第70話お風呂

小野田家には風呂が二つある。道場用と小野田家用だ。道場用は広々としていて居心地が良い。特に夏場は門下生が汗を流して帰途に着くものが多い。冬場は利用されないのでもっぱら隊士一同の専用になる。斉藤などは毎日入る。


「ああ、気持ちいいなぁ」


沖田は身体を伸ばしてくつろぐ。近藤より療養中につき稽古も制限されている。仕方ないので風呂にでも入るしかない。体を石鹸せっけん(使い方は病院で覚えた)で洗う。スッキリして湯船につかる。穏やかに体が温まり、心地よい。最近、沖田は体調がすこぶる良い。


「本当に俺の身体なのか」


祐介が言うには現代は滋養の有る食べ物が多いため、体力がついたのではないかと言う。確かに肉を食べ始めて精がついた気もするし、病がえたのもあるかもしれない。


「一番隊隊長として頑張るぞ」


何時にも増してそう思う事があるしかし現代は平和である。新選組の活躍できる場は無い。それについては不満であるが、皮肉にも現代に居るおかげで病も癒えたのが沖田としては不満である。


「やあ、斎藤君」


斉藤が入って来た。無言で頷き、体を洗い始める。


「ここの風呂は良いねぇ。何時でも湯が熱くてさ」


「屯所の湯はぬるかったな」


斉藤は若干二十歳である。この若さで隊長に抜擢されるのは斉藤の剣技が優れているからであろう。


「局長も副長も変わっちゃったよね」


「口に戸は立てれぬ故」


「おっと鶴亀、鶴亀」


斉藤は暗に沖田の軽口を制しているのである。無言であれば同意したも同じだ。沖田は新選組の看板であるため、皆気を使っている。


「斉藤君、僕が快癒かいゆしたなら立ち合おうよ」


「承知した」


湯船とは不思議だな、と思っていたら土方が入って来た。

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