寝転びながら、物思いにふけっていた。


「『チラウラノート』か。僕に使いこなせるのかなぁ?」

「静流って画力は壊滅的だもんね?」

「そう言うなよオシリス。そうだ、事前にサラに説明しておこう」


 静流はサラと念話の準備を始める。


「勾玉は? あった」


 静流は以前作った勾玉を握り、念話を始める。


〔サラ? 聞こえる?〕

「ふぇ? 静流……様?」

「どうしたの? サラ?」


 寮でティータイムをとっていたナギサとサラ。向かいにはアンナとヨーコもいる。


「静流様から念話が入ったの」

「何ですって? サラに?」

「念話にしちゃあちょっと距離が遠くないかしら?」


〔聞こえてるみたいだね? 良かった。持っててくれたんだね?勾玉〕

〔は、はい。常に肌身離さず……です〕

〔あの勾玉には、ちょっとした通信機能を付与したんだ〕

〔そうだったんですね? もっと早く知りたかったです〕


「何? はっ! 勾玉ね? もしもし! 静流様!?」

 ヨーコは勾玉が関係している事を素早く察知し、自分の勾玉に必死に話しかけている。


〔だからって四六時中ってわけにいかないでしょ? お互いにね〕

〔そ、そうですね。すいません〕

〔いや、イイんだ。あ、他の子はまた違う機能だから、通信はキミだけだよ?〕

〔はうぅ。私とだけ? ですか? ムフゥ〕


「サラ、念話代わってちょうだい! お願い!」

「うぇ? あ、ちょっとぉ……もう」


 ヨーコはサラから勾玉を奪うと、強引に念話を始めた。


〔静流様!? 静流様!?〕

〔ヨーコ? 騒がしいな、どうしたの?〕

〔どうしたの? じゃありません! 何で私の勾玉には通信機能が付いていないんですか?〕

〔ヨーコ。『何で?』 って?それだよ。キミに渡したら常時オンラインになりかねないから〕

〔うっ。 そうです……よね。静流様は私なんかとなんて……。〕

〔わぁ、もう。ヨーコ? 人には『適材適所』ってのがあるでしょ? 大丈夫。キミの勾玉にはとびっきりの機能、付いてるから〕

〔え? そうなんですか? それはまたどう言う機能ですか?〕

〔それは『お楽しみ』だよ。さあ、サラに代わって?〕

〔静流様のイジワル……。わかりました、はい〕


 ヨーコは観念して勾玉をサラに返した。


「ちぇ、アタシも静流様と話したかったのにぃ」


 アンナはぷぅっと頬を膨らませた。


「でも、サラに何の用かしらね?」


 ナギサは頬杖を突いてサラを見守っている。

 サラは一言一言交わすごとに表情をコロコロ変えている。


〔さて、本題に入るよ? サラは相変わらず『薄っぺらい本』を作ってるの?〕

〔勿論です。私のライフワークですから。例えるなら『炎の鳥』か『サイボーグ忍者009の1』のような〕

〔随分と大風呂敷を広げたもんだね。大いに結構〕

〔ふぇ? イヤじゃないんですか?〕

〔内容によるな。キミの作品はレベル高いし。軍の人でベタ褒めしてる人がいるよ〕

〔そ、そうですか? へへへ〕

〔そこで、僕からのお願いなんだけど〕

〔はい! 何なりと〕

〔僕を主人公に『戦国ヒーロー物』を考えてもらいたい〕

〔静流様が主役なのは当然ですが。戦国物って、サムライ、とかですか?〕

〔うん。時代は現代でイイんだけど、鎧とか刀とかを現代風にアレンジする感じ?〕

〔いわゆる『サムライアーマー』的なやつ、ですね? モロ守備範囲です〕

〔そお? 良かったぁ、簡単な設定はコッチで考えてるんで、キミにはキャラデザを担当してもらいたい〕

〔ありがとうございます。 そういう設定だったら『荒木・姫野コンビ』にやってもらってもイイ所を……感激です〕


 思わぬところで、中学からの後輩たちの名が出てきた事に少し驚いた。


〔え? あの二人ってそういうの得意だったの?〕

〔ええ。SF美少年物はあの子たちが担当なので〕

〔そうなんだ。でも、今回はキミが適していると思ったんだ。頼むよ〕

〔はい! 全力で取り掛からせてもらいましゅ!〕

〔ただし! 一応言っとくけど、エロ要素は極力控えめにね?〕

〔はう、ど、どうしてですか?〕

〔そんなの決まってるじゃん、僕がそう言うの得意じゃないから〕

〔少しくらいは……イイんですよね?〕

〔わかったよ。期待してるけど、あまり無理しないでね?〕

〔わ、わかりました。お気遣い、感謝します〕

〔設定はメールで送っとくから。また連絡入れるね? じゃ〕ブツッ


 念話が終わった。サラは暫くフリーズした後、


「ふわぁぁぁ! 私、こんなに長く静流様と会話しちゃった……へへへ」

「で? どうだったのよ? サラ」

「聞かせてもらうわよ? サラ?」


 ナギサとヨーコが静流と話した内容を聞きたがっている。


「驚いて下さいよ! 何と! 静流様監修の同人誌を作るんです!」

「え? 静流様ってアッチは嫌いだったわよね?」

「それが、いつになくノリノリで」

「意外ね。そちらの方に目覚めたのかしら?」

「あ、でも何度も念押された事がありまして」

「「何?」」

「『エロ要素は極力控えめに』ですって。ちょっとテンション、下がりましたよ」

「ま、そうなるわよね? 納得」

「ぐぎぎぎ、いつになったら私を頼ってくれるのかしら。静流様」


 ヨーコは悔しがりハンカチを引き千切らんばかりに噛んでいる。


「そのうち来るって。気長に待とうよ、ヨーコ」


 マイペースのアンナはそう言ってヨーコをなだめた。


「やけに余裕ね? アンナだって、一日に一回は静流様の話題、振るじゃない?」

「ヨーコ、もっと先を見なきゃダメだよ。この先、どれだけの女の子と対峙しなきゃならないと思ってんの?」

「う、そ、それは……確かに」

「いちいち反応してたらアンタ、壊れちゃうよ?」

「アンナの太平洋並みの大らかさを見習うべきね?ヨーコ」

「う。アンナに諭されるとは……。ガクッ」

「やりますよぉ! フンッ!」


 静流からの重大ミッションを任されたサラは、いつになく意気込んでいた。

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