第127話花見

小野田家の庭の桜も満開である。チヨは


「毎年毎年毛虫が出るから切ろうかと思ったんだがねぇ」


そう言いつつも毎年桜は残している。ソメイヨシノでは無く、山桜なので満開でも派手には咲かない。しかしおもむきのあるものだ。今日は道場生も混じっての花見である。近所迷惑になるので早々に終わるのが小野田家の花見である。賑やかになった。


「もう春ですか。あっというまでしたね」


吉村が感慨かんがい深く言った。


「我々もすっかり現代に馴染んだのでは?」


永倉が言うと


「いや、まだまだわからぬ事が多すぎます」


缶チューハイを飲みつつ斉藤が言った。


隊士一同にとって現代は


「得体の知れぬ時代」


であることに変わりはない。しかし原田や斉藤、吉村などは積極的に現代に挑戦している。近藤もそうである。しかし土方、沖田、永倉は保守的な態度を示している。何時帰るかも知れないと言うあせりと、何時までも刀を必要としない現代の平和を享受きょうじゅしたいと言う考えもある。道場の花見は早々に終わり、残る隊士はビニールシートと後片付けを約束し、花見を続けている。


「まあまあ、皆さん、あまり深く考えずに生活しましょう」


祐介が言った。隊士達の最期を知っているからにはできるだけ現代では穏やかな生活を満喫まんきつして欲しいと言う心遣こころづかいである。新選組は劇的な日本の歴史の谷間へ落とされる。彼らが命を賭けたからこそ彼らの存在は強く輝き、後世に語り継がれるのである。詩織が肴を持ってきた。


「ここからが我々の花見ですね」


沖田はノンアルコールビールを飲みつつ言う。


「諸君、我々が現代にやってきてはや半年である。諸君それぞれ思うところがあるとは思うがそこはこらえて欲しい」


近藤はそう思っているが隊士は結構エンジョイしている。

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