エピソード21-3

魔導研究所内 ブリーフィングルーム―― 朝


 次の日の朝食後に呼び出された静流は、佳乃と共に研究所のブリーフィングルームに来ていた。


「早速準備出来たんですか? 2、3日掛かるって話では?」

「その間静流様と遊び倒すつもりで折角候補を用意したのでありますが……ショックであります」


 佳乃の計画は霧散した。


「そっちはまだ。場合によっては観光より面白い事になるわよ? 今日はこれを見て欲しいの」


 少佐は奥から一冊のノートらしき物を持って来た。


「キミたちが参加したレッドドラゴン討伐作戦の現場検証時にこれがあったの」

「何ですか? このノートは」


 約A4サイズ本は、表紙に太い縁取りがあり、中央には甲虫のモノクロ写真が貼ってある。

 何か文字が書いてあるが、何語なのかわからない為、読めない


「恐らく、ドロップアイテムじゃないかと思ってるわ」

「いきなりファンタジーなワードだなぁ。まるでゲームみたいですね」

「過去にもあったの。『聖遺物』と呼んでいるものは、魔物討伐時のドロップアイテムと言っても過言ではないわ」

「それで、それはどういうアイテムなんです?」


「この通り、固着していて開けないのよ。もしかすると、『勝利者権限』かもしれなくて」

「それで、僕に?」

「試してくれないかしら?」


「はぁ。わかりました」

 静流は本を取る。すると、本が光り出した。パァァァ

「あれ? モノクロがカラーになった! ヘラクレスオオカブトだな、コレ」

「古代文字ね、ちょっと、これ解読しなさい!」


 少佐に声を掛けられた所員が、何やらあんちょこを見ながら解読している。


「少佐、解読すると、『チラウラノート』と読めますが」

「『チラウラ』って何かしら」

「ああ、それはでありますね、『そう言うくだらない事は、チラシの裏にでも書いてろ!』って意味でありますよ」


 アングラに詳しい佳乃はそういったスラングもカバーしているハイスペックな人であった。


「何だそりゃあ、そんな『聖遺物』って聞いたことないよ」

「結論を急いじゃダメ。場合によっては、とんでもない発見になるかも知れないわよ」


 ページをめくると、真っ白で何にも書いていない。すると、静流の様子が変わった。


「あれ? 頭にイメージが入ってくる。うんうん。なるほど。そうか」

「何かわかったの? 静流クン?」


 開いたノートを見ながら、うんうん頷いている静流に、少佐が少しイラつきながら聞く。


「このノート、スゴいですよ。AI搭載?みたいな。全部説明してくれるんです。」

「私たちには聞こえないのかしら?」


 静流はノートに念話で話しかけてみる。


「所有者登録をしろって言ってます」

「まあイイわ。それで、そのノートはどんな代物なの?」

「要は『書いたものを具現化できるノート』みたいです」

「ス、スゴいじゃありませんか! 静流様」

「でも、ノートが成功率を教えてくれるんですけど、平均すると30%らしくって、やっぱり強いイメージ力が必要みたい」

「それを使いこなせばそれこそ『神にも、悪魔にもなれる』って事なのかしら?」

「多分無理ですよ。人の想像力なんて、たかが知れてますもん」

「ちょっと試してみなさいな、静流クン」

「え? 今ですか? じゃあ、名前をここに」


 静流はノートの表紙の右下に、自分の名前を記入する。すると、本が緑色に発光した。ポォォォ


「これでイイの? 承認完了だって。うーんと。じゃあ、こんなのはどうかな?」

「ふむ。物を具現化するには、代わりの物が必要か。じゃあ、簡単な魔法とかは? うんそう」


 何か思いついた静流は、ノートに日本語で書き始めた。


「これどうかな? うん。成功率45%か。危険度は無いの? よし、やってみるか」


 静流はノートとブツブツ会話している。


「何を書いたんでありますか? 静流様?」

「内緒♪ じゃあ行くよ! 【ダウンロード】ポゥ」


 静流の目が緑色に変わり、物凄い速さで内容を吸い上げる。

 身体を緑色のオーラが覆う。先ほど【ダウンロード】した内容を読み込んでいく。



「行くぞ!【転移】!!」シュバッ



 静流の足元に桃色の魔法陣が現れ、瞬く間に姿が消えた。


「へ? 静流様? どこにいったんでありますか?」


 周りを見渡すが、静流はいない。すると所員が、


「うわ、あ、あそこ見てください! あそこ!」


 所員が指を指した先は、窓の外にある、15m以上ある杉の木に、青い顔をしてしがみついている静流だった。


「はしご車持って来て! 早く!」


 はしご車は何とか間に合い、静流は無事に救助された。


「す、すいません。ご迷惑おかけしました」ペコリ

「いいのよ。それよりアナタ、【転移】出来てたじゃない!」

「出来ましたけど、アレじゃあ失敗です。多分、書き込む情報が少なかったんですよ」


 ノートの内容を見ると、


『【転移】……術者の念じた位置に瞬間移動出来る。』


 であった。


「これだけの情報だと、ああいった事になると思うんです。もっと、確実な……座標とか?」

「静流クン、転移の実験の件だけど」

「はい、何か思いついたんですね?」

「私が試そうとしていた術式は、古代魔法の文献を基にしているの。つまり、その辺りの情報をそのノートに記せば、ほぼ間違いなく成功出来るわ!」

「そうか! 実際にあった術式なら、実現度も高いか!」

「ついては、ノートの使用権限を他人に譲渡できないのかしら?」

「出来るみたいです。この表紙の裏に罫線が引いてあるでしょ?ここに僕がこのノートを貸す人の名前を書くんです。そうするとその人も書けるようになるって寸法です」

「それはスゴいわね? わかったわ。是非共私にやらせて頂戴?」

「ええ。お願いします」


 静流は貸出欄に少佐の名前を書くと、書いた文字が光った。パァァァ


「これで書けるようになりましたよ? アマンダさん?」

「な、何よ? ああ、レクチャーしてくれてるのね? フム」

「フムフム、別に直接書きこまなくても、【スキャン】のコマンドを使って取り込めばイイのね?」


 今度は少佐もノートと会話している。


「念話じゃ面倒ね。スピーカーで話せないの?」

「今、可能になりましたデス」

「承認されたから命令を受け付けたって事かしら」


 ノートにはスピーカーが付いていたようだ。


「スゴいですよね? これが『聖遺物』の力なんでしょうか?」 

「肯定。ワタシはスゴいデス」


 AIは自画自賛した。


「まるで自我があるみたいね? アナタ」

「回答不能デス」

「都合が悪い事は回答不能なのね」

「回答不能デス」

「まあ、イイじゃないですか。成功率とかも教えてくれるんですよ?」

「とにかく、やる事が出来たわ。暫く部屋にこもるから、アナタたちは他にノートに書く物でも考えてて」

「わかりました」


「さあて、何を書くでありますか?」ワクワク

「仁奈さんとリリイさんにも手伝ってもらおうかな?」

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