僕の世界

 僕の世界は、ボリビアのウユニ塩湖の様に青空と白い雲がどこまでも果てしなく続く、穏やかななぎの世界だ。


 この世界でなら、僕は、自分の想像し得る事なら何でも出来る。


 ただし、その具現化するイメージの強力さに応じて、僕の寿命は削られてしまうのだけれど。


 ここでなら、あの剛毅たけきだって、思う存分ボコボコに出来るけれど、僕は徳の高い人間だから、そんな下らない自己満足の為にこの神聖な力を使う様な事はしないんだ。


 それじゃあ、余計な話はこの辺にして、そろそろ、僕の美しい世界を、くねくねと気持ちの悪い動きで汚すピエロ仮面の怪人を退治してしまおうと思う。


 まずは変身。


 右手をかざすと、僕はあっという間に戦隊モノのレッドの様な格好に変身するんだ。


 でも、別にこの変身で何かがパワーアップするなんて事はなくて、ただ、気分を上げる為の仮装みたいなものなんだけどね。


 ここからが本番で、僕は、あいつの動きを封じる為の鎖を創造する。


 すると、何もないくうから現れた光の鎖が、やつの手足を拘束こうそくするから、そうしたら怪人の仮面をがすんだ。


 そしたら、紫紺に輝く球体の核が現れるから、今度は光のつるぎを創造して、それを破壊するんだ。


 これで怪人退治は終わり。

 とっても簡単だろう?

 でも、ここからが、ちょっと憂鬱な気分になるんだ。


 怪人の核を破壊すると、そいつの思念が僕の頭の中に流れ込んでくる。


 そうこう言ってるの内に、さっそくきたみたいだ。



 ────いつの時代であろうか?随分と古風な街並みである。

 見窄みすぼらしい身なりの少年が、中年の男性に折檻せっかんされている。


 【どうしても必要なんです!今月だけ、何とか前借りさせて頂けませんか?】

 懇願する少年を、

 【ダメだ、ダメだ!これだから子供っていうのは話にならんのだ。泣いて頼めばなんでも解決すると思っていやがる】

 中年の男が折檻する手を強める。

 【今月だけでいいんです。今なら、まだ間に合うって、お医者様が言ってるんです。母ちゃんはたった1人の家族なんです】

 少年は、中年男にすがりつく。

 【知った事か!わしとて、家族を養わねばならんのだ。力が無ければ守りたい者は守れん。それはこの世の摂理せつりというものだ。文句があるなら神様にでも言うんだな。儂に言われたって知った事じゃない。お前の母親は寿命を迎えたって事よ。諦めるんだな】

 そう言って、中年男が蹴り飛ばすと、少年は雄叫おたけびを上げながら、胸元から短刀を取り出した。


 少年の取り出した刃にひるむ中年男の足を払い転ばせると、少年は、迷いのない太刀筋で中年男の頸動脈を切り裂いた。


 そのまま中年男の家へ押しかけると、中年男の妻とその3人の娘を次々と惨殺ざんさつし、奥の部屋の箪笥たんすの中に入っている金を盗み取って、駆け出した。


 息も絶え絶え、我が家に辿り着いた少年は金を熟睡する母の枕元に置くと、

 【生んでくれて…ありがとう。愛してくれて…ありがとう】

 と、独りごちる様に言って、家を飛び出し駆け出した。


 橋の欄干らんかんの上に立った少年は、雲一つない晴れ渡った空を見上げると、

 【力なんて…。くだらない】

 そう呟いて、真冬の川の激流へと身を投げた。


 鬼の形相ぎょうそうで、血の涙を流す少年は、この世の無情さを恨みながら、その命の灯を消したのであった。────


 やっぱり、今回も気持ちの良いものではなかった。


 どうやら、怪人には怪人になるだけの理由があるらしいけれど。


 だけどさ、理由があるからって、人を傷つけていいはずがないだろう?


 だから、僕は今日も怪人と戦うんだ。


 こうやって、怪人を倒した後は、この美しい世界を閉じる。


 そうしたら、ほらっ!

 あっという間に現実世界に戻ってきて、剛毅は良い奴になっているという寸法だ。


 『おい、マキナ』

 ほら、モヤシじゃなくて、ちゃんと僕を名前で呼んでくれるだろう?


 『今日の放課後、野球やるから空き地に集合な!エラーしたら、うさぎ飛びで町内30周だから気合い入れろよ!』


 あれっ?おかしいな。剛毅は相変わらず昭和風のガキ大将のままだ。


 後日分かった事であるが、剛毅を操っていた怪人を倒して以降、剛毅は無闇に暴力を振るわなくなったらしい。


 だけど、どうやら、理不尽な事を言ってくる昭和のガキ大将気質は、一向に治らないようである。


 彼は、どうやらナチュラルボーンのガキ大将らしい。


 こんな事で寿命を削ってしまうなんて。


 まぁ、でも、一人の修羅の魂が、心安らかに、穏やかな眠りにつけたのならば、それで良いか。等と思う僕なのであります。


         つづく





 

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