幼なじみに、呪縛霊にされちまった件。

満月mitsuki

第1話 俺が死んだ時のこと

 冬の冷たい空気が、ツンとした鼻の奥から肺に落ちていく。


 走る身体は燃えるように火照ってるのに、吸い込む空気は、痛いほどに冷たい。

 息がどんどん浅くなっていく。


「急がなくちゃ」


 俺の頭には、それしかなかった。

 足は前に踏み出せないくらいに疲れてるのに、それでも体は進んでいた。

 体力じゃなく、気力で走っているような感覚だった。



 水越翠からの電話は、突然かかってきた。


「パンダ公園で16時」


 繋がった途端、いきなり要件から入るのはいつものスタイルだ。

 俺は、時計に目をやった。


「16時? あと10分もねーじゃねえか!」

「・・・・・・遅刻したら、死ね」


 何も聞こえなかったかのように、翠は平たい口調だった。

 待って! と言おうとした時には、電話が切れていた。


「遅刻したら死んでよね?」

 翠の声が、俺の頭の中でリフレインする。


 生意気な奴め。

 高くて、か細い聞き慣れた声。

 だけど、今日はどことなく寂しさが滲み出ていた・・・・・・ような気がした。


 あと一分。

 公園で待つ翠の後ろ姿が見えた。

 サラサラとした黒髪が、肩の上で揺れていた。


 車のクラクションとブレーキ音が鳴り響いた。

 次の瞬間、握っていたはずのスマホが、曇り空にふっ飛んでいくのが見えた。


 身体に力が入らない。

 俺は身体ごと宙に浮いていた。

 横断歩道の白と紺のコンクリートがもの凄いスピードで視界に迫り、額から強い衝撃が走ったかと思うと、俺の目の前は真っ白になった。


 16時きっかり。

 俺は死体となって、待ち合わせ場所に登場した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る