第5話『トコロ?』


となりのトコロ・5『トコロ?』 


大橋むつお






時   現代

所   ある町

人物……女3  


のり子

ユキ

よしみ




のり子: ハハ、「あなた」はよしてよ。「のり子」とか「トドロ」で頼むよ。

ユキ: トドロキでしょ?

のり子: ううん、トドロ。先生がね……おまえは大したマンガも描けないのに、ボーっとしてる時間が長いって。だから気の抜けた轟でトドロ。ハハ、ネーミングがうまいよね。センスもいいんだけどなあ、がめついんだよなあ。質より量……数こなしゃいいってもんじゃないよ、マンガとかアニメは……あたしのことじゃないよ、あんたのことだろう。

ユキ: あ、ごめん。じつはね……ゆうべ、あたしの家にトコロが来たの。

のり子: トコロ?

ユキ: こんなのとね、こんくらいのとね、こーんなに大きいのと。三匹とも、まーるい目をしててね、口はこーんなに大きくて体中に毛がはえてんの。

のり子: どこかで聞いたことあんな……動物?

ユキ: ううん。言葉はわからないけど、気持ちは通じるの。多分……心で話すのよ。

のり子: あ、アニメのトトロみたい。

ユキ: ちがうよ、アゴにひげが生えてるし、着物を着てるもの。

のり子: 着物?

ユキ: ゾロっとしたコートみたいなの。アイヌのおじさんが着てるみたいな……実際トコロは北海道から来るの、北海道のトコロから……

のり子: え、北海道の……?

ユキ: 常呂。

のり子: だから……

ユキ: だから、地名なの。常識の常に風呂の呂と書いてトコロと読むの。北見市常呂町。

のり子: ああ、なるほど。

ユキ: ほら、聞こえない?

のり子: え?

ユキ: 森のざわめき……

のり子: ……風?

ユキ: トコロの森よ……トコロの風……トコロのざわめき。あ、あれ? トコロ、来てるの? トコロ……それとも森の木たちが懐かしがってトコロのまねをしているの?

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