「我が輩こそは真の猫」


 俺は夏目なんとかいう人間が好かん。

 あいつは何もわかっていない。

 俺達の事はコレッぽっちもわかっていない。


 俺達にだって名前はある。

 親から授かった偉大な名前だ。


 俺の名は

 愛染橋右京・ポワロン・ドゥ・マサヒコ8号だ。


 信じたか?

 ウソだウソ。

 やはり人間は愚かだな。


 弱肉強食こそがこの世界の唯一の決まり事だと言うのに、奴等はてんでわかっていない。

 

 俺達をみれば

 『ねこちゃ~ん』

 などと甘い声をだす。


 気持ち悪いので無視すると、今度は食い物で釣ろうとしてくる。

 なんて悪辣な。


 それでも返事をしないでいるとマタタビなどと言う、この世で最も甘美で最も危険な悪魔の薬物を持ち出してくる。


 そこまでして俺達を捕まえておきながら俺達を取って食う事をしないのだ。

 人間と言う生き物は本当に愚かな生き物だ。


 俺達にはそれぞれにお気に入りの場所がある。

 俺のお気に入りは、この公園。

 噴水を眺めながらベンチで横になり、お日様からの愛に包まれる。至福のひととき。

 冬の間はお日様の時間が短い。

 だからお気に入りの場所に邪魔者が居ると心底気分が悪くなる。


 ーーおい、女。

 ーーそこは俺の場所だ。

 ーーさっさと立ち去るがいい。


 おかしい。

 人間はここまで言われると、すぐに席を立ち俺の前に跪くはずなのだが…。


 ーーおい女!聞いているのか!


 無視か。いい度胸だ。

 だがお前は終わったのだ。

 俺に奥の手を使わせてた事褒めてやる。


 「ゴロにゃあ」

 お前の足首に俺の鼻先、俺の牙、俺のひたいを擦り付け、俺の強さの証明を刻みこんでやる。


 ーーこの女、手強いな。

 仕方ない。決闘だ。


 この場所を賭けて決闘だ。


 「にゃあ!にゃあ!にゃあ!」



 「もう、なんなの、この猫。放っておいてよ、放っておいて・・・」


 ーーなんだこの女。決闘の申し込みが通じないのか?

 ーー放っておくはずないだろう。この場所は俺のお気に入りで俺がお日様の愛を受取る場所なのだ。

 ーー今すぐ立ち去るがいい。



 「・・・なんで…、なんで私なんかに・・・」

 ギュウウ


 油断した!

 いきなり締め上げてくるとはこの女、卑怯なり。

 ーーググゥ、離せ!離すのだ!!



 「なんで私に優しくしてくれるの・・・」 

 ーー離せと言っているだろう!!



 「私ね、捨てられちゃった。いらない女だって・・・」

 ーー何を言っているのだ。いいから離すんだ!



 「だからね、もう、生きるのイヤだなって」

 ーーお前が生きるのイヤなのはわかった。だが俺は生きたい。だから離せ!!



 「死んじゃおうかなって考えてたんだ・・・」

 ーー何をバカな事を言っているんだ。生きていればいつか死ぬ。いつ死ぬかなんて誰にもわからないのだ。死ぬまで生きる。それだけだ。だから俺は生きる。早く離すがいい!!



 「なのに、なんで、なんで、なんで私なんかに・・・」

 ーーわかった。まいった。この勝負お前の勝ちだ。だから離せ離すんだ。

 ーー俺はこの場所でお日様に当たれればソレでいいのだ。ベンチでなくてもお前の膝の上でもかまわないのだ。

 ーー聞いているのか、女。この勝負お前の勝ちだ。だから力を緩めてくれ。俺は生きたいんだ。


 俺は日が傾くまで締め上げられた。

 死ぬかと思った。

 だがまあ生き延びた。

 大事なのは今生きている。

 それだけが大事な事なのだ。



 勉強になった。

 人間は愚かだか、決して舐めてはいけない。

 時々あんな油断ならない奴がいる。



 次に会ったらリベンジだ。

 俺もしっかり爪を研いで待っている。

 女よ、次こそ決着をつけよう。

 それまで達者で暮らすがいい。



 これが俺の生き方。

 俺達猫の生きる道。


 我が輩は真の猫なのだ。


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ミジカカネ 「短編置き場」 サカシタテツオ @tetsuoSS

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