不死も通さない門番
ドサリという重い音と共に、両断されたバダムの体が崩れ落ちる。
戦いの終わりを見つめていた沢山の配信石から数え切れないほどの応援メッセージが届き、それはあたかもミズハとヴァーサスを包む歓声のようですらあった。
「やりました! ナーリッジが誇る無敵の門番ミズハ・スイレン! ついに恐るべき門番襲撃事件の犯人バダムを今度こそ倒しました! これで街に平和が戻ったのです! 【たとえ一度敗れても、門番は何度でも立ち上がり最後には必ず門を守る】とはかの伝説の門番クルセイダスの有名な言葉ですが、ミズハさんは正にこの言葉を体現したと言えましょう!」
「ヴァーサスさんっ! 私……!」
「迷いのない見事な太刀筋だった。やったな!」
配信石の前で拳を握り締めながら浪々と語り続けるリドル。
そしてミズハはその瞳をキラキラと輝かせながら、戦いの興奮から僅かに頬を上気させてヴァーサスへと駆け寄る。
ヴァーサスはそんなミズハの様子に笑みを浮かべて頷いた。
「ヴァーサスさんのおかげです! 見えたんです、私にもヴァーサスさんの動きが! それで私もそれについていかなきゃって必死で――!」
「うむ! ミズハ殿も色々と話したいこともあるだろうが、まずは全て片付けてからだ! リドル!」
「――それではまた機会があればお会いしましょう! ナーリッジよ永遠なれ! さよなら! さよなら! さよならー!」
ニコニコと笑みを浮かべて配信石に向かって手を振るリドル。
そのままリドルはちらとヴァーサスを見ると配信を終了させ、周囲に浮遊する配信石全てをどこかへと飛ばした。
「おっけーです! こっちは終わりました!」
「感謝する! こちらもそろそろのようだ……!」
『グ……ググググ……ヴァ……ァァァァ……サス……ッ!』
辺りにまるで地獄の底から響き渡るような声が轟く。
ミズハの一閃によって両断され、息絶えたはずのバダムの肉体が再び拍動を刻む。
二つに分かたれた肉体の断面から黒い影があふれ出し、それはみるみるうちに巨大で禍々しい形容しがたい存在へと姿を変えていく。
『ヴァアアアアアサス! オレと闘え! もっとオレを強くしろ!』
崩れた肉体を芋虫に似た下半身が支え、上半身からは四本の異形の腕が伸びる。
もはや戦士としての人型すら残さぬ執念の悪魔が三人の目の前に現れた。
「そんな……こんなことって……!」
ミズハは腰の刀に手をかけ戦慄の呻きをもらした。
だがそんなミズハを制するようにヴァーサスは二人の前に立つと、槍と盾を構えてその化け物を鋭い眼光で射貫く。
「これほどの圧と殺気を放っているにも関わらず、なぜか気配は薄い……初めて相対したときから妙だと思っていた」
「これはヴァーサスの読み通りですね。今確認しましたけど、この方の座標はどうやら別の場所にあるみたいですよ」
「なるほど。ならば本命はそちらということか!」
「そうなりますね!」
頷き合い、不敵な笑みを浮かべるリドルとヴァーサス。
「あ、あの! 座標とか、別の場所とか……よくわからないので私にも教えてくださいませんか!?」
「簡単に言えば、ミズハさんやヴァーサスが今まで倒したバダムは幻みたいなものだったのですよ。本体は今私が見つけた場所にいるっぽいですね」
さも平然と、当たり前のように話すリドル。
だがミズハはそんなリドルに困惑した表情を向けた。
「い、今見つけたって……ヴァーサスさんもリドルさんも……お二人は一体……?」
「私はただの宅配業者!」
「俺はその門番だ!」
二人は謎のポーズをビシっと決めて宣言すると、そのまま呆気にとられるミズハをスルーして化け物へと向き直る。
「見たところ先ほどまでとはひと味違うようだ。ここは俺が引き受けよう!」
「なら私はミズハさんと一緒に本体のところまでちょちょいと行ってきます。ミズハさんお願いできますか?」
「は、はい! 私で良ければ!」
「二人とも気をつけてな!」
「お任せあれ! ヴァーサスも気をつけて!」
瞬間、手を繋いだリドルとミズハがその場から消える。
残されたヴァーサスは見上げるほどの巨体となったバダムへと槍の穂先を向けた。
『ググ……ググググ……強く……もっと……強く……エサとなれ……ヴァーサス……!』
「俺はエサではない……門番だ!」
ヴァーサスは叫び、跳躍と共にバダムへと光速の突きを抜き放った。
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『戦士バダム』
種族:偶像
レベル:3670
特徴:
強者との戦いを渇望する戦士。
百メートルを二秒で詰め、跳躍の高さは軽く数百メートルに達する。
巨大な王宮を素手で解体し、水深数千メートルの海底から巨大な船を持ち上げる。
魔法の直撃も抵抗するのではなく物理的に耐え抜くタフネスを持つ。
実はこの姿は幻であり、その本体は異世界から迷い込んだ戦士の石像。
この石像を破壊しない限り、死亡しても強化されて復活する。
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