いじめられっ子の僕は、人知れず悪と戦うヒーローだったりするのです。

GK506

ヒーローはいじめられっ子

 僕の名前は、真境名まきな 王時きみとき


 小学3年生。


 皆んなからは、マキナと呼ばれている。


 学校では、いつもクラスメイトの我修院がしゅういん剛毅たけきにいじめられている。


 小学3年生にして、162.5cmという恵まれた肉体を持ち、父親は現役のラグビー選手で、自らもラグビースクールでフォワードを務める彼のイジメのプレイスタイルは、昭和のガキ大将風。


 そのデカい体と腕力で、力の弱い僕をねじ伏せるのである。


 いじめにも、ネットやSNS等の波が押し寄せて、小さな子供の心ではとても耐えられない様な、エゲツない手法が横行おうこうするこの令和のいじめ市場において、剛毅のいじめは単純明快たんじゅんめいかいであるのが唯一の救いである。


 でも、とっても痛いから、やめてくれるに越した事はないのだけれど。


 剛毅は、事あるごとに、

 『おい、モヤシッ!俺と相撲取ろうぜ。負けたら、逆立ちで鼻からスパゲティすすりながら町内一周だからな』

 と、エグイ罰ゲーム付きの勝負をふっかけてくるのである。


 21世紀のこの世界には、青いネコ型ロボットも不思議なポッケもないし、逆立ちで鼻からスパゲティをすすりながら町内一周なんて芸当が出来るなら、僕は、こんな下界とはさっさとおさらばして、ボリショイサーカスのエースとして世界中をまわる旅に出る。


 今すぐにだ!


 でも、僕は昭和の時代のいじめられっ子。あの、黄色い服の丸メガネの少年よろしく何をやってもダメダメなダメ人間なのである。


 いや、根が真面目な分、僕の未来は彼のそれよりも、よっぽど絶望的だ。


 でも、そんな僕にも、一つだけ、人に誇れる特別な能力があるんだ。


 何か知りたい?


 らしたってしょうがないから、結論だけ先に言っちゃうと、実は僕、ヒーローなんだ。


 えっ?何を言ってるのかって?


 だから、僕はヒーローなのさ。


 変身して、悪の怪人をやっつける正義の味方。


 名前はまだ考え中なんだけど、まぁ、そうだな、仮に【魔法少年マキナ】とでもしておこうか?


 僕は、戦隊でも、ライダーでもないんだ。


 えっ?いやっ、違うよ!

 ちっちゃい子供の妄想とは違う。


 僕は、ガチで、マジなヒーローなの!


 本当だって!

 お願い、信じて!土下座するから。


 えっ?仮に僕がヒーローだとしても、この世界には怪人なんていないじゃないかって?


 そうだね。

 

 どうやら、普通の人々には怪人は見えていないみたいなんだ。


 今の所、僕の周りで怪人が見えているのは僕一人。


 僕が神様からもらったギフト、それは、この世界に蔓延はびこる怪人を見る事が出来る目と、自分の想像した物や世界を具現化出来る力なんだ。


 この能力で、僕は日夜怪人と戦っている。


 この世界には、おびただしい数の怪人がいて、それが人間を操って悪さをしているんだ。


 例えば、あの剛毅。


 あいつは、ピエロの仮面を被った怪人に操られている。


 なぜ剛毅に取り憑いた怪人を倒さないのかって?


 いい質問だね。


 僕の具現化能力は、どうやら無尽蔵むじんぞうに物を創造出来る訳じゃないらしいんだ。


 つまり、端的たんてきに言えば、僕はヒーローになって怪人と戦う度に、僕の寿命を食い潰しているのさ。


 それは、別にいいんだ。


 僕は、特別この命に執着がある訳じゃあないからね。


 でも、神様が僕にこのギフトを下さったのには、何か意味があるはずだと思うんだ。


 だから、めったやたらに怪人を倒しまくって、無駄に命を終わらせる訳にはいかないのさ。


 僕の人生には【笑顔の溢れる素敵な世界をつくる】っていうミッションがあるからね。


 剛毅を操っている怪人は、昭和チックないじめを繰り返すだけの、比較的無害な(僕にとっては有害この上ないのだけれど)怪人だから僕の力を使うべき優先度はかなり低め。


 でも、流石に逆立ちして鼻からスパゲティをすすりながら町内一周するのはだるいし、君に、僕のヒーローの力を証明する良い機会だから、あのピエロの怪人を倒す事に決めたよ。


 まぁ、見てて。

 って言っても、君には見えないんだろうけどさ、今からあのピエロマスクを僕の力で消し去ってしまうよ。


 あっという間にね!


 僕は、右の掌を何もないくうにかざして、僕の世界を創造すると、そこにピエロの怪人を引きずり込んだ。


 現実世界ではダメダメだけれど。


 僕の世界の中では、僕は誰よりもクールでスマートで、とっても強いヒーローなんだ。


 百聞は一見にかず。


 まぁ、僕の活躍を見ていてよ。


 これが、僕の世界だ!



        つづく

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