第3話 この話は推しには知られたくない

この話は、ラジオのボツメールにすらならなかった、封印していた話だ。


推しには知られたくなかった話である。


果たして、2010年以降にデビューした人たちには、2006年ごろ、自分がデビューする前の芸能界はキラキラ輝いて見えるんだろうか。


2010年より、それよりもっと前に芸能界にいた人は?

タイムマシンがあれば、あの時代に戻ろうとするのかい?


18年ぶりに、本格的に芸能界に戻ってきた。と言っても、ギャラの出る仕事じゃない。登録料を支払って、舞台に出る。赤字ではないが、講師だけが得をするシステムだ。


木村拓哉のことを昔の私は非常に嫌っていた。似ていたからだ。義理の兄。

私に対して虐待、性的、身体的、精神的虐待を繰り返した男。

イケメン俳優のDV事件が最近あった。

イケメンは、顔を歪ませようと汚い言葉を吐いても顔は崩れない。

木村拓哉に似ていた。昔の義理の兄は。


今では面影すらない。


木村拓哉の去った現場に、エキストラとして参加した。

今、その作品のテーマソングを繰り返し聴いている。服部隆之作曲、華麗なる一族、メインテーマ。


私は、山本耕史に会いたくて、そのドラマの最終回、撮影に行った。神保町に今でもある学士会館だ。


私がその神保町に再び足を踏み入れたのはそれから10年以上経った、2019年の話だ。


学士会館で何が起きたかは、詳しくは話したくない。

悪夢だからだ。


内容をざっくり説明するのも嫌だ。


確かなのは、 

「木村拓哉がいれば

 私は辛い目に遭わずに済んだのかも」


たったひとり。


たったひとりでも、組織から人が亡くなれば、組織はあたたかみや思いやりを失い、いじりやいじめが起こる。


このことがなければ、私は木村拓哉という男を気に留めずに済んだのかもしれない。


私がした行為そのものが、木村拓哉が現場で心掛けていたこと、そのものであることを長い年月をかけて、私は知って行った。


木村拓哉は、私が見ないようにしてきた影の部分だ。


おそらく、気づいていないだけで、私は、芸能界で、木村拓哉と似た地位を築きつつあるのだろう。


もうすでに、私とともに舞台に出た人間は、ひとりも朗読のワークショップにいないし、私の舞台を見た人で、この世にいない人がいる。


その人のことを思い出すたびに、

「私の演技がうまければ必ず天国から

 見にくるから」


舞台に立つのは、自分のエゴだ。

立ちたいから立つ。


それもこれも、私には、死者に会う手段がこれしかないからだ。

残念だけど、わたしには幽霊を見たり会いに行ったりする能力が欠けている。


でも、死者に会う方法がこの世にはある。


そのひとつが、舞台に立って、演技を見てもらうこと。


私の初舞台の後悔は、好きな人が目の前にいて集中出来なかったこと。


それ以来、演劇を恋人とさだめ、思春期はなるべく人を好きになることを避けていたのに、三年目の冬のある日、告げられたのは「ファンと付き合っている」という、根も葉もない噂と、それに伴うバッシングだった。


それ以来、私は、三年目になるとつまづくようになったし、そのことは私に深い傷を残し、事実上、芸能生命をたたれた。


でも、今になって思うのだ。


私は、三年目の春、東京から引き抜きが来ていたのだ。


かすかな記憶だし、間違いかもしれないが、母も長山さんも必死になって、私を止めた。


東京には行くな。

バイセクシャルは公言するな。


それを伝えずにいたら異性愛だと誤解された。


しかしながら。


1996年。私より先に茨城から東京に出た男の子はどうなった?


東京に時間をおいて出た私は助かってしまったのだ。


知名度も、芸能界もあきらめて、東京で夢やぶれて、普通の仕事に苦労してついて、必死になって忘れようとした。

自分は一般人で、芸能人じゃない。


でも。


2020年。私の誕生日に、三浦春馬は死んだ。

京都アニメーションの事件から1年経ち、ようやく傷がおさまったところにさらなる傷を負った。


私は、春馬くんのファンではない。


そして、生の彼を見たことはない。


同時期にかすかにすれ違った、同郷だが、住んでいた都市が違う。


彼は東京に近かったから、東京の芸能界に足を踏み入れた。


東京の芸能界は、彼を食い散らかしただけじゃないのか。


東京が憎い。東京の芸能界も憎い。


知名度が低い、ただの経験だけ積んだ人間の言葉なんて、株にたとえたら、

無名のベンチャー企業の株券以下の存在。


それでも、言いたい。


彼を酷使してもてあそんで愚弄して誹謗中傷して、死に追い込んだのは、芸能界じゃないのか。


なんで彼は死んで、私は台本を手にして、台詞をもらって、舞台に立つんだ。


二度目の緊急事態宣言。


東京の舞台と違うから、こっちは茨城だから。


立場が逆転してしまったのだ、今。

東京一極集中から一転、

ローカルの、地方の芸能界は、一部をのぞけば、恩恵を受けている。


推しの舞台やライブがどんどん潰れていくのに、リモートで稽古に参加できた。


2019年までは稽古の話をうらやましく聴いていたのに、立場が逆転した。


なぜだ、と。


こんな恵まれた状況でいいのか。

稽古してて、いいのか。


2020年はずっと不調続き、絶不調だった。


わからないよ、公演中止になるかもしれない。


幸いなことに、私の参加する舞台は早めの開演なので、夜間外出禁止にはひっかからない。


でもさー。

夢だったんだよ?


推しに公演チラシ配るの。


残念ながら無理だなぁ。。。


はぁ。。。


そんなわけで、やる気はでないですが、

人生で史上最も長いセリフをいただくことになりまして、

今までモブキャラが多かったからつっかえるつっかえる(苦笑)


1990年代の芸、身につけたものは残念ながら捨てることはできないので、悠々と急げ、です。


それにしても、だ。


あーあ、見てもらいたかったなー。


下見にちょうどいいと思うんだよー?

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