何者。

きょんきょん

第1話

 今日も花束を片手に彼はやって来た。

 訪れては花瓶の花を取り替えてくれるので、常に瑞々しい花が飾られている。その花の名前を知らないけれど、美に無頓着な私でも、その花が美しいことは理解できる。

 彼は、私がずっと眠っている間も様子を伺いに来ていたみたいで、担当の看護師さんが点滴のチューブを付け替えながら語りかけていたことを思い出す。

〈ずっとお見舞いに来てらっしゃったんですよ。甲斐甲斐しい彼氏さんですね〉甲斐甲斐しいというよりも、花瓶に花を挿しているその姿は、十字架に向かい懺悔をしているように見えるのは、気のせいだろうか。

「香織さん。具合はどうですか?」

 優しそうな、でも、喜怒哀楽がない交ぜになったような顔の男性が、ベッドの横に腰掛けている。

 彼は、吾妻孝平あづまこうへい、私の婚約者―――らしい。

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