第52話金銭管理

「寒いな」


斉藤は暖簾のれんをくぐり抜けて外に出た。雪でも降ろうかという寒さである。同時にふところも寒くなってきた。現代の貨幣の価値は今一つ掴めないでいる。高額な貨幣ほど紙になるし、千、万という単位が当たり前のように使われる。


近藤、土方、斎藤はそれぞれ差料さしりょうを手放した。しかしチヨの提案で売れた刀の金はチヨが管理する事になった。虎徹こてつ兼定かねさだ助広すけひろである。ある程度の金額にはなったはずだ。しかし斉藤にしても酒と女につぎ込み、散財するだろう。新選組の俸給は他の武士と比べて破格であり、豪勢に使う事が多かった。現に斉藤も女が居て、囲んでいた。


「チヨ殿、懐具合ふところぐあいが寂しくなりました」


斉藤はチヨに現金を受け取る。別段チヨも詮索しないので斉藤も別段困る事もなかった。以前、斎藤は近藤に尋ねたことが有る。


「局長、虎徹はいかほどで売れたかご存じですか」


「いや、知らぬ。斉藤君、考えてもみたまえ。質に入れるなりなんなりは金に困った人間がする事だ。例え業物わざものでも大した金額にもなるまい」


近藤の意見も一理有る。刀を必要としない現代、刀は専ら観賞用に用途が限られてきた。居合や試し切りは有るだろうがそんなに高価な物は使うまい。以前斉藤は遠出とおでをして刀屋に行った時がある。刀は綺麗に飾られ、百五十万やそれ以上の値段だった。


「この刀では人は斬れぬ」


飾られた刀を見ていると店員がやって来た。


「何かお探しでしょうか」


「この作刀は誰がした」


良くわからぬ、聞いた事も無い名である。刀屋を後にして斉藤は思った。


「ふん、あのような物を腰に差せるか」


業物と言うものは必ず試し斬りが行われた。罪人の遺体を斬り、価値を決める。優れた刀は胴も骨ごと容易たやすく切れる。そうして選ばれたものを差料にするのである。


「金は必要な時にチヨ殿から貰えばよい」


斉藤はそう思った。

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