好きだから付き合ってみませんか?~親愛から始まる幼馴染との恋物語~

葉月治

第一章 幼馴染と春の恋

第1話 『立春』


「お前のことが好きだ。付き合ってくれ!!」


「私もあなたのことを愛しています」


「俺と付き合え」


「これからも私を好きでいてくれますか?」


「もう、君を誰にも渡さない」


「これからも、私はセンパイのことがずっと好きです!!」


「あなたのことが好きで、好きで、堪らないんです」


「私と恋人になって?」


「俺と」


「私と」


「僕と」


「あたしと」


「恋人に!!」




 俺は、その言葉を最後にテレビの電源を消した。どの恋愛ドラマを見ても、あまり共感が出来ない。特に、なぜドラマの主人公が告白し、結ばれるまでを描いているのかが分からない。一緒にいたければ一緒にいればいい。嫌いになったら、素直に離れればいい。どうして、自分から関係を壊すようなことを言うのだろうか。


「まあ、どうでもいいか......」


 普通に考えて、間違っているのは俺の意見なのだろう。俺は恋愛を否定しているわけじゃない。ただ、共感できないだけ。

 俺にだって大切な人はいるし、楽しいことだってある。

 

 でも、


「恋愛だけはわからないんだよな......」


 俺は居間の電気を消し、自室へ戻った。

 部屋には、物音ひとつ聞こえない静寂だけがひとり漂っている。




 *

  



「ブーン...ブ~ン......ブブーン...ブーン......」

「っんと」


 目覚まし時計代わりに設定しておいたアラームが鳴っている。最近のお気に入りは蚊のアラーム音だ。不快感満載なこの音のおかげで俺は難なく起きることが出来る。

 俺はスマホをスワイプし、不快なアラーム音を消し去り、天井に向かって伸びをする。

 一度起きてしまえば、この不快感からも解放され、清々しい朝の空気が俺の頭の霧を晴らしてくれる。


「秋翔~。起きたんなら早く準備しなさいよ~」

「あいよ~」


 階段下から聞こえる母に向かって返事をする。

 俺の名前は、尼崎秋翔あまさき あきと。近所の公立高校に通う、何のとりえもない普通の高校生だ。ほかに紹介することなどまったくない。


「なんて、心の中で思っちゃったりしちゃって」


 早く学校に行く準備をしなくちゃな。じゃないと、


「秋翔~。母さんそろそろ仕事に行くから~。千春ちゃんも呼んできなさいよ~」

「あいよ~」


 千春を呼べと母に言われてしま......ったな。

 下の階から、玄関の扉が開く音がし、すぐに閉じた音が聞こえた。


 一階に降りると、2人分の食事が用意されており、ご飯に味噌汁に目玉焼きとほんの少しのレタス。簡単で、なおかつパッとしない、和洋混合の朝飯である。


 まあ、忙しい母が作ってくれたにしてはかなり上出来だろう。

 心の中ではこう思ってないと、たださえ多い朝の仕事に料理までもが追加されてしまう。

 それでは、いくら不快音で起こしてくれる蚊さんにも俺は八つ当たりをしてしまうだろう。


 それよりも、このご馳走をいただく前に、


「あいつを起こしに行かないとな」




 *




 玄関から、徒歩10歩。かかる時間はおよそ12秒といったところか。

 俺は右隣の家のチャイムを押した。


「ピーン.ポーン」


 軽快な音を奏でながら、お寝坊さんに急げと催促を促す。


「ふぁ~い」


 ドアがガチャリと開き、眠たげに目をこすりながら一人のお寝坊さんが出てきた。


 髪は天然由来の自然な色合いの茶髪をベリーショートにし、リスのような可憐で真ん丸お月様を想起させる瞳。それから、なんと言っても、小柄で、行動一つ一つに愛着を沸かせ、人懐っこさを感じさせる雰囲気を感じさせているのが彼女の特徴であり、


「なんとこれが俺の幼馴染なのでした」

「一人で何言ってんの?」


 おっと、俺の独り言が漏れてたか。

 まあ、そんな感じで、こいつが俺の幼馴染の春川千春はるかわ ちはるだ。

 千春の親も仕事の都合上、家になかなか帰ってこないため、俺と一緒によく留守番をさせられていた。そのせいか、今では、こいつを起こすのが俺の役目となり、俺の毎朝のルーティーンの一つとなっている。


「毎度、毎度ありがと~」

「感謝の念があるなら、さっさと来い」


 俺は、まだ目をこすりながらついてくる千春の手を強引に引っ張って行った。




 *




「ごちそうさまでした!!」

「ようやく目が覚めてきたか?」


 千春はきれいに手を合わせ、日本古来の伝統的な挨拶を行った。

 いや、伝統的って......。

 千春の皿には米粒一つ残っておらず、この家のシェフに見せたら、満足そうにひげを触りながら、うんうんと頷くだろう姿が目に浮かぶ。

 いや、この家のシェフは母だし、ひげはないけど......。


 千春は食器をキッチンに持っていき、水に浸けながらこっちを向き、ニコッと笑った。


「いや~朝ごはんは良いですな~」

「そんなら、さっさと準備せい」


 はーい!!と返事をし千春は、ささっと玄関から飛び出して行った。


 彼女のいなくなった居間には俺を残して静けさだけがひとり漂っている。




 *




 俺達は千春の家の前で待ち合わせ、2人で歩いて学校へ向かう。


 途中、同じ学校の生徒を何回か見かけたが、俺達のことなど気にも留めず、足早に歩いていく。

 決して俺達のことを避けているんじゃなくて、


「それでさ、昨日の調理実習でさあ!!」


 こいつが、のろのろ歩いてやがるので、他の人が足早に感じるだけだ。

 ホントにこいつはおしゃべりが好きだな。お前は明石家さんまか。


 そうこうしながら、学校に向かって歩いていくと、


「あっ!!チーじゃん」


 遠くから、今どきな明るいJKがこっちに向かって手を振ってきた。


「あっ!!お~い!!」


 千春もそれに続いて手を振り返す。

 JKはこっちに向かって走ってきて、俺達を一瞥して、にひっと笑った。


「あんたたち、やっぱり付き合ってんじゃないの?」

「そんなんじゃないって~」


 そんな会話をしながら、JKは千春の背中をバシバシたたいている。

 そのまま、2人は一歩、また一歩と学校に向かって歩き出した。

 千春はチラッと俺に向かって、目配せをしたが、俺はその会話には入らず、彼女らの2歩後ろを陣取り追いかける。


 そう、2人の後ろを追いかける。




 *




「起立、気を付け、礼」


 そんな学級委員長の号令の後、周りの生徒たちは、がやがやと動き出す。

 ある人は、お弁当を持ち、友達と席の陣取りにいそしみ、ある人はオタク談義に花を咲かせ、ある人は購買の人気パンを目指して、戦場に向かう兵士のような面構えで走っていく。


 そんな中、俺は彼のように急ぐわけでもなく、ゆっくり、あくまでゆっくり購買に向かう。


 購買につくと、あらかた人気商品は買いつくされ、満足そうな人や、悔し涙を流しながら歩いている人とすれ違う。あっ、よく見たらさっきの人だ。


「黒ゴマあんパン、2つ」

「はい、どうぞぉ」


 俺は、購買でいつものようにあんパンを二つ買い、足早にに向かう。俺の学校での唯一の安らぎの場所へ。




 *








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